営業破壊の徴収対策 納税緩和措置の活用を
税金や国民健康保険(国保)料(税)、社会保険料などの滞納を理由に、生存権を脅かすような差し押さえが全国に広がっています。各地の民主商工会(民商)では中小業者の営業と暮らしの実態を無視した強権的な徴収行政を許さず、納税者の権利を主張して納税緩和措置の活用を進めています。Q&Aや識者の解説を紹介します。
Q&A 税・保険料の納付対策
Q 滞納したときには
Q 地方税が払えない
Q 国保料(税)が高過ぎる
Q 社会保険料が負担に
Q 「納税催告書」が来た
Q 預金まで差し押さえ
地方税滞納で差押 自治体交渉で売掛金とりもどす
売掛金の差し押さえなど不当な徴収行政に各地の民主商工会(民商)が立ち向かっています。納税者の権利や納税緩和措置制度を学び、自治体と交渉して差し押さえを解除させています。
広島・三原民商のNさん=建設=は先ごろ、地方税の滞納問題で仲間と一緒に三原市と交渉し、差し押さえられていた売掛金の配当処分を阻止しました。Nさんは「仲間の助けに感謝」と喜んでいます。
高過ぎる市民税や国保税が2年前から1割も上がり、Nさんは払いたくても払えない重税に苦しめられていました。平成23年分以降の市民税と国保税で約100万円の滞納を余儀なくされ、市に売掛金13万円を差し押さえられました。
対策会議で相談
困り果てたNさんは2月下旬、民商に入会し、要求解決道場に妻・和恵さんと参加。「売掛金が入らなければ商売も生活もできない」と打ち明けました。仲間と納税者の権利や納税緩和制度、売掛金の差し押さえはあってはならないことを学びました。
2月28日、民商の仲間と市を訪れると、税制収納課職員は「(Nさんの)自主的な納税が見込めないと判断し差し押さえに至った」と回答しました。
民商役員らは事態を重く受け止め、Nさんの売掛金の差し押さえ解除を求める対策会議を開催。「なんとしても頑張りたい。皆さん協力してください」と訴えるNさん夫婦に、参加した西村善郎会長ら役員は「力を合わせていこう」と激励しました。
集団で分納行動
3月6日、三原市との交渉には9人が参加。Nさんは「家計表」を示して商売と生活の厳しい状況を説明し、差し押さえの解除を強く要求しました。「事業の見通しは厳しいのではないか」と話す市に、西村会長らは「Nさんは納税の意思はある。商売や生活を危機に陥れるな」と厳しく迫りました。1時間の交渉の末に市は、Nさんに滞納税金の自主的な納税を求めつつ、差し押さえた売掛金の配当処分はしないと回答しました。
民商は2年前から毎月、集団分納行動に取り組み、払えるだけの税金を分納している会員は、市に差し押さえや配当処分をさせていません。3月の集団分納行動にNさんも参加し、分納。後日、売掛金がNさんの口座に入金されました。
Nさんは「私たちだけではどうにもならなかった。皆さんの支援のおかげ」と喜んでいます。
社会保険料滞納 年金事務所交渉で差押を撤回
新潟民商のMさん(仮名)=警備=は先ごろ、社会保険料の滞納を理由に差し押さえ予告を受けていましたが、民商と一緒に年金事務所と交渉し、差し押さえを撤回させました。「これで商売を継続する展望がもてた」と喜んでいます。
警備会社を経営するMさんは、元請けからの売掛金入金が滞り、社会保険料の納付が遅れ、約270万円の滞納となっていました。Mさんは納付が遅れるごとに年金事務所に出向き、話し合いながら誠実に納付を続けてきました。しかし3月13日、突然に新潟東年金事務所から「差押予告通知書」が送付されました。
驚いたMさんは、すぐに担当者に電話しましたが、「上が決めたことなので覆せない。あなたの商売がつぶれたとしても、年金事務所には関係ない」と暴言を吐きました。
悩んだMさんは新潟民商に相談。3月18日、役員らと一緒に年金事務所と交渉しました。野上昇副会長、藤崎清一副会長が同席。Mさんが電話での職員のひどい対応を告発、役員からは納税緩和措置の適用を含めた適切な対応を強く要望しました。
年金事務所の担当者は「私たちの目的は会社をつぶすことではない。差し押さえありきでなく、納付計画を立てて社会保険を継続してもらいたい。再度、話し合いましょう」と回答。差し押さえを撤回し、納付計画の相談に応じることを約束しました。
Mさんは「社会保険労務士や弁護士にも相談しても解決できなかったが、民商に相談しすぐに解決した。民商の集団の力はすごい」と喜びを語っています。
急増する公的機関の差押 納税緩和措置で営業を守ろう
「社会保険料が納められず月5万円を分納していたにもかかわらず、売掛金が振り込まれた銀行口座を差し押さえられた」(石川)「市税や国保料を分納している市民に自治体が一括納付を迫る文書を送り付けた」(新潟)「国保料の滞納を理由に銀行預金を差し押さえられた」(大阪)―。強権的な差し押さえが各地で起きています。特に地方税や社会保険料滞納による差し押さえが目立っています。
背景に貧困の拡大
払えない世帯が増えているのは、自公政権が進めた構造改革路線と、それを引き継いだ民主党政権によって格差と貧困が拡大したことが大きな要因です。
地方自治体は収納率を引き上げるため徴収の外部委託や、徴収組織を共同化した地方税回収機構を立ち上げて強権的な徴収を行っています。
さらに、2007年度からの国が地方交付税の削減と併せて所得税を減らして住民税を増やすことで3兆円の財源を地方に移した税源移譲が徴収強化に追い打ちをかけています。国税と地方税の徴収をめぐって「対立」構造が深まり、厳しい滞納処分が乱発されています。
国保料(税)の滞納を理由にした差し押さえ世帯数は21万277件、799億4000万円に上っています(11年度)。前年の18万7328件、733億6000万円から増大しています。国保料(税)を払えない世帯は389万世帯に上り、加入世帯の約2割を占めています。
県の地方税滞納整理機構を立ち上げた愛知県は1万941件、44億2000万円を差し押さえました(11年度)。前年の9285件、36億9000万円から急増しています。
年金保険料の問題では2011年1月、国が社会保険庁を解体し日本年金機構をスタートさせてから徴収が強まりました。国民年金の差し押さえ件数は12年度上半期だけでも2527件。厚生年金保険では滞納事業所は加入者の1割を超える18万4859件に上り、差し押さえられた事業所は1万989件となっています(12年度)。
消費税滞納がトップ
また、国税では増税に向け滞納整理が緊急課題となっている消費税の新規発生滞納件数は62万6487件、約3220億円と国税の滞納額のトップです(11年度)。
こうした滞納を一掃するため、一括納付や払えきれない場合は分割納付を強要。最後は生存権的財産である生活存続のための預金や労働債権も含まれる売掛金の差し押さえを強行しています。
憲法は、国民の生存権を保障しています。基本的人権を守るためには、生活費非課税と応能負担の原則が欠かせません。
消費税増税を中止させ、「社会保障と税の一体改悪」をやめることが、過酷な差し押さえを解消する最善の道です。併せて納税緩和措置を大いに活用することが大事です。
全国商工新聞(2013年5月13日付) |