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  トップページ > 税金のページ > 地方税 > 全国商工新聞 第3067号4月15日付
 
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児童手当差押 違法認定 判決詳報=鳥取

 鳥取地方裁判所は3月29日、預金口座に振り込まれた児童手当13万円を差し押さえ、滞納していた県税に充てた鳥取県の処分を「権限を乱用した違法なもの」と断罪しました。児童手当を含めた差し押さえ相当額の返還と国家賠償請求に基づく慰謝料(25万円)の支払いも命じました。判決言い渡し直後、原告のTさん=不動産=と弁護士、民商会員らは「勝訴」の垂れ幕を掲げ、喜びにわきました。

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「勝訴」の垂れ幕を掲げ喜ぶ、原告と弁護士、民商会員ら

 原告のTさんは病弱な妻と子ども5人の7人家族で、長引く不況で本業の収入が減り、個人事業税など約29万円を滞納せざるを得ない状況になっていました。
 しかし、県は2008年6月11日、それまで2カ月半にわたり残高が73円となっていた銀行口座に児童手当13万円が振り込まれた約9分後、預金を差し押さえ、同日中に滞納税金に充当する配当処分を行いました。
 児童手当は子どもの教育費や給食費に充てる予定でした。その後、子ども1人が高校中退を余儀なくされました。
 児童手当は児童手当法で差し押さえが禁止されています。
 今回の判決では、口座に振り込まれると他の財産と判別できなくなるため、差し押さえは原則可能とする過去の判決を踏まえながらも、県は前年(07年)に行った預金調査から「児童手当が振り込まれる可能性が高いことを認識しつつ、あえて児童手当の振込み時期に合わせて差し押さえを実施したと推認される」と認定。
 その上で、「県は預金口座に振り込まれる児童手当を原資とした租税の徴収を意図し、実現した。このような県税局職員の主観面に着眼すれば、差押禁止債権である児童手当受給権の差し押さえがあったと同様の効果が生じている。差押処分を取り消さなければ、児童の健全育成を目的とする児童手当法の趣旨と正義に反する。差し押さえ処分は権限を乱用した違法なもの」と断罪しました。

徴収行政是正へ 共同を広げ支援
 違法な処分から約5年。原告と弁護団、支援した民商の仲間はこの裁判闘争を通じて、県の違法な徴税業務の実態を克明に示してきました。この間、鳥取県民主商工会連合会(県連)と鳥取民商は鳥取県労働組合総連合、鳥取県民主医療機関連合会、新日本婦人の会鳥取県本部、全日本年金者組合鳥取県東部支部に呼びかけて「児童手当返還請求訴訟を支援する会」を結成。署名運動や学習会、県や県税事務所への抗議・交渉に取り組み、裁判では傍聴を重ね、Tさんを全面的に支援してきました。
 原告の要請を受けた浦野広明税理士が県の違法性を指摘する鑑定書を提出。国会では09年にこの問題が取り上げられ、日本共産党の佐々木憲昭衆議院議員や仁比聡平参議院議員(当時)が質問し、財務大臣から「児童手当は子どもの養育に使うという目的に達せられるべきものだ」との答弁を引き出し運動の力となってきました。
 この日の裁判には、傍聴席に入りきらない人が詰めかけ、裁判長が法廷内に臨時席を設けて傍聴を許可する異例の措置が取られました。
 鳥取民商の奥田清治会長は「憲法25条の生存権にかかわる裁判に勝利できて良かった。同じような事例で悩む中小業者を励ますもの。県は控訴を断念すべき」と語ります。
 Tさんは「裁判は、金を取り戻すという意味でたたかったのではない。児童手当の差し押さえに苦しむ不当な行政に歯止めをかけたいという思いからです。全国によい影響が広がれば、裁判をやった意味があると思う。民商の仲間の支えがあったので頑張ることができた。支援してくれた方々に感謝したいです」と話しています。

この判決を全国に 原告代理人弁護士・高橋真一さんが解説

【判決の意義】
 鳥取地裁は原告・弁護団の主張・立証を全面的に採用するかたちで、児童手当の趣旨、鳥取県の悪質で違法な徴税業務の実態、原告の困窮状況を的確に把握し、「これまでの裁判例にはない新たな判断」(別項)を示した上で、鳥取県の行った差押処分は「権限を乱用した違法なものと評価せざるを得ない」、これを取り消さなければ「正義に反する」と判示し、児童手当を含めた差し押さえ相当額の返還のみならず、国家賠償請求について25万円もの慰謝料を認めた。
 最高裁は、差押禁止財産であっても預金口座に振り込まれれば差押えは原則可能としており、最近の東京高裁の判例は、山梨県が差押禁止財産である年金等を狙い撃ちにしたなどとの原告の主張を一顧だにしない極めて厳しい判断を下している。
 また、長引く不況の中で中小零細企業や生活困窮者が税の滞納を余儀なくされる中で各地の税務当局は血も涙もない強引な取り立てを強化している。
 このような状況の中で、鳥取県民主商工会連合会の全面バックアップを受けたわれわれ原告・弁護団が、実質的全面勝訴をかちとった意義は極めて大きい。

【判決で鳥取県が断罪された内容】
 この裁判は、提訴から判決まで実に3年6カ月の時間を要したが、鳥取県は一貫して「児童手当が振り込まれる口座であるとは知らなかった」「原告は悪質な滞納者であるので、差し押さえを実施せざるを得なかった」と主張し続けてきた。
 これに対し、鳥取地裁は「被告の主張を裏付ける的確な証拠もない」、証人尋問の際の被告職員について「曖昧な証言に終始」「供述態度も芳しくない」などと判示し、県の訴訟に臨む姿勢を切り捨てた。そして、「県税局職員は、原告の経済状態が楽ではないことを認識しながら」「児童手当法の趣旨に反し、原告家族の生活に重大な不利益を及ぼしうることは容易に想定できたはずであり、にもかかわらず、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件差押処分を執行」などと判示し鳥取県の違法を断罪し、「子を持つ父親として多大な精神的苦痛を被ったと認めるに難くない」と締めくくり、鳥取県に対し児童手当を含めた差し押さえ相当額の返還と慰謝料の支払いを命じた。

【最後に】
 原告の被った甚大な被害を完全に回復することは不可能であるが、本件訴訟の弁護団の一人として、児童手当の意義、鳥取県の違法な徴税業務の実態を問うた鳥取地裁での大衆的裁判闘争が実質的全面勝訴となった影響が全国に波及し、税務当局の違法行為により二度と同じ悲劇が繰り返されないことを切に願う。
 なお、鳥取県は控訴を検討しているようであるが、その際は、弁護団は控訴審も受けて立ち、広島高裁において引き続き鳥取県の違法を糾弾していく。

* * *

〈別項〉
これまでの裁判例にはない新たな判断(判決文より抜粋)
 児童手当法15条の趣旨に鑑みれば、処分行政庁(県)が差し押さえ処分に先立って、差し押さえの対象として予定している預金債権に係る預金口座に、近いうちに児童手当が入金されることを予期した上で、実質的に児童手当を原資として租税を徴収することを意図した場合において、実際の差し押さえ処分(差押通知書の交付)の時点において、客観的にみても児童手当以外に預金口座への入金がない状況にあり、処分行政庁がそのことを知り又は知り得るべき状態にあったのに、なお、差し押さえ処分を断行した場合は、当該処分は客観的にみて、実質的に児童手当法の精神を没却するような裁量逸脱があったものとして、違法なものと解するのが相当である。

全国商工新聞(2013年4月15日付)
 

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