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  トップページ > 税金のページ > 徴税攻勢 > 全国商工新聞 第2839号 7月21日付
 
解説・「納税猶予」の活用法  角谷啓一税理士
 

第1回 徴収行政側には納税猶予等の措置を承認すべき職務上の義務

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滋賀県商工団体連合会(県連)が3日に行った「滞納処分対策学習会」。角谷啓一税理士の講演を受け、会員、役員ら58人が活動を交流しました
■税金の分納制度は
 日本大学の北野弘久名誉教授は、本紙(2月11日号)で「憲法が要請する応能負担の原則の考え方は、徴収面にも及ぶ」と指摘し、さらに「一時に納付困難な場合は、課税庁は納税の猶予等の措置を積極的に承認すべき職務上の法的義務を負う」と言及しています。

  北野教授の指摘を裏付ける納税の緩和措置として「納税の猶予」(国税通則法46条2項)、「換価の猶予」(国税徴収法151条)、「滞納処分の停止」(国税徴収法153条)などの制度があります。

  消費税の免税点引き下げ、定率減税の廃止、住民税増税など大衆増税の進行と異常な原油高をはじめ諸物価が高騰している今日、納税の緩和措置の必要度が増してくることは明白です。
  そうした中で、徴収行政を行う側は、滞納に至った経緯や納税者の現況等を調査し、判断し、見極め、「徴収上の公平」も念頭に置きながら、納税者個々の実態に即応した処理を積極的に行う必要があります。

  そして、その判断の根底には、納税者の生存権や生存権的財産権を保障する憲法理念が貫かれていなければなりません。
  しかし、最近の徴収現場では国も地方も「早期一括納付」「強制徴収、差し押さえ処分」を振りかざすばかりで、徴収関係法令や「納税の猶予等の取扱要領」(後述)などにも反する事例が目立ち、全国各地から納税者の悲鳴が聞こえてきます。

  そもそも納税の緩和措置とは、国税徴収法に基づく強権力行使(差し押さえ・公売など)だけでは「徴収の実」を上げることができないので、一定の事由がある者に対しては分納を承認したり、滞納処分の執行を停止するなどの措置を講じ、強制的な徴収を緩和する制度のことです。

  言うまでもなく、現実の徴収行政では、強権力行使の対象となるのはごく一部で、大部分は納税の緩和措置の制度によって滞納問題の解決が図られてきました。これを「強権力行使優先」路線に逆戻りさせることは、決して徴収行政にとっても得策とは言えません。また次に述べる、自ら定めた「納税の猶予等の取扱要領」にも反することになります。

■「取扱要領」とは
納税の猶予等の取扱要領の積極面
  「納税の猶予等の取扱要領」の冒頭の総則では、「強制的な徴収手続き等を緩和することが妥当とされる場合がある。納税の猶予等の制度は、このような場合に納税者の実情に即応した措置を講ずることにより、納税者との信頼関係を醸成し、税務行政の適正・円滑な運営を図ることを目的とする」と、納税の猶予等の緩和措置を適用する積極的意義を述べています。

  その上で「特に納税者から即時に納付することが困難である旨の申し出等があった場合には、その実情を十分調査し、納税者に有利な方向で納税の猶予等の活用を図るよう配意する」とし、また第3章「換価の猶予」の項では「納付困難を理由として分納の申し出等があった場合には、そのまま放置することなく、換価の猶予に該当するかどうかを検討するよう配意する」としています。
  まさに北野教授が指摘した通り、徴収行政側に「納税の猶予等の措置を積極的に承認すべき職務上の法的義務を負」わせているのです。この点が最も大事な部分です。

  ところで「納税の猶予等の取扱要領」は昭和51年6月、国税庁の「通達」として制定されたものです。具体的には、「納税の猶予」「換価の猶予」に関する取り扱いと、それに付随する担保・納付委託・納付能力調査・延滞税の免除などの取り扱いについて網羅し、体系的に整備したものです。

行政を拘束する「通達」
  「通達」とは国税庁内部の職員、つまり行政側を拘束する性格のものです。それだけに、中には「徴収上の公平」を確保する見地から、納税者側にとって「厳しい」規定もあります。しかし、前述の総則部分はじめ活用すべき積極的な規定が多々あります。担当官の不勉強による無知も重なり、前述のように、「納税の猶予等の取扱要領」さえも無視する強権的な徴収行政が横行している昨今、この通達を活用する意義は大変大きいものがあります。

■運動の到達点は
 民商・全商連は滞納問題の取り組みの中で、貴重な到達点を築いてきました。最近では川口民商が連続して通則法46条2項4号「著しい損失をうけたことによる納税の猶予」の許可をかちとり、2・8全国中小業者決起大会での国税庁交渉で、(1)誠実な納税者には換価の猶予を認め、財産がなければ停止も行う(2)生存権的財産は差し押さえしない‐などの回答を得ました。

  さらに、京都・亀岡民商では火災で自宅が焼失、老母が焼死という中で申請した「納税の猶予」が「申請書に納付計画が記されていない」という理由だけで不許可になる事例が発生しました。これに対し異議を申し立ててたたかい、審査請求段階で「納税の猶予許可」の裁決をかちとることができました。

  このような到達点は、まっとうな徴収行政に近づけていく点で、積極的な意義を持つものです。例えば、通則法46条2項4号「著しい損失をうけたことによる納税の猶予」は、該当する事例には普遍性があり、該当事例が多くあると思われるのに、徴収実務における実際の適用例は極めてまれです。

  なぜかというと、「申請を出させたり、猶予該当適否の判定、後日の延滞税免除の措置などが面倒」「担当官の勉強不足」といった事情があるからです。そこを突破し、行政側の消極性と不勉強を改めさせ、到達点を切り開いてきたという点で、大いに評価できるものです。この到達点を切り開いてきたキーワードが「納税の猶予等の取扱要領」の活用だったわけです。

■学習と実践を
 最近、大阪、千葉、滋賀などで「納税の猶予等の取扱要領」の学習会が実施され、全国に学習と実践の取り組みが広がりつつあります。この際、「納税の猶予等の取扱要領」をしっかり学び、これを大いに実践し、全国で滞納問題での運動の飛躍をかちとりましょう。

 
   
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