大工、左官、とび等の所得税通達廃止
石川幹雄税理士が解説
国税庁は昨年12月17日、「大工、左官、とび等に対する所得税の取り扱いについて」の新しい法令解釈を通達。これにより、大工、左官、とび職等の所得税の計算方法が大きく変わります。税理士の石塚幹雄さんに解説してもらいました。
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国税当局は昨年12月17日付をもって、昭和30年2月22日付直所五‐八「大工、左官、とび等に対する所得税の取り扱いについて」通達を廃止しました。
前記業種等の一人親方の賃金や出来高払いによる収入が年間450万円以下の場合、給与収入と事業収入との区分をあらかじめ通達によって定めたものです(右表)。したがって給与所得控除と事業部分にかかる必要経費を控除した残りが所得金額となります。これにより納税者に対する煩雑な経理負担が軽減されるだけでなく、一定の減税効果もあり「応能負担原則」を充足するものとなっていました。
今度の廃止通達で国税当局は、その理由として「大工、左官、とび職等の就労形態が多様化したことなどから所要の整備をした」としています。しかし、消費税制の拡大強化の方向の中で、元請け事業者の「仕入控除」にかかる一人親方の「給与か、事業か」の判定を明確化させることも重要なポイントなのでしょう。
今年は従来通り
国税庁は平成21年分の確定申告についてはこの通達によって区分申告しても「差し支えない」としていますが、平成22年分からは雇用契約(給与)なのか請負契約(事業)なのか実態に即して厳密に判定することを求めています。
不況で高まる通達の必要性
現在進行中の大不況は例外なく中小業者を襲い、多くの中小業者が倒産、解散、事業縮小を余儀なくされています。とりわけ建設不況は深刻で一人親方的建設従事者が増加しています。従前の通達の必要性は一層増しているのが実態です。
事業所得者と判定されれば収支計算が必要となり、必要経費の書類等の保存が不十分な場合は、前年と同程度の収入でも必要経費が少ないために高額な税金の納税を迫られる可能性があります。現に1980年代にこの通達の「使用禁止」が税務職員に指示されたときは、大きな混乱となりました。職員が事業者の必要経費として「軍手、作業着、交通費」程度しか認めなかったことが原因で、再びこの混乱が起きることが懸念されます。
平成22年分の確定申告に向けて今年から対策をとる必要があると同時に、従前の通達を復活させる運動が求められます。
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