消費税52万円還付勝ち取る 多数の経費を認めさせ=岩手・一関民商
遠藤了さん 「補助金課税」に抗議
グループ補助金は不課税にすべきと訴える一関民商の遠藤さん
東日本大震災で被災した企業や工場、商店街などの復興のために交付される「グループ補助金」。これに岩手・一関税務署から課税を迫られていた一関民主商工会(民商)の遠藤了さん=自動車整備=は、民商の仲間と一緒に粘り強く税務署に抗議し、6月15日、消費税52万6800円の還付を勝ち取りました。
「ひと区切りついたが、調査官が誤った収入認定を行い、納税者に対して十分な説明ができなかったことは許せない。県内に限らず他県でもグループ補助金に課税されている事例があるのでは。全容を明らかにして補助金を不課税とする運動が必要」と語っています。
一関税務署から遠藤さんに税務調査の連絡が入ったのは2016年10月。菊池郁朗副会長ら民商の仲間とともに、「自主計算パンフレット」を活用して納税者の権利を学び、自分で付けた帳簿にミスがないことを確信し、11月から調査を受けることにしました。
調査対象は2013年から15年までの所得税と消費税。遠藤さんは自主記帳・自主計算を貫いていたため、税務署は付け入る隙もありませんでした。調査結果は経費の計上が漏れていたため、2万円の所得税が還付になりました。
ところが調査から7カ月後の2016年6月、調査官は遠藤さんが震災後に県と国から受け取った570万円のグループ補助金が営業収入になり、課税対象になるといい出しました。
遠藤さんと民商の仲間は「グループ補助金がなぜ課税対象となるのか」「所得税法42条(国庫補助金等の総収入金額不算入)、43条(条件付国庫補助金等の総収入金額不算入)が適用されるはず」「2014年に仙台国税局に問い合わせをした時、グループ補助金は直接的に課税されないと言っていた」と抗議を重ねたところ、調査官は回答不能に陥りました。
遠藤さんは仙台国税局に電話を入れ、グループ補助金を収入に含めるかどうかを確認すると、「グループ補助金は収入に含まれない」との回答を得ました。
遠藤さんは調査官にそのことを伝え、「いいかげんなことを言って、税金を課税したらダメだろう」と諭すと、調査官は「長期出張」との理由で居なくなり、調査は3カ月にわたって中断。その後、代わりの調査官によって調査は再開されたものの、何度抗議しても「グループ補助金は課税される」と繰り返すだけでした。
遠藤さんは民商の仲間からアドバイスを受けながら「グループ補助金は非課税にされるべき」と求めた意見書や請願書を作成し、一関税務署と複数回にわたって交渉。今年1月には浦野広明税理士の支援を受けてあらためて一関税務署と交渉。補助金への課税撤回を迫りました。
その後、5回の交渉の中で国税局が「グループ補助金は課税されない」との見解を一転させて「課税対象になる」と主張していることが判明。一関税務署は「仙台国税局が関与しているので補助金が課税対象になることはどうにもならないが、遠藤さんが納得するような解決方法を見つけたい」と回答しました。
民商では抗議を続けながら、税金対策部で再度遠藤さんの申告を見直し、計上できる経費があることを見つけました。
税務署は570万円の補助金を収入認定したものの、遠藤さんは多数の経費を認めさせ、所得税は9万5000円の追徴になりましたが、消費税は還付になったものです。
補助金は課税対象外
立正大学法学部客員教授 税理士 浦野 広明さん
遠藤了氏(以下「遠藤氏」)が営む自動車整備工場および事務所は、2011年3月11日の東日本大震災および同年4月7日の余震によって損壊した。遠藤氏は、岩手県中小企業等復旧・復興支援事業費補助金の交付を受け、事業再建にこぎつけた。
遠藤氏が受領した復興補助金は、法規に基づく「非課税」ではなく、最初から課税されることにならない「課税対象外」(不課税)である。
なぜなら、所得税の課税対象である事業所得の金額は、総収入金額から必要経費を控除した金額である。
総収入金額は事業から生じた収益のことである。この収益とは企業が外部に商品の販売をし、役務を提供することにより、対価として受け取る金額である。
復興補助金は、日本観測史上最大の地震に被災した地域の経済の復興と雇用の場の回復を図るため、被災した中小企業の店舗・工場等の復旧経費を補助するものであり、事業から生じた収益(総収入金額)ではない。総収入金額でないのであるから、課税の対象から除かれる。
総収入金額でないものを課税することは、憲法84条および30条違反に加えて、生存権的財産を侵すものであり、25条および29条違反となる。
税務署は意味不明な説明でつくろうものの、実質的に復興補助金を課税対象外とする苦渋の決断をしたのである。
全国商工新聞(2018年7月30日付) |