児童手当用の口座全額 熊本県が違法な差し押さえ
県連など 総務省に指導求める
「熊本ネットワーク」が行った政府交渉
熊本地震によって個人事業税の支払いが滞った事業者に対して、熊本県が児童手当振り込み専用の口座にあった預金を全額差し押さえるという事態が発生。熊本県商工団体連合会(県連)も参加する「いのちとくらし・平和を守る熊本ネットワーク」は4月25日、違法な差し押さえ行為を改めるよう県への指導を総務省に求めました。
政府交渉には井芹栄次県連事務局長が参加。総務省は「広島高裁判決(鳥取県が児童手当が振り込まれる口座を差し押さえたのは違法と判断)は周知している」「県独自で行っていることを総務省として指導・調査することはできない」との答弁に終始しました。
事業所が被災し税の支払い滞る
児童手当専用の口座を差し押さえられたのは医療関係の事業者で、熊本地震によって事業所が被災し、1カ月間使えなかったため個人事業税の支払いが滞りました。県から督促状が送られてきたことから、妻は県と相談して毎月分納していましたが、事業主が病気になったことで分納が途絶えたため、県は2017年8月25日、預金口座にあった6万9462円全額を差し押さえました。
この口座は児童手当を受給するために開設したもので、小学校の給食費や保育園の費用などが引き落とされていました。8月末に給食費などが引き落とせなかったために、差し押さえに気付いた妻が共産党の「熊本市議会だより」を見て相談。山本伸裕県議が対応し、11月27日、井芹県連事務局長と熊本民商の元島弘明事務局長も話を聞きました。
通帳の記録を見ると差し押さえが行われる前の半年間、児童手当の入金が2回で20万円、それ以外の入金は2回で合計2万4000円。子どもの給食費や保育費などが残高不足にならないように妻が家計をやりくりして入金したものです。
広島高裁の判決無視の理屈強弁
山本県議は11月定例議会で、広島高裁判決を踏まえこの問題を取り上げ、県の差し押さえの違法性をただしました。さらに「県の言い分は鳥取県の差し押さえは児童手当が振り込まれた9分後に差し押さえたが、本県の場合は振り込まれた2カ月後に差し押さえたもので、児童手当を狙い撃ちにしたのではなく預金債権を差し押さえたというもので、そんな理屈がまかり通るのか」と批判しました。
総務部長は「児童手当が口座に入金されると、預金債権は差し押さえ等禁止債権としての属性を承継しないとされている最高裁判例に基づいて、適正に差し押さえを執行している」「広島高裁の判決は、児童手当の振り込み直後に口座預金を差し押さえた個別具体的な状況から児童手当受給権そのものの差し押さえと変わらず違法とされた例外的なケースと認識している」と強弁しました。
県連・民商では共産党の県議団と今後の対応を話し合い、国会でも取り上げてもらうことを要請しています。
熊本県は誤り正せ 高橋 新一さん=鳥取児童手当事件を担当した弁護士
熊本県の「最高裁判例の考え方に基づき、適正に執行している」という答弁は違法と断罪された、数年前の鳥取県と全く同じものだ。行政権を適正に執行すべき熊本県が、最高裁判決を理解していない、ゆゆしき事態である。
最高裁判決をながめていても、どのような場合が違法となるのか、さっぱり分からない。わずか数行の最高裁判決は、どのような場合に差し押さえが違法となるかについて、一切言及していないからである。具体的事例において、どのような場合が違法となるのか、これを示すのが、地方裁判所や高等裁判所の役割である。そして、違法となる場合の典型例を示したのが、鳥取民商が中心となり獲得し、全国の徴税業務を改めさせた、2013年11月27日の広島高等裁判所松江支部判決である。
最大の問題は、熊本県が「児童手当の振り込み直後に口座預金を差し押さえるといった個別具体的な状況」という答弁。広島高裁判決を理解できておらず、違法とされる場合について間違った認識である。
広島高裁判決は、「実質的」に判断して、「児童手当を受ける権利自体を差し押さえたのと変わりがないと認められる」場合を、違法としている。「鳥取は、差し押さえが児童手当の振り込み直後だから違法」だが、「熊本県は、差し押さえが児童手当の振り込みから約2カ月経過しているから適法」と考えているのであれば、明らかな誤りである。
広島高裁判決は、当局が差し押さえ前に行った事前調査で何を認識したか、差し押さえられたものの大部分が児童手当によって構成されていたかを、慎重かつ冷静に分析・認定し、鳥取県を違法と断罪している。
熊本県には、最高裁判決と広島高裁判決の正しい理解、「次代の社会を担う児童の健やかな成長に資することを目的」とした児童手当法の適正な運用、速やかな児童手当の返還を期待する。
全国商工新聞(2018年5月21日付) |