年末の税務(下)=税理士・菅 隆徳さん
今回は消費税の留意点について解説します。年末までに提出しないと「手遅れ」になる書類があります。また、年末までに必ずチェックしておかなければならない重要事項があります。個人事業者の場合です。
(1)大事な消費税の判定ポイント
個人事業者の場合、来年の消費税の課税を考える時、基準期間の課税売上高は昨年の課税売上高です。その課税売上高について、1000万円と5000万円をポイントとして、重要な判定が必要です。
(イ)1000万円以下になった↓来年は免税
(ロ)1000万円を超えた↓来年は課税
(ハ)5000万円以下になった↓来年は簡易課税が選択可能になる。または以前に簡易課税の選択届出をしている人は簡易課税の復活(自動的に簡易課税になるので要注意)
(ニ)5000万円超になった↓簡易課税は使えない(すでに簡易課税で申告していた人は要注意です)。
(ホ)改正点があります。昨年の課税売上高が1000万円以下でも、今年の1月1日から6月30日までの課税売上高が1000万円を超えれば、消費税は免除されないことになりました(平成24年度改正)。課税事業者になります。免税事業者だと思っている人も、急いで今年の上半期の課税売上高をチェックしてください。なお、上半期の給与などの支払額が1000万円以下であれば免税とされています。以上をベースに以下の「届出書」を検討してください。
*(イ)(ロ)とも、1000万円はその事業年度が免税事業者の場合は税込金額、課税事業者の場合は税抜き金額で判断します。
(2)「消費税簡易課税制度選択届出書」
すでに課税事業者、または免税事業者だったが2018年から課税事業者になる人で、消費税の税額計算をすると「一般(本則)課税」より「簡易課税」の方が有利な人は、年末までにこの届出書を税務署へ提出してください。ただし、一度選択すると最低2年間は継続が必要です。なお、簡易課税を選択できるのは基準期間の課税売上高が5000万円以下の事業者です。
(3)「消費税簡易課税制度不適用届出書」
来年は大きな設備投資(車両や機械など)があるので、その分、仕入れ税額控除をして消費税を減らしたい人は、簡易課税のままだと仕入れ金額に応じた仕入れ税額控除ができませんので、簡易課税をやめて一般課税に戻る必要があります。年末までにこの届出書を税務署に提出してください。
また、従業員が減り、外注費が増えた場合、一般課税が有利な場合があります。簡易と一般とどちらが有利か試算が必要です。これは実際に計算してみないと分かりません。自分で必ず計算して見ましょう。全商連「その気になれば誰でもできる小法人の決算・申告」が役立ちます。課税売上高が5000万円以下になって、簡易課税が復活する人は、「一般課税」が有利なら、この届出書を出します。
(4)「消費税課税事業者選択届出書」
現在は免税事業者だが、来年は大きな設備投資や店舗改装の予定がある場合などは、免税事業者のままでは仕入税額控除が受けられません。あえて課税事業者を選択して消費税の還付を受けようという人は、年末までにこの届出書を税務署に提出してください。ただし、一度選択すると、最低2年間は継続します。
免税事業者が課税事業者を選択する場合には、平成22年度改正(自動販売機による不正還付の防止措置)があります。この改正により、課税事業者となった2年間に、税抜き100万円以上の固定資産を取得すると、その固定資産を取得した年を含め3年間は(イ)免税事業者となることはできない(ロ)簡易課税を選択することもできないことになりました。ですから、この選択の有利、不利は、この(イ)と(ロ)も踏まえて判断しなければなりません。
(5)「消費税課税事業者届出書」
あらたに課税事業者となる人は併せて提出してください。
*法人の場合は(2)から(4)の届出をその法人の決算期末まで(申告期限までではありませんから厳重注意)と考えて書類を提出してください。
(6)帳簿および請求書などの保存
一般課税の場合、消費税の仕入れ税額控除を行うには、課税仕入の帳簿への記録、保存、請求書等の保存が要件となっています。税務調査の現場では、これらの不備を突いて、税務署が仕入税額控除否認を言ってくることが起きています。一般課税の場合、しっかりした記帳と請求書等の書類の保存に十分に留意しましょう。
全国商工新聞(2017年12月4日付) |