厚労省交渉などの運動実り、社会保険料滞納で差し押さえ換価の猶予で解除に=北海道・帯広民商
事業継続あきらめず
差し押さえ問題などを取り上げた全中連の厚生労働省交渉(9月16日)
北海道帯広市で運送業を営む鈴木雅夫さん(仮名)運送=と恵子さん(仮名)夫妻。社会保険料を納付することができず、一度は差し押さえられた売掛金が換価され、会社をつぶされかけましたが、帯広民主商工会(民商)の仲間と出会い、事業継続の道を切り開きました。10月17日、職権による「換価の猶予」を認めさせ、10月以降の差し押さえを解除させました。
「もう事業を続けるのは無理と何度もあきらめかけた。民商の仲間や同業者が力を与えてくれたからこそ、乗り越えることができた。ここ数カ月はわずかながらも利益が出るようになった。何としても事業を続けたい」と2人は決意しています。
重い社会保険料
鈴木さん夫妻は2年半ほど前に運送会社を開業。8人の従業員を雇い、長距離トラックを走らせて経営を軌道に乗せようとしましたが、状況は不安定のまま推移しました。昨年6月ごろから毎月100万円を超える保険料の納付が滞るように。10月に入ってから帯広年金事務所から呼び出しがあり、恵子さんが出向きました。
「納付できなければ差し押さえる」。その言葉を聞いて、何の知識もなかった恵子さんはあまりの衝撃で過呼吸となり、倒れてしまいました。
その後も保険料を納めることができず、滞納額は1000万円超に。差し押さえにおびえながら事業を続けていました。
つぶれても払え
今年6月に入ってから差し押さえの通知が届き、恵子さんは重い足取りで年金事務所に出向きました。
職員は「月末まで3カ月分を納入しなければ相談に応じられない」と通告。「300万円を納付すると従業員に給与を払えません」と恵子さんが訴えると、総務課長は「じゃ、払わなければいいじゃないですか。滞納分の支払いより大切なものはありません。会社をつぶしてでも払ってください」と暴言を吐き、恵子さんはしかたなく誓約書に印鑑を押しました。
「差し押さえられれば事業はつぶれる」と恐怖を感じた雅夫さんは、思い浮かんだ「帯広・年金・滞納・自殺」のキーワードを入れて携帯で検索。帯広民商のブログがヒットしました。
鈴木さん夫妻はすぐに民商の事務所を訪ね、その場で入会。志子田英明会長や事務局員と一緒に年金事務所と交渉し、「納付の猶予」を申請するとし、相談しながら納付計画を作成していました。ところが9月初旬、いきなり取引先に「財産調査」が通知されました。
「相談の最中なのに、なぜ取引先に通知をしたのか」と抗議しましたが、徴収係の上司が「納付計画は認められない。20日までにまとまった金額を納付しなければ、差し押さえを行う」と言い出しました。「納付の猶予」申請書を提出しても徴収係は受け取りを拒否。恵子さんは志子田会長と一緒に全国中小業者団体連絡会(全中連)の厚生労働省との交渉(9月16日)に参加して実態を告発。「現場の担当者に確認して対応する」との回答を得ていました。
しかし、年金事務所は9月21日、「差押調書謄本」を送り付け、滞納がなくなるまで売掛金を差し押さえることを通知。9月末に取引先2社の売掛金を差し押さえました。志子田会長らは2人と一緒に「不当な差し押さえだ」と激しく抗議し、倉林明子参院議員(共産)にも相談。日本年金機構から「9月分の差し押さえは解除できないが、10月以降の差し押さえは事業計画や担保提供などで解除できる可能性がある」との回答を引き出しました。
同業者からも「事業継続のための資金や燃料を提供する」との申し出があり、事業計画を作成して再度、「納付の猶予」申請書を提出。職権による「換価の猶予」が認められました。
納税緩和措置の活用を
社会保険料の納付が困難になった時、国税徴収法に定める「納税緩和措置」の適用を受けることができます。(1)納税の猶予(国税通則法第46条、地方税法第15条)(2)職権による換価の猶予(徴収法151条、地方税法15の5)、申請による換価の猶予(徴収法151条の2、地方税法15条の5第3項)(3)滞納処分の停止(徴収法153条、地方税法15の7)の三つの措置があります。
「納税の猶予」が認められると最長2年の分納が認められ、延滞税が減額・免除されます。また、差し押さえ解除の申請もできます。
対象となるのは震災や風水害、落雷、火災、盗難、家族の病気、事業の廃止または休止、事業の著しい損失、これらに「類する事実」などです。
「換価の猶予」はすでに差し押さえられている財産、または今後差し押さえの対象となりうる財産の換価処分(公売)を一定の要件に該当した場合に猶予し、分納を認める制度。1年以内の猶予期間で、やむを得ない事情で延長が認められる場合は最長2年。延滞税の2分の1が免除され、一定の条件の下で差し押さえの解除もできます。
民商・全商連は厚生労働省や日本年金機構との交渉で各地の年金事務所が「納付の猶予申請書」を置いていないことを指摘し、厚生労働省は「申請書を受理するように年金事務所を指導している」と答えています。粘り強く申請を受理させることが大切です。
全国商工新聞(2016年10月31日付) |