人権侵害の税務調査やめよ 愛知・岡崎民商が抗議し税務署に謝罪さす
事前通知もなく突然、税務署員が店と自宅に入り込み、まるで警察官か査察官のように振る舞う―。本人が制止しているにもかかわらず強引にレジを開けさせ、自宅では下着が入った引き出しまで調べるという「料調方式」の違法な税務調査が発生しました。愛知・岡崎民主商工会(民商)は2日、豊田税務所に出向いて厳しく抗議。林浅吉会長や豊田支部の天野正五支部長など7人が調査の無効と謝罪、税務行政の改善を迫りました。総務課長は「申し訳ありませんでした」と謝罪しました。
レジやたんすも強引に
違法な税務調査について対策を話し合う岡崎民商の役員ら
違法調査を受けたのは豊田市内で居酒屋を経営する加藤正さん(仮名)と京子さん(仮名)夫妻。これをきっかけに民商に入会しました。
税務署への抗議では林会長が「公正で民主的な税務行政を求めてきたが、事前通知もせずに一方的に脱税者・犯罪者扱いをするような違法調査に怒りを覚える。調査は無効。調査のあり方を改善せよ」と迫りました。
この行動には加藤さん夫妻も参加。正さんは違法調査をした署員の行動を詳しく話し、京子さんはそのことを思い出して涙ぐんでいました。総務課長は謝罪した上で「税務署長としての公式の回答を出す」ことを約束しました。
正さんは「本当に恐ろしかった。税務署に言いたいことも言えたし、民商は頼りになる存在。相談できて良かった」と胸をなで下ろしました。
制止無視され恐怖を感じた
7月20日午前10時過ぎ、正さんが仕込みを始めようとした時、署員がいきなり店に入ってきて調査することを告げました。正さんは頭が真っ白になりましたが、「持病の高血圧があって体調がすぐれないので、日を改めてほしい」と申し出ました。しかし、署員は聞く耳を持たず、レジを開けるように指示。中の現金を並べさせて写真を撮りました。
同じ日、自宅では2人の署員が家の中に強引に入り込み、2階に上がってタンスの中を調べ始め、下着が入った引き出しも開けるように迫りました。京子さんはどう対応したか、はっきりと思い出せないほど恐怖を感じたといいます。
帳簿持ち去りおとり調査も
翌日、署員は再び自宅を訪問し、帳簿を調べました。驚いたことに署員は加藤さんの店の伝票を示して「この日に来たんだけど、売上票はどこにある?」と質問。平然と“おとり調査”に入ったことを明かしました。
署員は調査経過書を作成して、正さんに押印を求め、帳簿などを持ち去りました。
「これからどうなるのか」とおびえた加藤さん夫妻は知人から民商を紹介され、22日に事務所を訪ねました。「私たちは逮捕されますか?」「2人ともでしょうか」と正さんは質問し、応対した事務局員はその言葉から納税者の権利を無視して強引な調査が行われたことを推察しました。
正さんは民商に入会し、24日に開かれた全商連総会方針の学習会に参加。納税者の権利や、調査時には「事前通知」が必要なことなど学び、豊田支部の仲間から励まされ、元気を取り戻しました。
25日、天野支部長など支部の仲間が調査に立ち会い、人権無視の違法調査に抗議。署員は「申し訳なかった。商売を妨害するつもりはなかった」と謝罪しました。書類を取り戻し、あらためて税務署に抗議することを伝えました。
違法調査は即刻中止を/立正大学客員教授・税理士 浦野広明さん
調査官は調査をする時、納税者に事前通知をしなければならない。そして、調査は「必要があるとき」にしかできない(国税通則法74条の2第1項柱書)。その必要性を納税者に説明することを調査理由の開示という。事前通知と調査理由の開示は憲法の適正手続きの要請である(31条、13条)。
衆議院大蔵委員会は、「税務行政の改善については税務調査に当たり、事前に納税者に通知するとともに、調査の内容を開示すること」とする適正手続に関する「請願」を採択している(第72国会1974年6月3日)。
今回、岡崎民商の会員が受けた調査は、任意調査であるのに事前通知をしないで、自宅や店舗に押しかける違法な調査の典型である「料調方式」(※)である。納税者の人権を無視した違法調査は即刻中止すべきである。
国税通則法(通則法)は、調査は「犯罪捜査のために認められたものと解してはならない」としている(74条の8)。
抜き打ち調査は憲法違反(31条、13条)、レジやタンス調査は職権濫用罪(刑法193条)、客に偽装した調査や質問応答記録書作成は通則法違反(74条の8)である。
税務署が法に従った調査をしているかどうかを、納税者は厳しく監視し、違法な権力の行使を追及しなければ、法に背いた調査が横行しかねない。違法調査に対しては、中止させるまでたたかいの手をゆるめてはならない。
※「料調方式」とは
事前通知をせずに多人数で店や自宅などに押しかける手続き無視の調査。料調とは国税局課税部資料調査課の略で、同課が主導して行ってきたことから「料調方式」と呼ばれるようになりました。
金庫やレジ、机、バッグ内などを調べ、家の中や寝室まで侵入。納税者に「強制捜査」であるかのように思わせる人権侵害の調査手法は裁判で違法と断罪されてきました。
全国商工新聞(2016年8月22日付) |