換価の猶予学んで活用 猶予期間は最長6年=角谷 啓一さん(税理士)が解説
「申請型納税(換価)の猶予」など新しい猶予制度の活用が広がっています。その一方で、「認められても2年以内で完納しなくてはならないのでは?」などの質問も寄せられています。税理士の角谷啓一さんが新しい猶予制度の改善点などについて解説します。
猶予制度は、申請による換価の猶予(別項)の創設など大きく改善されました。しかし、それだけでなく、「納税の猶予等の取扱要領」(以下「取扱要領」という)等を詳細に見ると、猶予期間の考え方など、知っておくべき重要な点が見えてきました。猶予期間の問題に焦点を当てて解説します。
1、申請時に、1年以内に完納が見込まれない場合
納税の猶予または職権型・申請型の換価の猶予(以下「法的猶予」という)を申請する際の猶予期間は、いずれも1年以内(延長で最長2年間)とされているので、初めから1年を超える申請はできません。そこで、1年以内に完納が見込めない場合、これまでの実務は「1年を超える猶予は認めない」と、申請または申し出自体を拒絶されるケースが多かったのです。しかし、見直し後は「1年を超える部分の金額は、(猶予申請書の)最終月の分割納付金額として処理すると、取り扱いが明確にされました(「取扱要領」2章1節6(4))。
2、最長何年間の法的猶予が可能なのか
猶予制度見直し前は、「新規の滞納発生分を含め必ず1年以内に完納せよ」という強い行政指導があり、1年を超える猶予期間の延長すら難しかったのです。しかし、制度見直しの結果、かなり改善されました。以下、具体例で見ます。
イ、職権型の猶予(徴151条1項)には、1号または2号を適用する場合があります。例えば、1号(事業の継続、生活の維持を困難にするおそれある場合)該当で延長を含めて最長2年間の換価の猶予をしましたが、完納に至らなかったとします。その後、今度は2号要件(猶予するのが徴収上有利の場合)に該当する事由があるときには、また、最長2年間の換価の猶予をすることができる(その逆も同様)、とされています(「取扱要領」3章1節19(1))。したがって、滞納者の実情によっては、最長4年間の換価の猶予が可能となります。
ロ、申請型法的猶予と職権型換価の猶予との関係について見ることにします。例えば、申請型換価の猶予(徴151条の2)を最長2年間行いましたが、完納に至らなかったとします。その後、滞納者が職権による換価の猶予に該当するとき(ほとんどが該当)は、職権による換価の猶予をすることができる、とされています(「取扱要領」3章1節19(2))。前述(イ)の4年を加算できると思われますので、理論上最大6年間の換価の猶予が可能となります。
ハ、以上のような法的猶予の扱いが定着すれば、猶予にかかる延滞税の減免が大幅に拡大されたことと合わせて見ると納税者にとって大きなメリットであり、納税緩和制度本来の威力が発揮されることになるでしょう。
申請の87%に適用
申請による「換価の猶予」
国税を一時に納付することで、事業の継続または生活の維持を困難にする恐れがあると認められる場合に、申請に基づいて差し押さえ財産の換価(売却)が猶予される制度です。
昨年4月から、税務署長の職権による換価の猶予に加えて、納税者の申請による申請型換価の猶予が創設されました(納付すべき国税の納期限から6カ月以内の申請)。
表1は申請型換価の猶予の処理状況をまとめたものです。制度が施行された15年4月から申請した猶予のほとんど(87%以上)が許可されていることが分かります。
申請型に限らず、職権型換価の猶予の適用も3倍に増加しています(表2)。
全国商工新聞(2016年5月16日付) |