群馬県前橋市の生存権無視の強権徴収 民商と市民の会が納税猶予求める
家賃収入を全額、営業用資産も容赦なく1万件超
差し押さえやめよ
差押禁止財産である年金や給与、児童手当も預金口座に振り込まれれば容赦なく差し押さえる―。群馬県前橋市では地方税の強権的な徴収が横行し残高が100円、ゼロという預金口座も差し押さえる異常事態となっています。昨年度の差し押さえ件数は1万件を突破。生存権を踏みにじる徴収行政に中小業者や市民から怒りの声が上がっています。
なぜこんな目に 住民が怒りの声
徴収行政の改善を求めて前橋市と交渉する「市税を考える市民の会」
「自宅も作業場も奪われた。税金を納められなかった自分が悪い。でも滞納額を減らすため分納を続けてきたのに、なぜこんな目に遭わなきゃいけないのか」。前橋民主商工会(民商)の田中博さん(仮名)=製造・加工=は憤りをぶつけます。
10年ほど前から単価が下がり、売り上げが減少。そのころから固定資産税や住民税、国保税の納付が滞るようになりました。市と相談して毎月、3万円ずつを納付していましたが、納められない月もあり、市は土地と自宅兼作業場を差し押さえました。「相談に行くと小さな部屋に閉じこめられ、3万円じゃ足りない。5万円にしろと責められた。言いたいことも言えずに、従うしかなかった」と悔しさをにじませます。
昨年夏、収納課は分納額を7万円に引き上げるように要求。納付できずにいると、競売にかけるとの通知が届きました。滞納額は延滞金を含めると600万円。「食事も喉を通らず夜も眠れなかった。仕事に集中できず、いつも頭にあるのは税金のこと。本当につらかった」とその時の心境を語ります。
支部で対策会議を開き、10月になってから古谷諭副会長や店橋厚事務局長と一緒に収納課に出向き、「競売にかけられると作業場が奪われ、商売を続けられない」と訴えましたが、担当者は聞く耳を持ちませんでした。12月、市が土地と建物を競売にかけたことから、やむなく任意売却をしました。「市は収納率をあげることしか考えていない。業者がどんな生活をしているのか、実態をつかんで親身になって相談に乗ってほしかった」と話します。
前橋市役所前で強権的な差し押さえの実態を告発する前橋民商の大野豊文会長
固定資産税などが納めきれなくなった林信夫さん(仮名)=アパート経営。2年前から入居者からの賃貸料を全額差し押さえられています。
5年前にアパートを建設し、不動産管理会社と委託契約しました。空き室が出た場合、管理会社が保証料を支払うようになっていましたが、契約通りにならず、年間約100万円の固定資産税が納められなくなりました。
事情を踏まえ、取引銀行は借入金の返済を、金利を含めて棚上げに応じました。しかし、市はアパートを差し押さえ、2014年6月から賃貸料を滞納税金に充当。以来、収入は1カ月5万5000円の年金のみで、「毎日の食事代を500円以内に抑え、風呂に入る回数も電気代も減らしている。一人でいるとろくなことを考えず、何度、死のうと考えたことか…」と胸の内を明かします。
差し押さえの解除を求めて異議申し立てをしましたが却下され、納税の猶予申請や徴収猶予を求める請願書を提出しても市は認めようとしません。「裁判で保証料の支払いを求め、管理会社が空き室保証を支払う方向で進んでいるので、それまで徴収猶予を認めてほしいと言っても聞き入れてもらえなかった。年金も差し押さえられるのでは」と不安を募らせています。
最高裁判決盾に 強権姿勢変えず
表
前橋市の差し押さえが強まったのは2005年から。小泉政権(当時)の「三位一体改革」により地方交付税が大幅削減された時期と重なります。
04年に896件だった差し押さえ件数は、05年に2584件となり、14年度は1万768件に(表)。前橋市と人口(34万人)が同規模の高崎市の差し押さえ件数(市税と国保税)は1939件、人口の多い宇都宮市の2220件と比べ約5倍です。市税だけを比較すると、人口が同規模の秋田市の15倍と異常な差し押さえ件数です。
国保税の滞納件数も増加。高すぎて払えないという背景があります。2015年度にも国保税を引き上げた結果、40代の夫婦と子ども1人(小学生)の世帯で所得150万円の場合、年間の国保税は29万600円に。所得に占める割合は約2割に達します。
市議会では、日本共産党市議団が差し押さえ問題をたびたび取り上げてきました。市は「滞納処分の判断が遅れると延滞金が増加し、納税者の負担が大きくなる恐れがある」と強弁。差押禁止財産についても最高裁判決(1998年2月10日)を持ち出して「口座に振り込まれて預金化されれば差し押さえできる」と強行しています。児童手当の差し押さえを断罪した「鳥取判決」を「個別事案に対する判決であり、最高裁判決を是認したもの」と主張。強権的な姿勢をまったく改めようとしません。
前橋民商は09年12月に地域の民主団体などとともに「市税を考える市民の会」を結成し、相談会や学習会を開きながら市に対して差し押さえをやめるように申し入れてきました。大野豊文・民商会長は「『鳥取判決』が出て全国の自治体は徴収マニュアルを改善しているというのに前橋市は差し押さえの基準すら示そうとしない。生存権を脅かし、人格を否定するような市の徴収行政は絶対にやめさせる」と決意しています。
全国商工新聞(2016年3月21日付) |