納めきれぬ 国・地方税 申請型換価の猶予活用を
制度見直しの特徴は
国税の猶予制度が2015年4月から見直され、換価の猶予などの適用件数が飛躍的に増えています。地方税の猶予制度の見直しは「16年4月1日以降の納期限」分から適用が始まり、国税・地方税などの猶予実務が大きな転換期を迎えます。国税・地方税の猶予申請書をはじめ手続き書類の紹介と、併せて作成方法などを角谷啓一税理士が解説します。大いに活用しましょう。
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角谷啓一さん(税理士)に聞く
国税・地方税の猶予(分納)制度には、従来から納税の猶予(地方税は「徴収猶予」)と換価の猶予の二つがありました。納税の猶予は災害・盗難・病気・貸し倒れ・事業上の著しい損失等があった場合、および1年以上課税の遅延が生じた場合に、納税者の申請によって行われてきました。
これに対し換価の猶予は、申請ではなく行政側の職権で行うもので、猶予を適用しないことに不服でも、異議の申し立ては認められませんでした。
このような理不尽を見直し、換価の猶予についても猶予を申請する権利と併せ、猶予の不許可に対して異議申し立ての権利を認めたのが猶予制度の第一の見直しです。具体的には従来の「職権型」の換価の猶予を残しながら、「申請型」の換価の猶予を新設したということです。
第二の見直しは「申請型」換価の猶予の新設を機会に、納税の猶予(徴収猶予)・換価の猶予の申請書、申請に伴う添付書類等の手続き書類を法律で定めたことです。同時にその作成・提出義務を納税者(申請者)に課し、それらの書類を審査して是正を求める権限(猶予手続における質問検査権)を徴収職員に付与したことです。猶予の申請手続きが明確になったという権利面での前進はありますが、納税者にとって「面倒な手続き書類の作成」という事務負担が増える側面もあります。
一方、「申請型」換価の猶予は「納期限から6カ月以内の申請」という制約があるので、従来の「職権型」換価の猶予で対応せざるを得ない場面も多々生じます。「職権型」換価の猶予の手続きについては、法律上の規定はありません。しかし、国税では実務上、換価の猶予申請書に代えて「分割納付計画書」などの書類を提出させています。
第三の見直しは、以上のような猶予手続きの整備と併せて延滞税(地方税は延滞金)の軽減、免除制度の改善が行われたことです(表1)。これにより、換価の猶予など法的猶予の適用によるメリットが、いっそう大きくなりました。
行政の姿勢が変化
猶予制度見直しの特徴として特筆すべきことは、猶予制度に対する行政姿勢の大きな変化です。国税で見る限り、新制度が発足する(2015年3月以前)までは、納税の猶予、換価の猶予等の「法的猶予」適用に対する行政姿勢は極めて消極的でした。具体的には、猶予(分納を承認)した総件数のうち、法的猶予を適用したのは10%にも満たない状況で、90%超は延滞税の免除等が伴わない「事実上の猶予」(単なる分納承認)でした。ところが、新猶予制度が発足した15年4月、国税当局は「(この制度は)納税者の負担軽減と早期的確な納税の履行確保」のための制度であるとし、基本的に法的猶予を行っていく構えです。そして、この制度の積極活用を呼び掛けています。ただし、国税当局は、「納税の緩和」のみを強調するのではなく、「猶予不履行」等に対する厳しい処分を指示している点も見ておく必要があります。
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申請書記入のポイント
それでは実務編に入ります。まず、猶予の申請書からです。猶予の申請には職権型の換価の猶予を含めて四つのパターンがあります(表2)。猶予制度見直しによって新設されたのは、換価の猶予申請書(申請型)です(下PDFの右図)。なお、従来の「職権型」の換価の猶予には申請書はありませんが、実務上、「分割納付計画書」(表2の4番目)を提出することによって、申請書に代えることとされています。換価の猶予申請書について、記載要領を紹介します(国税庁作成の記載要領は「猶予申請の手引」で検索)。
猶予申請書と同時並行しながら作成するのが、猶予申請書に添付する資金繰り関係等に関する添付書類。これらの添付書類は、国税通則法および同政令・規則等で定められています。猶予対象金額が100万円以下の場合には「財産収支状況書」(下PDFの左図)という比較的簡単な書類で済みますが、100万円を超える場合には「財産目録」「収支の明細書」などの作成を求められます(表3)。
添付書類作成の目的、狙いは@猶予申請の時点で納付可能な金額があるのか、あれば猶予前にその金額を納めさせるA新規に発生する税金について滞納発生させないことを前提に、今後の適正な分納額(月額)を算定するBその結果、猶予の始期と終期を決めるC財産内容を記載させることによって、猶予不履行時に迅速・有効な滞納処分に着手できるようにする―ことです。猶予申請書に添付する、資金繰り・財産状況等を証明する添付書類は、表3の通りです。
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全国商工新聞(2016年2月29日付) |