税務調査や差し押さえ 民商で学びはね返す
「合理性を欠いた推計課税で多額の追徴課税」「事前通知もせずにいきなり税務調査を始め、修正申告を迫る」―。各地で不当な税務行政が横行しています。各地の民主商工会(民商)は、納税者の権利を守ろうと仲間と一緒に対策を立て、不当な税務調査・徴収は許さないと奮闘。自主記帳・自主計算を力に本人の申告を認めさせる「是認」や滞納処分の執行停止を実現しています。
65万円の「還付」で調査終了=大阪・貝塚
川瀬さんと中野さんが受けた税務調査の対策会議
記帳に自信が
事前通知もなく突然、税務調査を受けた大阪・貝塚民商の川瀬健嗣さん=土木工事=は民商の仲間の支援を受け、2011(平成23)年分が所得税と消費税を合わせて約65万円の還付、12、13年は「是認」を勝ち取りました。「記帳は間違っていないと自信があった。税務署の理不尽な要求に負けずにたたかって本当に良かった」と確信を深めています。
力になったのは8年前に受けた税務調査の苦い教訓を生かし、日ごろからエクセル会計を使いしっかりと記帳していたことです。
川瀬さん宅に岸和田税務署員2人が訪ねてきたのは14年7月30日。妻・かなえさんが対応し、署員は税務調査を知らせる「連絡せん」を手渡しました。税務調査の手続きを学んでいたかなえさんは「事前通知は?」と確認したところ、署員は「調査にはいろいろやり方がある」と言って立ち去りました。
川瀬さんはすぐに民商の事務所に連絡。民商では直ちに対策会議を開き、同時期に税務調査になった中野敏宏さん=建築=とともにたたかうことにしました。
事前通知を求める再三再四の申し入れに対して、税務署は「無予告調査に当たる」と言い出したことから、川瀬さんは仲間からアドバイス受けて「調査経過記録書」と「事前通知を要しない適否検討表」の開示を請求。12月8日に開示された記録書の一部と、事前通知をしない理由などが黒塗り(不開示)になっていることに対して「あたかも不当な行為を行っているかのような不開示理由に納得できない」として不服申し立てをしました。
堂々と主張し
調査では川瀬さんは署員に対して「私の記帳は間違っていない」と毅然とした態度で臨み、当初、威圧的だった署員もきちんと整理された書類を確認するよう態度を変えましたが、交際費に調査を集中し、「現金出納帳を付けていない。出金伝票では経費として認めない」と圧力をかけてきました。8年前の税務調査のとき、「出金伝票を付けておけばいい」と指導を受けていたかなえさんは激怒。「指導どおりにしていたのに経費として認めないとは納得できない」と強く抗議しました。
しかし、署員は出納帳を付けていない経費を計算。併せて11年分の売り上げの二重計上を指摘し「修正申告で所得税100万円を先に納付し、後から更正の請求を出して」と主張。川瀬さんは「なぜ、100万円を納付しなければならないのか。地方税も追徴され、100万円じゃ済まない。これって還付金詐欺と同じやん」「私はトコトンたたかう」と決意を示しました。
その結果、11年度は交際費が一部認められなかったものの、二重計上の売り上げと相殺され、65万円の還付となりました。
延滞税1000万円帳消し=北海道・札幌北部
これで一安心
札幌北部民商の栗原之雄さん=建築板金=はこのほど、延滞税1000万円の滞納処分の執行停止(国税徴収法153条第1項2号該当)と差し押さえ解除を実現しました。3月27日付で「滞納処分の停止通知書」および「差押解除通知書」を受け取り「事業が継続できる。これで一安心」と胸をなでおろしています。
1000万円の延滞税は、札幌北税務署が1990年9月に行った合理性を欠いた推計課税によるものです。元請け1社で売り上げの8割以上を占め、低単価で受注しているという実態を税務署は一切考慮せず、領収書などの不備を理由に同業者比率で税額を推計。所得税と消費税を合わせて約650万円を追徴課税しました。
「不当な推計課税を打ち破るには自主記帳・自主計算が大切だ」と、あらためて学んだ栗原さんは申告の正当性を裁判で立証することを決意。自らの苦い経験を生かして民商の税対部長として奮闘しました。
しかし、裁判は99年10月に敗訴。裁判の途中で自宅の土地、建物と作業所の土地を差し押えられ、生活権を奪われました。栗原さんは裁判の最終弁論で「差し押さえを受け、銀行や国金などから1円の融資も受けられなくなった。死ねといわれたようなものだ」と苦悩を語りました。
自宅の土地、建物は競売(2002年)となり、本税に充てられましたが、延滞税が残り、作業所の土地は差し押さえられたままに。栗原さんは会社の代表を務めながら国民年金と月5万円の役員報酬で生活し、毎月、延滞税を5000円ずつ分納していました。会社は現在、娘婿の鶴谷寿明さんが現場を担当し、従業員と一緒に頑張っています。
請願書を提出
一方で栗原さんは年々耳が聞こえなくなり、4級の障害者に。その上、脳の神経の病気で倒れ薬が手放せなくなりました。先行きに不安を感じた栗原さんは民商の仲間に相談し、14年8月、「滞納処分の執行停止」を求める請願書を札幌国税局に提出。「月5000円の納付では完納まで200年以上かかる。私も妻も持病があり、いつどうなるか分からない。土地を競売にかけられると仕事ができなくなり、従業員も路頭に迷うことになる」と訴えていました。
全国商工新聞(2015年5月25日付) |