大企業内部留保に課税を 醍醐聰・東大名誉教授に聞く
消費税の増税は不要 応能負担で財源確保
東京大学名誉教授・醍醐聰さんに聞く
安倍政権は法人税減税を成長戦略の柱の一つにしています。宮沢洋一経済産業相は10日、法人税の実効税率を来年度から少なくとも2・5%以上下げることをめざすと表明しました。国民の実質所得は減る一方で、トヨタなど輸出大企業を中心に空前の利益を上げるなか、大企業(資本金1億円以上)の内部留保は250兆円を超えています(2014年6月末)。「企業の社会的責任、内部留保に課税せよ」と主張する東京大学の醍醐聰名誉教授に聞きました。
法人税は本当に高い?
現在も実効税率は約18%
―― 政府は法人税の実効税率をさらに引き下げようとしていますが
政府や財務省が法人税引き下げの一つの理由にしているのは、大企業の国際競争力を強めるということです。海外進出をしようとする企業をつなぎとめ、逆に海外からは投資を呼び込む。そのために国際的に高い日本の法人税を引き下げるという理屈ですが、法人税の実効税率が本当に高いのかを事実で確かめることが重要です。
財務省は説明資料「法人課税の在り方」(13年12月2日)の中で法人税引き下げを反証しています。財務省はおそらく消費税増税とのバランスで、法人税をこれ以上引き下げることへの抵抗があるのではないでしょうか。
法人税基本税率は30%で地方税を合わせると34・5%ほど。それを20%台まで引き下げようとしていますが、財務省作成のデータでは11年の実際の税率は全業種平均で21・3%です(表1)。国税庁の資料に基づいて計算すると12年は17・5%(表2)。11年度に税率を4・5%下げた影響だと思いますが、すでに法人税実効税率は18%を切っています。
―― なぜそんなことが起こるのでしょうか
欠損金の繰越控除というのがあります。過去に赤字がある企業は欠損金を繰り越して将来の課税所得を相殺できます。課税所得が減れば税額も減り、さらに製薬メーカーなどは試験研究をやっていると税額控除(研究開発減税)が適用され、さらに税額は減ります。日本の法人税が国際的に高い、実効税率が30%というのは表面上の話で、実態ではないということです。
―― 大企業は内部留保をため込んでいます
法人税引き下げのもう一つの理由は、大企業に再投資の原資をもっと与え、稼ぐ力をつけさせようということ。しかし、内部留保が増えて、設備投資が増えているかというと、08年と比べても有形固定資産は減少しています(表3)。05年から06年にかけて法人税を引き下げていますが、その後の方が設備投資は減っています。一方「投資その他の資産」(有価証券)が2割ほど伸びています。設備投資を減らして国債を買ったりしているわけです。設備投資が増えていないので、生産の増加につながらず、雇用の増加にもつながっていません。
企業が海外に逃げる?
税率より製品需要を重視
―― 法人税を下げることで大企業の海外進出を食い止められるという意見がありますが
法人税が下がっても海外生産は伸びています。海外進出をしている企業の海外生産比率は急激な右肩上がりです(表4)。
企業は税率よりも現地での製品需要を重視しているからです。ですから税率を下げても海外生産を食い止める力にはなっていないわけです。
法人税引き下げの理由は総崩れしています。法人税引き下げは大義名分が立たないばかりか、1%下げるだけで四千数百億円が減収になります。仮に税率を5%下げれば年間2兆円以上の減収です。社会保障が年間1兆円ずつ伸びるといいますが、法人税を減税しなければそれは賄えるわけです。
内部留保の活用法は?
税率1%でも税収2.5兆円
―― 内部留保の活用とはどのようにするのですか
社会的にもう一度再分配をし直すという意味では、個々の企業に労働分配を上げさせることにとどまらせず、国の税収にして必要なところに再分配する仕組みが必要と考えています。もちろん労働分配は家計の可処分所得が増えるので、良い面もあります。
しかし、実質賃金は下がっています。今回、業績が伸びている輸出企業でも基本給は伸びず、一時金や残業代などが伸びているだけです。これは一過性のものです。なおかつ業績が伸びず、7割が赤字企業といわれていますが、そういう企業は内部留保とは無縁です。
―― 内部留保の課税は二重課税といわれますが
いったん利益に税金をかけ、さらに内部留保に課税することが二重課税ということですね。税金を1回かけても、さまざまな控除で減税になっているわけですよ。しかも減税後の使われ方は国債購入などです。
であるならば、正当に使われなかった減税分をあらためて税金として取り戻す。1回目のかけ方に不足があり、たまったものを課税対象にする。過去の課税のやり直し、修正という意味で二重課税ではないと考えています。
―― どのように課税するのですか
外形標準課税の適用拡大が盛んにいわれていますが、国会では赤字企業への課税はおかしいと議論されています。資本金や従業員規模を課税対象にすればまさにそのとおりですが、内部留保を外形標準にした課税とみなせばいいと考えています。応能負担の原則にも一致します。税率は1〜2%と薄くていいと思います。内部留保は250兆ですから税率1%で2・5兆円の増収になります。さらに法人税減税をやめると2兆円の財源が確保され、合わせると年間4・5兆円の税収が見込まれるわけです。消費税10%への引き上げはまったく必要ありません。
消費税を上げる一方で、内部留保をため込むことに使われる法人税引き下げは絶対に許されないことです。10%への引き上げは中止すべきです。
全国商工新聞(2014年11月24日付) |