差押シンポジウム 滞納者に寄り添って考える
税理士らでつくる東京税財政研究センターは8月20日、滞納処分の実践的対処法を著した書籍『差押え』の出版を記念したシンポジウムを都内で開催しました。税理士や中小業者ら68人が参加。強権的な滞納処分の実態を明らかにしつつ、滞納者に寄り添う行政の取り組みや中小業者運動の経験、徴収手続きにおける納税者の権利について幅広く交流しました。
強権的な滞納処分とのたたかいを交流したシンポジウム(8月20日、都内)
税理士の角谷啓一さんが最近の滞納処分の特徴や納税者の基本的権利について基調報告を行いました。
続いて、5人のシンポジストが発言しました。松戸税務署の強権的な滞納処分で夫が自殺に追い込まれた女性=パート=は、税務署の担当者が分納の相談に応じず滞納税金の全額をかき集めてでも払えと迫られた不当な実態を告発し、税務署への強い怒りを述べました。
成績競争主義が現場にはびこる
国税の徴収職員は、関東信越国税局の徴収事務の方針((1)累積・長期化している大口・悪質事案の処理の促進(2)処理困難事案への十分な取り組み(3)消費税滞納残高圧縮に向けた確実な処理)などを紹介しながら、「かつては滞納者の事業の支障にならない財産を選んで差し押さえていたが、今は完納に結び付く財産から差し押さえるように思える。ノルマ主義や成績競争主義が根底にある」と徴収現場の実態を語りました。
債権回収機構が行政の力を阻害
地方税の徴収職員は、都道府県で「地方税債権回収機構」の設立が広がっている問題について、「滞納者が抱える多重債務の相談・解決や生活保護の申請窓口への引き継ぎなど、行政が持つ総合力を阻害する危険なものだ」と指摘。「人権を重視し、徴収緩和制度の活用を検討するところから、徴収業務は行われるべきだ。根本的には国の政策として、庶民の所得の底上げが必要だ」と主張しました。
税理士の相田英男さんは、所得税の本税を完納したものの延滞税190万円の滞納を余儀なくされていた内装業者の相談に乗り、税務署への請願書の提出や国税当局の通達を活用するなどして、滞納処分の執行停止をかちとった事例を紹介しました。
消費税を廃止し応能負担強化を
全国商工団体連合会の常任理事(税金対策副部長)の服部守延さんは、中小業者は価格転嫁できない消費税に苦しめられ、滞納が増えていると問題を指摘し、「消費税を廃止し、課税の応能負担の原則を強化すべき」と訴えました。児童手当の差し押さえを違法とした鳥取地裁判決を力にした運動の成果を報告。「納税緩和や滞納処分の停止などの制度は、納税者の権利・利益の具体的内容である。憲法や法律に基づく血の通った徴収行政を求め、今後も運動を進める」と決意を表明しました。
全国商工新聞(2013年9月9日付) |