消費税仕入れ税額控除否認処分を跳ね返す 税額518万円取り消し
勝利裁決を喜ぶ重岡幸太さん(左から2人目)と姉・成美さん(左)、母・美弥子さん(右)、出雲民商の金山政史会長(中央)ら
島根・出雲民主商工会(民商)の重岡幸太さん=アパート経営・保険代理店=は7月24日、出雲税務署の消費税などの更正処分と過少申告加算税の賦課決定処分の全部を取り消す広島国税不服審判所の裁決をかちとりました。これにより、重岡さんに課せられていた過少申告加算税を含めた税額約518万円が取り消されました。同税務署が行った消費税法30条(仕入れに係る消費税額の控除)を乱用した「処分」が断罪されました。
出雲税務署は2011年4月〜5月にかけて、重岡さんが経営する会社(3月決算法人。当時は消費税課税事業者)を調査。当初は法人税、消費税、源泉所得税などの調査のため帳簿や領収書を調べました。何も「取るもの」がないと見ると、決算期とアパートの完成・引き渡し(08年3月)がほぼ同時期であることに目を付けました。不当な反面調査を行ない、決算期日においてエアコンなどわずかな工事が未了であることなどを理由とし、アパートの完成時期は「決算期後」と断定。建設費にかかる消費税の仕入れ税額控除を否認する更正処分をしました。
重岡さんは11年6月、同税務署に異議を申し立て「アパートの完成・引き渡しは『期中』であり、処分は不当」と意見陳述しました。重岡さんを支援する同民商の役員と会員、事務局員の6人は代理人となって意見を陳述。会長の金山政史さん=自動車販売・修理=は「一方的な課税を合法化するための、納税者をないがしろにする反面調査は許されない」と、処分の取り消しを求めました。
しかし、同税務署は不当にも異議申し立てを棄却。重岡さんは11年9月、広島国税不服審判所へ審査請求をしました。
課税期間が争点
審査請求での争点は、施主の重岡さんが、建設会社で父・建二さんが経営する有限会社重岡工務店(民商会員)から、アパートを譲り受けた日の属する消費税の課税期間が「本件課税期間内(07年3月22日〜08年3月21日内)であるか、否か」についてです。
裁決では、仕入れ税額控除を規定している消費税法30条1項と消費税法の基本通達「11-3-1」、「9-1-5」(別項)を引用。その上で「08年3月3日の時点で、アパートは外壁および屋根により外気と分断され、コンクリート基礎により土地に定着し、共同住宅用建物の用途に供し得るだけの構造を備えていたことからすれば、3月3日時点でアパートの大部分は完成していた。請求人(重岡さん)と有限会社重岡工務店は、アパートが完成し引き渡しを合意し、有限会社重岡工務店は3日付でアパートを請求人に引き渡したことが認められる。エアコン工事が本件課税期間内に完了していなかったことが認められるが、軽微な補修工事にすぎない。3月3日時点でアパートは完成」と判断。
さらに重岡さんが本件課税期間内に(1)所有権保存登記を行ったこと(2)銀行からの借り入れで有限会社重岡工務店に請け負い代金の全額の支払いを終えていたこと(3)経理処理を行っていたことを挙げ、「本件課税期間内にアパートの譲渡があったと認める。請求人がアパートを譲り受けた日の属する課税期間は本件課税期間となる」と認定。更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分は違法であり、その全部約518万円を取り消すと結論付けました。
民商の支援で
重岡さんは「不当調査をはね返す中で私も民商に入会した。審判所の判断は調査手続きや不当な反面調査について税務署の主張をうのみにし、不満は残るが、アパートの完成時期は私たちの主張を全面的に受け入れた。処分のすべてを取り消させたことは本当にうれしい」と喜んでいます。
金山さんは「重岡さんがたたかう姿勢を持ち続け、民商の仲間の支援があったことが勝利裁決を得た大きな力となった。たたかえば消費税法30条を乱用した仕入れ税額控除否認の更正処分をはね返すことができると確信した。国税通則法が改悪され、しっかりとした記帳を身に付けることが税務調査とのたたかいの基本となる。自主計算活動と消費税増税を許さない運動を広げる」と話しています。
【消費税法基本通達11-3-1(課税仕入れを行った日の意義)】
消費税法第30条第1項第1号(仕入れに係る消費税額の控除)に規定する「課税仕入れを行った日」とは、課税仕入れに該当することとされる資産の譲受け若しくは借受けをした日または役務の提供を受けた日をいうのであるが、これらの日がいつであるかについては、別に定めるものを除き、第9章《資産の譲渡などの時期》の取扱いに準ずる。
【消費税法基本通達9-1-5(請負による資産の譲渡などの時期)】
請負による資産の譲渡などの時期は、別に定めるものを除き、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の全部を完了した日とする。
全国商工新聞(2012年8月27日付)
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