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  トップページ > 税金のページ > 徴税攻勢 > 全国商工新聞 第2958号 1月17日付

税金 徴税攻勢
 

義務盛り込む政府税調の納税者憲章
 湖東京至(税理士・元静岡大学教授)

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OECD報告書の歪曲は許されない
 政府税制調査会「納税環境整備PT(プロジェクト)報告書」は、国税通則法に納税者の権利に関する条項を加えるとともに、権利の対抗軸に義務があるとして、納税者権利憲章(憲章)に「納税者の権利・義務をバランスよく記載すべき」と書いている。平成23年度「税制改正大綱」では、憲章の策定にあたり「税務手続の全体像、個々の税務手続に係る納税者の権利利益や納税者・国税庁に求められる役割・行動」を記載すべきであるとしている。すなわち、国税庁に求められる役割・行動(義務)と納税者に求められる義務を並列的に憲章に書くべきだとしている。
 しかし、憲章はその名称のように、納税者の権利だけを規定すべきである。なぜなら、納税者の義務はすでに各税法、国税通則法等に規定されているからである。
 政府税調PTが納税者の権利と義務のバランスをとるべきだと主張する根拠に、90年にOECD(経済協力開発機構)税務委員会が発表した『納税者の権利と義務に関する報告書』にその旨記載があることをあげている。だが、この根拠は誤りである。筆者は91年に同報告書の全文をフランス語版から翻訳した。この翻訳文はOECDから許可を得て、全国商工団体連合会によって『納税者の権利と義務(OECD報告書)』として出版された。

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 「OECD報告書」の第1部では近年、加盟各国における国民の税負担が大幅に増加しており、課税庁の行政責任と納税義務はより重くなっているとし、「納税者の権利がはっきりと規定され保護されることによって納税者と課税庁が相互に信頼しあうことができる」と指摘している。そして「納税義務者の権利」「法を遵守させようとする課税権力の圧力について」の二つの面を検討するとしている。すなわち、納税者に対する権利と義務ではなく、納税者の権利と課税庁による権限強化の危険性について指摘しているのである。

 第2部では「課税庁は幅広い権限を与えられている」としたうえで「課税庁による権力行使は常に納税者の権利を侵す危険性をもっている」と述べている。そして「プライバシーの保護、課税庁に対する守秘義務、資料の入手、不服申立権は民主主義の基本的権利である」としている。
 さらに「納税者は税制度が公平であり、かつ、納税者の権利が明白に規定され、尊重されているなら、その協力を惜しまないであろう。ところが現実には、加盟国において、こうした権利が尊重されているという確信をもつには至っていない」と述べ、納税者の権利が確立していない国々を批判している。

 第3部は「各国における実施状況詳論」として、アンケート調査の結果を報告。その冒頭に「納税者の義務」の項を設け、納税者の申告義務、源泉徴収義務、その他の義務について諸外国の実情をまとめている。ここで記載されている義務はすでに加盟国の各税法に規定されている国民・納税者に対するごく当たり前の一般的義務であって、取り立てて納税者の権利と対峙するような税務行政上の義務ではない。
 すなわち、政府税制調査会や専門家委員会が納税者権利憲章に「バランスよく記載すべき」とする義務ではない。
 「OECD報告書」の狙いは納税者の権利を確立・法制化することにあり、決して義務規定を強化しようとするものではない。すなわち、加盟国に納税者の権利保護法ないし納税者権利憲章の制定を求めるために出版されたもので、権利とあわせて義務を併行させようという意図はまったく存在しないのである。

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