払いきれない社会保険料 不法な滞納整理に抗議=石川・金沢白山民商
景気悪化に伴い小法人を中心に社会保険料の滞納が急増する中で「日本年金機構」は「差し押さえありき」の強引な取り立てを強化しています。石川県金沢市では「滞納者は悪」「会社がつぶれても知らない」などの暴言も吐き、法律を無視した「取り立て屋」まがいの滞納整理を強行。金沢白山民主商工会(民商)は直ちに抗議、納税猶予が適用できることを認めさせました。
納税猶予の適用をと要望する金沢白山民商のメンバー
小法人の相談次々
金沢白山民商では、今年に入って社会保険料が払えないとの相談が相次いでいます。民商会員以外の事業主も含め5件。共通しているのは"払えなければすぐ差し押さえる"と迫る日本年金機構金沢北年金事務所の強権的な対応でした。
自動車販売・板金塗装・車検修理をしている民商会員で、(有)S社のT社長も民商に駆け込んだ一人でした。
エス社は03年を境に業績が急速に悪化。T社長は借金返済のため、自宅を売却したものの従業員への給料の支払いがやっと。09年には延滞金を含め、社会保険料の滞納額は400万円超に。
社会保険料の強権的な取り立てが問題になっている金沢北年金事務所
差し押さえありき
T社長は同年2月、当時の金沢北社会保険事務所と協議。滞納分については毎月2万円以上支払うという「念書」を提出。1年余にわたって誠実に払い続けてきました。
ところが、年金機構発足後、半年たった7月初旬、金沢北年金事務所から呼び出され、突然告げられます。
「滞納している社会保険料を年末までに200万円、来年4月までに200万円払ってほしい。できなければ差し押さえる」
毎月20万円の支払い。これまでの支払いの10倍でした。T社長は払いたくても払えない事情を説明しましたが、「滞納者は悪であってお客ではない」と暴言。納税の猶予(分割による支払い)を求めても「うちは活用しない」と強弁したのです。
憲法・法律守れ
T社長から相談を受けた民商は9月16日、福浦義尋会長を先頭に21人が金沢北年金事務所と交渉。暴言の撤回を迫るとともに、社会保険料の滞納処分についての柳沢伯夫厚労相(当時)の国会答弁―「法律上決められた枠内で、いたずらに苛斂誅求ということのそしりを受けることのないように」などを引き、保険料の徴収は憲法、法律に基づいて行われるべきであると主張。健康保険法では、保険料の徴収について「国税徴収の例による」としていることから納税緩和措置の適用を強く求めました。
T社長も「払わないのではない。払えるようにしてほしいだけ。そうでないと会社は続けていけないし、社員の生活も守れない」と訴えました。
参加者の抗議に、活用さえ否定していた納税猶予申請について「申し込みはできる」と回答。Tさんら2人がその場で申請する成果をかちとりました。
石川県連の加藤忠男会長は「納付猶予の書類を交付させたのは大きな成果。全国中小業者団体連絡会(全中連)が行う10月4日の省庁交渉でも、厚労省に公正な徴収事務を行うよう迫っていきたい」と語っています。
強権的徴収は大問題
東京合同社労士事務所長 和泉尚美さん
「滞納者は悪」などの暴言は人権侵害といえるもので、あまりにもひどい。これでは取り立て屋だ。社会保険庁の時と比べると、年金機構の職員の法律的な知識は極めて低いか、あまりにもお粗末だ。その一方で、「マニュアルが規則」と言う言葉を繰り返す。法律よりマニュアルを優先している。法律で定められた納税の猶予の適用などは、発想にもないのではないか。
社会保険料の滞納の最大の要因は景気の悪化だ。預金を崩してでも払ってきた事業主も多い。強権的な徴収は今後大きな社会問題になる。高すぎる保険料の引き下げとともに公正な徴収のためにも、年金機構が口にするマニュアルの公開、関連法律を含めた職員への教育、納税猶予措置の納税者への周知徹底が必要だろう。
営業続けて解決の道を
滋賀・彦根民商 先日付小切手返却さす
日本年金機構による社会保険料の滞納整理は、全国的に強化されています。この間、とりわけ小規模法人に対して「差し押さえ」を前提とした、強権的納付督励、手形や先日付小切手、実情に沿わない納付誓約書の徴取などが横行しています。
社会保険料徴収も、国税に準じて国税通則法・国税徴収法が適用され、納税の猶予などが認められます。営業を続けながら保険料を払う努力が大切です。
滋賀・彦根民商では、滞納事業所が年金事務所に徴取された先日付小切手を、交渉の末に返却させるなどの成果も挙げています。
日本年金機構
国から委任・委託を受け、公的年金業務の運営を担う特殊法人。社会保険庁の廃止を受け、10年1月に発足。役職員は刑法その他の刑罰については「みなし公務員」規定が適用される。(1)加入(2)徴収(3)年金受給(4)記録管理。保険料の徴収―の四つの業務を行う。
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