払いきれない社会保険料 制度活用し負担軽減
Q&A解説
「社会保険料が高くて払えない」「一括納付を迫られた」などの相談が各地の民主商工会(民商)に寄せられています。滞納を理由に、年金事務所が売掛金などの差し押さえを強行し、事業が継続できなくなる状況も広がっています。社会保険はどんな制度なのか、社会保険料が払えないときはどうすればいいのか、活用できる制度は-。Q&Aで紹介します。
Q1 社会保険って何?
A 社会保障の一つで公的な保険制度
健康保険、厚生年金、介護保険の総称(狭義)で、社会保険への加入が義務付けられているのは常時従業員が働いている法人事業所または常時5人以上の従業員が働いている商店・事務所などの個人事業所です(加入義務のない業種もあり)。
毎月の社会保険料は従業員の給料(4月から6月の平均)によって厚生年金保険料は31段階(等級)、協会けんぽは50段階(同)に分かれ、事業主と従業員が折半し、事業所がまとめて年金事務所に納付します。
Q2 社会保険料が納められなくなった
A メリットの大きい納税緩和制度の活用を
売り上げ減少などで社会保険料が納められなくなったとき、国税徴収法に基づいて「納付の猶予」や「換価の猶予」など納税緩和制度を活用することができます(表1)。納付の猶予が認められると延滞金が9.0%から1.7%に引き下がり、安心して分納することができます。猶予期間1年です(最長2年)。また、すでに差し押さえを受けている財産の換価(売却)が猶予される場合もあります。
「換価の猶予」は保険料の滞納がなく納付期限から6カ月以内であれば申請することができます(申請型「換価の猶予」)。納期限から6カ月以上の滞納がある場合は、民商の仲間と一緒に年金事務所の所長による職権型「換価の猶予」を認めるように交渉しましょう。
Q3 どうして保険料がこんなに高いの?
A 小規模事業者ほど負担が重い仕組みに
社会保険料には上限があり、厚生年金保険料は1カ月の給料が63万5000円以上、協会けんぽは、135万円5000円以上になると保険料は上がらず、月収140万円と3000万円の人の社会保険料は同額に。収入が低いほど負担率が高く、小規模事業者にとっても重い負担になっています。
国会では小規模企業振興基本法(小規模基本法)制定時、小規模企業の社会保険料負担軽減策の実現を図ることが付帯決議に明記されました(2014年6月)。
全国商工団体連合会(全商連)は付帯決議に基づいた社会保険料負担軽減策に効果的な支援策として、社会保険料の引き下げ、減免制度の確立などを国に要請しています。
Q4 督促状が届いた
A 放置せずに納付の誠意を示そう
納付督促や来所通知、差押予告通知などの文書が届いたときは、年金事務所に出向いて納付できない事情を説明し、分納の相談をすることが大切です。
厚生年金保険・健康保険の徴収実務の流れは図1のとおりです。毎月月末の納期限までに納付がなかった事業所に対して督促指定期限(翌月20日ごろ)を設け、その後も納付がない場合に滞納処分が開始されます。
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年金事務所が納付の猶予制度を適用するにあたって重視するのは、滞納者が納税について誠実な意思があるかどうかです(国税徴収法第151条)。
厚生労働省は日本年金機構に対して「即時に納付が困難と相談があった場合は、納付義務者の立場に十分に配慮して丁寧かつ適切な対応に心がけること」を通知しています(2015年3月25日)。
一方で「納付の誠意が認められない者に対しては厳正に対処すること」として差し押さえをするなど滞納処分を確実に執行することを求めていますので、納付の誠意を示し、ただちに分納を相談しましょう。
Q5 分納を約束していたが一括納付を迫られた
A 年金事務所に抗議し分納を認めさせよう
事業者が納付の誠意を示し、滞納になった保険料を約束どおりに分納しているにもかかわらず、突然、年金事務所から一括納付が迫られ、「できなければ売掛金を差し押さえる」と言われたなどの事例が各地から寄せられています。
厚生労働省は「年金事務所が滞納者との分納約束をやぶって、一括納付を迫ることは許されない」との考えを示しています(7月6日、全商連に回答)。
また、納付が滞っている事業者に対して「納付しない方が悪い」「事業所がつぶれても仕方ない」「銀行から借り入れて納付しろ」など暴言を吐く職員もいます。
年金機構になってから滞納事業所数が減少する一方で差し押さえ件数が急増。2016年度の差し押さえ件数は2万5000件を超え、2010年の1.8倍になっています(図2)。
Q6 預金口座が差し押さえられた
A 滞納者の実情をつかみ十分な配慮が必要
年金事務所が差し押さえを行う場合、国税通則法や国税徴収法、通達・通知を準用しています。
国税庁は各国税局に対して「徴収職員には大きな権限が与えられているが、その権限の行使は滞納者の生活や事業滞納者の実情等を考慮し、応接中の言動等にも十分配慮し、適正・適法に実施する」と指示しています(「滞納整理における留意事項について」<通知>平成13年6月1日)。
差し押さえをするのは「納付の誠意が全くない」などやむを得ない場合に限られるもので、生活や事業に支障をきたすような差し押さえには断固抗議し、解除を求めることが重要です。
Q7 差押禁止財産とは?
A 最低生活を保障し生存権を守るもの
国税徴収法では13項目の差押禁止財産(75条)や給与、年金は差し押さえの範囲が定められており(同76条、同77条)、その基礎となる金額を10万円、その他の親族1人につき4.5万円(国税徴収法施行令34条)としています。また、生活保護費や児童手当なども差し押さえが禁止されています(表2)。
差し押さえに禁止・制限が設けられているのは、憲法25条にうたわれた生存権を保障することが背景にあり、絶対に差し押さえることが許されないものです。
最近では、介護事業所に振り込まれる介護報酬が差し押さえられる事例が発生。民商では「介護報酬は9割以上が従業員の給与。全額差し押さえることはできない」と抗議し、差し押さえを解除させています。
さらに差し押さえ禁止財産であっても預金口座に振り込まれれば「差し押さえの禁止・制限は解かれた」という理屈で差し押さえを強行する事例も発生しています。しかし、児童手当が振り込まれた預金口座を鳥取県が差し押さえたのは「児童手当法の趣旨に反し違法」との判決が下されています(広島高裁判決2013年11月27日)。
Q8 社会保険料は納めたが延滞金が残っている
A 滞納処分の執行停止を請願書などで要求しよう
納期限の翌日から3カ月を超える期間の延滞金の利率(割合)は原則14.6%ですが、特例が設けられて9%になっています。
それでも市場の金利と比べて延滞金の利率は低いとはいえず、重い負担になっています(「換価の猶予」等が認められれば1.7%に)。
国税では納付の誠意を示して新たに発生する税金を納期限までに納め、滞納税金を長期間にわたって毎月、分納を続けて完納した場合、延滞税について「滞納処分の執行停止」が適用され、納税義務が消滅する場合があります。
「滞納処分の執行停止」の要件は財産がないとき、生活を著しく窮迫させる恐れがあるときなど-です。
厚生労働省は全商連の要請に対して延滞金について「法律的にできないことはない。今後検討する」(7月6日)と答えていますので請願書などで「滞納処分の執行停止」を大いに求めましょう。
全国商工新聞(2017年8月28日付)
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