「持続可能な地域づくりへ」第9回夏期研究集会を開催
業者の役割、政策方向を探求
全商連付属・中小商工業研究所
全商連付属・中小商工業研究所は9月11、12の両日、埼玉県川越市内で第9回夏期研究集会を開きました。民主商工会(民商)会員、研究者、自治体関係者など全国から約300人が参加。「中小企業・中小業者がになう持続可能な地域づくりへの挑戦」をテーマに、地域経済の再生やその担い手としての中小業者の役割、政策方向をめぐって活発な探求と議論を交わしました。
持続可能な地域づくりについて理論と実践を交流した第9回夏期研究集会
同研究所の太田義郎運営委員長(全商連副会長)は、日本が追随してきたアメリカ型の新自由主義経済が破たんし、大企業が相次いで海外に経済拠点を移していることに触れ「安心して営業、生活できる地域社会をどうつくっていくかが問われている」とあいさつ。
「地域を元気にする創造的産業政策を考える」をテーマに記念講演した慶応義塾大学の植田浩史教授は、日本経済をリードしてきた自動車などのリーディング産業が、成長という点でも地域経済への波及効果という点でも衰退していると指摘。地域経済の再生=中小企業が元気になることが課題になっているにもかかわらず、大企業のみに目を向けた民主党の「新成長戦略」では日本経済の再生は望めないと批判。その上で「転換、創造、連携」をキーワードとする産業政策の構築、中小企業振興基本条例の制定はじめ、地域内経済循環の活性化にこそ、再生の道があると強調しました。
神戸市外国語大学の近藤義晴名誉教授は、EUの小企業憲章とドイツにおけるマイスター制度(独立して事業を営むに足る能力を認定する社会的制度)の今日的な意義について報告。「なぜこんなに大好評」のタイトルで住宅リフォーム促進事業について報告した岩手県宮古市の滝澤肇・建築住宅課長は、(1)対象工事費が20万円以上と低い(2)一律10万円の現金支給(3)申請手続きの簡単さ(4)業界に出前説明会を行うなどPRに努力したこと-などがブームを引き起こしたと紹介。「個人の資産に支援できない」など当初あった議論の壁も「経済対策として突破した」と強調しました。
討論を受け、2日目の全体会でまとめ報告をした横浜国立大学の三井逸友教授は、新自由主義・グローバル化によって地域経済の基盤が崩れている中で、地域を守るための社会保障、街づくり、仕事おこしなど新しい地域の再生が求められていると強調。まさに民商の出番であるとし、そのためにも社会の具体的なニーズを中小企業・業者がつかみ「人間の力」を生かすことが大事だと力説。「政府の中小企業憲章は閣議決定として各省庁横断の施策を宣言したもの。基本法の改正を含めて、小企業・家族経営の生命力を生かす施策を要求し、各地で中小企業振興基本条例づくりに挑戦しよう」と呼びかけました。
埼玉県連が企画した「蔵の街」のオプションツアー
300人が熱く分科会で討論
第1分科会―振興条例を力に
駒沢大学の吉田敬一教授が、グローバル化した日本の多国籍企業のゆがんだ姿を指摘し、政府の新成長戦略は「亡国の戦略」と批判。日本文化を生かした持続可能な発展のためには、衣食住の再生を軸にした地域内循環型の産業をめざし、中小企業振興基本条例や中小企業憲章の具体化を求める運動が必要と問題提起しました。
北海道商工団体連合会(北海道連)のMさんは、十勝経済の底堅さは地域資源の畑作・畜産物を生かした地域循環の構造にあり、それが条例制定や地域振興の運動の力になっていると報告。
大阪・吹田民商のNさんは、昨年4月施行の吹田市産業振興条例の制定をめぐる運動を報告。実態調査が実現し、条例に基づいて設けられた『協議会』に加わり、政策提案に努力していることなどを紹介しました。
和歌山・海南民商のIさんは、海南地域の地場産業である家庭日用品産業の再生に向けた課題について報告しました。
会場からは、持続可能な地域経済をつくる上で金融機関の役割の重要性や条例のポイントについて質問も出され、交流しました。
地域経済の振興と地域金融について討論を深めた第2分科会
第2分科会―地域金融の課題
静岡大学の鳥畑与一教授がリーマンショック以来の金融危機の本質は、長く積み重ねられてきた新自由主義に基づく「金融改革」によってもたらされた「銀行機能」破壊と投機マネーの暴走の結果であることを明らかにしました。
討論では、金融労連のMさんが金融円滑化法の期限切れに向けた課題を提起。京商連のIさんは政治課題として地元の金融機関や制度融資を育て、中小業者に資金を回すためにも振興条例を生かす必要があると報告しました。
神奈川県連のOさんは自己破産者の融資実現など、困難突破の教訓を明らかにし、大商連からは大阪府が制度融資の預託をやめ、「元気な中小企業」だけを支援しようとしている実態を告発しました。
また、群馬・高崎民商の参加者は中小業者の実態に即した審査のあり方をはじめ、「金融検討会を継続し、ほぼ100%融資を実現してきた」ことなどを紹介しました。
全国NPOバンク連絡会のTさんは、社会的事業を市民出資で支援するNPOバンクの実践を報告しました。
討論を通じて、中小業者を育てる金融施策を充実させる運動の重要性が浮き彫りになりました。
第3分科会―税制・社会保障
「地域主権」と国民・中小業者の暮らし・経営を守る税制・社会保障の課題を考えました。
青山学院大学の中村芳昭教授は、6月に閣議決定した「地域主権戦略大綱」など、民主党が進める「地域主権改革」の問題点を報告しました。
佛教大学の金澤誠一教授は、ナショナルミニマム(政府が国民に保障する最低限度の生活水準)について解説。新自由主義者らから、公的扶助への批判や攻撃が活発化しており、菅首相がめざす「第三の道」や「地域主権戦略大綱」にも、それが表れていると警告しました。
民主党がめざす「地域主権」の具体的な実態告発として、座長の太田義郎全商連副会長は、河村名古屋市長が主張する「住民税10%減税」の実態が「金持ちと大企業優遇の減税」だと報告しました。
北海道からの参加者は、国保料(税)の過酷な徴収が広がっている実態を告発。背景には国保財政の国の負担減や収納率が悪い保険者へのペナルティーがあり、国保料引き上げによって、市民にしわ寄せされていることが明らかになりました。
第4分科会―小企業・家族経営
地域に埋もれて見えなくなっているニーズを新たな人的つながりを作る中で見出すことや、知識、知恵、技術など「経営資源」の生かし方、ネットワークづくりの大切さを交流しました。
埼玉・浦和民商のHさん=米・自然食品販売=は人間優先、地域密着の事業の視点から(1)なるべく農薬を使用しない(2)生産者と消費者を結ぶ(3)量販店にある商品は販売しない(4)新商品開発や料理教室の開催(5)大手小売業者との競争から逃げない-など五つの強みで差別化を図っていることを発言しました。
埼玉・大宮民商のYさん=介護施設=は、自身のニーズである「良い介護施設に入りたい」の思いから建設業と並行して介護事業を起業した経験を報告しました。
愛知県連のMさん=卸売=はビジネススクールの取り組みを報告。参加した看板屋の兄弟が1年間に2000枚の名刺を配り、仕事を取った実例を挙げました。
横浜国立大学の三井逸友教授はまとめで「地域にネットワークを広げ、人間的つながりを生かすことが大切。自ら情報発信することが大切」と強調しました。
第5分科会―商業・まちづくり
地域での共同を発展させ、地域経済の再生とまちづくりの方向性を模索しました。
埼玉・坂戸民商は「民商まつり」や「夜のまちオリエンテーリング」を報告。地元の信用金庫が00年に破たんしたことをきっかけに、元気を取り戻すため民商まつりを企画。坂戸市や鶴ケ島市、観光協会、社会福祉協議会が後援するなど共同が広がり、7回のまつりで11万3000人が参加し、坂戸3大まつりの一つに発展していると発言しました。
また、大型店出店で商店街が衰退し、環境が悪化しているとの報告も相次ぎ、「出店反対だけではなく、どんなまちづくりをめざすのかを提案することが大切」などの意見も出ました。
助言者で名城大学の井内尚樹准教授は「自己実現のためには他団体との共同が必要。地域の歴史や資源、エネルギーを活用したまちづくりに目を向けること」と強調。駒沢大学の番場博之教授は「人口が減少し、高齢化社会を迎える中で小さな専門店の需要は高まる。商店街が学校給食を提供するなど売り上げを確保する仕組みづくりが大事」と話していました。
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