都構想否決 商人や若者が声上げ新たなまちづくりへ
サウンドデモで都構想反対を呼び掛けるSADLの若者たち
「ほんまに勝ってよかった」「これからが本当の大阪のまちづくり」-。強引な橋下徹市長による大阪つぶしにストップをかけた大阪都構想の住民投票。政党、地域での新たな「共同」の発展が大きな力となりました。それは、大阪のまちづくりに向けた確かな力となっています。
「橋下大阪都構想に勝った意義はほんまに大きいですよ」。大阪市東住吉区の駒川商店街で婦人服店を営む東住吉民商会員のSさんは、住民投票を振り返って言いました。
自主的に行動
地域のまちづくり、消防・防災対策にも関わってきたAさん。都構想をめぐって、商店街の幹部たちから「大阪市を解体するようなことはアカン」と相談を受け、都構想に反対する「有志ビラ」を作りました。タイトルは「どうして政令市の大阪市を廃止して権限のない特別区に分割するのか。私たちは反対です」。商店街の理事長、副理事長、そして地域の自治会会長全員が名前を連ねました。
Aさんはそのビラを持って200軒以上ある商店の一軒一軒を訪問。投票3日前の5月14日には、商店街理事長の「大阪の一大事に黙っていられん」との提案をきっかけに自民、共産、公明、民主の各党議員を集めたミニ集会も開催。30人以上が集まり満席となりました。「加えて商工新聞の大阪都構想号外。これはパンチ力があった。商店主もみんな見た」といいます。
投票期間中、Aさんたちが訴えたのは「商都大阪、水の都大阪」を生かしたまちづくり。「大阪都構想はその基本を壊すもので、その訴えがみんなの心に届いた」といいます。
商店街で広がった「共同」の取り組みと新しい自主的な運動の広がり。それはさまざまな地域で生まれました。
生野区で開かれた決起集会には、商店街理事長やまちづくり協議会の理事長も参加。旭区の美容室経営者は30人のお客に「都構想はだめ」と声を掛けました。
20、30代の青年たちが中心になった「民主主義と生活を守る有志」(SADL、サドル)は街頭でサウンドデモをしたり、ビラを配布。喫茶店を経営するメンバーの一人、Bさんも大阪ドーム前のビラ配りなどに参加し、「考えるきっかけになってくれればいいと思って」と、フェイスブックを使って友人にも問いかけました。「ビラ配りでは『うそをつくな』などと罵倒もされた。こんな選挙ははじめて」と振り返ります。
市民に変化が
大阪市民を二分するような激しい選挙となった住民投票から2週間余り。大阪のまちづくりに向け、市民のなかに新しい“変化”も芽生えています。
SADLのBさんは「住民投票を通じて大阪の政治やまちづくりについて真剣に考えた人も多い。僕も誰かに政治を変えてもらえばいいとか、任せればいいという気持ちだったけど、自分たちで声を上げていくことが本当に大事だと思った。それは賛成票に投じた人も同じだと思う」
商店街の独自ビラをつくったAさんも「大阪の街を活性化させるのは商店街の大きな役割。自分の商売はもちろんだけど、地域のために商店街としてどんな役割を果たすのか。具体的に考えることが求められている」と語ります。
個人事業主でつくる大阪経済人倶楽部の代表は「橋下市長は弱い人には強く、強い人には弱いを信条とするような人間。夢物語ばかりを語って人をだましてきた」と厳しく批判。その上で「大阪のまちづくりのために、いい格好する必要はない。大阪は浪花節の町、人情の町、商人の町。それを生かしたまちづくりのためにも政治を良くしていかなあかん」と強調します。
大阪商工団体連合会(大商連)の藤川隆広会長も言います。「大阪の経済が停滞したのは誰のせいか。橋下・維新政治の7年間でどれだけ中小企業や大阪の街が痛めつけられたか。その上に立って、大阪の経済、まちづくりを多くの人たちと真剣に考えていくことが今、求められている」
今後の課題 新自由主義から脱却を
奈良女子大学教授・中山徹さんに聞く
大阪都構想をめぐる住民投票では何が問われたのか、そしてこれからの課題は何か。「大阪都構想=アベノミクスの地方版では大阪の将来が展望できない」と批判してきた中山徹・奈良女子大学教授に聞きました。
住民投票で問われたのは、大阪市を廃止して五つの特別区に分割するかどうか、だ。1万票余りの僅差ではあったが、大阪市民は廃止は困るという意思表示をした。大阪市をなくすか、なくさないかについては決着がついた。
大阪のあり方に真剣に向き合う
一方、住民投票を通じて反対、賛成を問わず「大阪を変えたい」という願いからさまざまな議論が巻き起こった。
そのテーマは、大きくいって(1)大都市圏の中でも落ち込み方が激しい大阪経済の活性化(2)市民サービスの充実(3)「上から目線」の市政改革の進め方-の三つだ。投票期間中は、「手書きビラ」も数多く出され、「安保闘争以来ではないか」と話す政治学者もいるほど、市民の間で活発な議論や行動が取り組まれた。
投票率(66・83%)の高さにも表れているが、大阪のあり方について大阪市民がこれほど真剣に向き合ったことは、これまでなかったのではないか。
極端な新自由主義、規制緩和路線を進める維新政治に対し、土着の大阪の自民党から共産党までが一緒に行動するという「オール大阪」的な新しい動きもつくられた。その中で大型公共事業に対する反省も語られた。
それだけに「大阪をどう活性化していくか」「大阪をどう変えていくか」は、今後の大きな課題であり、11月の大阪府知事選、大阪市長選で問われることになる。
すでに24区をいくつかの区に統合する案(総合区)なども出されている。大事なのは自治体が国や大手企業の施策で脅かされている住民の命と暮らしを、その権限をフル活用して支えていくことだ。
そのためには(1)庶民の購買力を高める(2)医療・福祉の拡充(3)雇用の安定-具体的にはブラック企業の規制や公契約条例、中小企業振興基本条例などの制定などが求められるだろう。福祉対策は雇用の拡充にもつながり、経済対策でもある。
安倍政権や橋下・維新は新自由主義路線に基づく「国際競争力の強化」を繰り返し唱えてきた。すべての都市が東京のようになることが国際競争力の強化につながるのか。大阪らしいまちづくり、地域の独自性が発揮されてこそ、本当の国際競争力が高まるのではないか。本社機能を東京に移す大阪の企業が多い中で、京都の企業は本社機能をそのまま市内にとどめている。東京に追随することが国際競争力の強化ではない。
市民がアイデア出し合い考える
今回の住民投票では、大阪の歴史、文化が語られ、市民の多彩な活動が政党をも動かした。
独裁的な政治家に大阪のまちづくりを任せるのではなく、自治体はその権限を最大限に発揮し、市民が知恵とアイデアを出してそれぞれの立場で考えていくことが求められている。
全国商工新聞(2015年6月8日付) |