消費税還付金 輸出大企業20社に1兆円超
トヨタ自動車をはじめ輸出大企業の有力20社だけで、2012年度の消費税の輸出還付金が1兆円にも上ることが明らかになりました。安倍内閣が狙う来年4月からの増税実施は、景況悪化による売上減少を中小業者にもたらす一方、輸出大企業の懐をさらに潤し、不公平を拡大させるものになります。
有力20社の12年度の消費税の輸出還付金額は、元静岡大学教授で税理士の湖東京至さんが、最新の有価証券報告書(決算書)をもとに推算した結果から判明しました。
表の通り、1位はトヨタ自動車の1801億円。続いて、日産自動車の906億円、住友商事の665億円、ソニーの635億円と続き、20社合計で1兆円超に上ります。
消費税の税率が10%になれば、輸出還付金も倍になります。
政府主催の消費税増税の「集中点検会合」で、経団連会長が「消費税を来年8%、再来年に10%へ引き上げるべきだ」と増税を迫ったことと、還付金制度の存在は無関係ではありません。
税率アップで売上激減=京都
NHKが報道
京都・伏見民主商工会(民商)の藤本最慶さんと妻・千賀子さん(民商婦人部長)=工芸染匠=は9日、NHK京都の取材に応じ、12日に放映されました。取材では、消費税が3%から5%に引き上げられた当時の苦労や怒り、来年4月からの増税を中止する必要性を切々と語りました。売上高を記入した確定申告書の写しを公表してまで、「増税やめよ」と訴えた二人の思いは…。
〈最慶さんの話〉
消費税が5%に上がって以来、厳しい状況が続いています。同じことが来年、再来年に起こる―。そう思うと、消費税増税は絶対に許せません。私共は家族全員で努力を重ね、歯を食いしばって商売を続けているんです。
扇子や仏壇、清水焼、西陣織、京友禅など京都の伝統産業はどこも小規模事業者です。こうしたところにいっそうの負担を押し付ける増税は、致命的な打撃を与え、廃業・倒産を招きます。良いもの、ほんまものが作れなくなれば、日本経済にとって取り返しのつかないことになるのです。
〈千賀子さんの話〉
取材を受ける数日前、政府の消費税増税の「集中点検会合」で、出席していた有識者のほとんどが増税容認の発言をしていました。腹が立って、腹が立って、しょうがありませんでした。
主人と話し合い、確定申告書の写しを公表しました。消費税がいかに中小業者を苦しめているのか、数字を示して、説得力ある訴えをしたかったんです。
「アベノミクス効果は」と問う記者に、うちは全く関係ない、安倍首相は大企業や高額所得者ばかりを見ていて、庶民の目線に立っていない、とはっきり言いました。
中小企業に負担増 大企業に恩恵倍増
藤本最慶さんと妻・千賀子さんが経営する「あめや藤本」は、お茶席で着る着物の製造販売が中心です。売上高(消費税の課税標準額)は1995年、96年と順調に伸びていました(グラフ)。
ところが、消費税が2%増税された97年の売上高は7860万円に減少し、翌98年には半減しました。
一方、輸出大企業は莫大な消費税の還付金を懐に入れています。例えば、トヨタ自動車の輸出還付金は96事業年度で627億円でしたが、97年事業年度には1382億円と激増しています。消費税が10%になれば、還付額が今の倍になります。
輸出大企業に巨額の恩恵を与え、中小業者を倒産の危機に陥れる―。不公平極まりない消費税増税を許すわけにはいきません。
解説 輸出還付金のカラクリ(税理士 湖東京至さん)
輸出還付金制度で、トヨタ自動車の預金口座には毎月150億円のお金(税金)が豊田税務署から振り込まれています。
還付金を振り込んだことで、消費税収がマイナス(赤字)になっている税務署は全国で10署。主に、トヨタ自動車の本社がある豊田税務署(マイナス1365億円)、日産自動車の本社がある神奈川税務署(マイナス561億円)などです。消費税収がマイナスということは、その税務署管内の消費税収より還付金が多いという結果であり、消費税の不公平性を示す証拠です。
政府は「外国の消費者から日本の消費税はもらえないので輸出企業が仕入れの際に国内で払った消費税分を返すだけ」と、輸出還付金制度を説明します。
ところが輸出大企業は仕入先や下請けに実質的にも法律的にも消費税を払ったことは一度もありません。法律的にはトヨタ自動車が消費税だといって負担している5%分は、実は税金ではなく物価の一部であり、下請け業者はトヨタ自動車から税金を預かったことも、トヨタが下請け業者に預けたこともないのです。そのことは次の判決を基に作成した例示でお分かりいただけると思います。
「『トヨタ』が『下請け業者』に対して支払う消費税分はあくまで商品や役務の提供に対する対価の一部としての性格しか有していないから、『下請け業者』が、当該消費税分につき過不足なく国庫に納付する義務を『トヨタ』との関係で負うものではない」(東京地裁平成2年3月26日判決を湖東税理士がアレンジ)
判決は消費税は税金ではなく物価の一部と明示しています。このことから、輸出還付金制度は、下請け業者が税務署に納めた消費税を、消費税を払ってもいないトヨタ自動車に還付するあきれた仕組みといえます。
輸出還付金のカラクリは次の通りです。消費税の年間納税額は事業者が「年間売上高×5%」マイナス「年間仕入高×5%」として計算します。「仕入高×5%」を引く仕組みを「仕入税額控除方式」とい、これを悪用し、輸出売上高にゼロ税率をかけます。答えはゼロ。ゼロから[仕入高×5%]を引くためマイナス、つまり還付金が発生するのです。
輸出還付金は消費税の税率が上がれば上がるほど増えるため、財界は税率引き上げに執着するのです。輸出還付金制度は消費税の不公平性のなかでも最たるものです。
消費税率を引き下げたカナダの例を紹介します。カナダは91年に7%で消費税タイプの税金、すなわち商品サービス税(GST)を導入しましたが、2006年に6%、08年には5%に引き下げています。
理由として、カナダは国境を接しているアメリカと北米自由貿易協定(NAFTA)を結び、アメリカからの貿易圧力があったと思われます。加えてカナダ国民の猛烈な反対運動です。GSTの導入後、初の国会議員選挙で同税を導入した与党の進歩保守党は169議席から2議席に転落。国民はGSTの増税に反対であるばかりか、日本の税率(5%)に引き下げることを選択しました。
日本が将来ヨーロッパ並みの高い税率になることを最も嫌うのはアメリカです。輸出還付金制度を持たないアメリカは日本との貿易摩擦を避けるために、消費税の税率引き上げを好ましく思うはずがありません。安倍内閣に近い人からも消費税増税に消極的な意見が出るのは、アメリカとの貿易摩擦が背景にあるといえましょう。
アメリカとの関係やカナダの例をみれば、増税中止の可能性はあります。ただし増税を中止させる最大の力は国民の反対の声です。カナダのように国民の力で増税勢力を引きずり降ろさなくてはなりません。輸出還付金制度をなくすためには消費税を廃止しなければなりません。そのためにも今回の増税を許してはなりません。
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全国商工団体連合会は、消費税の増税中止・廃止を要求するとともに、消費税の輸出戻し税(輸出還付金)の廃止や資本10億円以上の企業への「還付」をなくすよう求めています。
全国商工新聞(2013年9月30日付) |