民意無視の3党談合 消費増税法案 参院で廃案へ
消費増税法案 4つの問題
6・23国民大集会に参加し、消費税増税に怒りの声を上げながらデモ行進をする全商連の隊列
民主・自民・公明3党は談合して、消費税増税法案と社会保障改悪法案を衆議院で強行可決しました。しかし、「3党合意」を盾に悪法を押し通そうとする民主党・野田内閣への国民の怒りが広がり、ついに民主党は分裂。国会情勢は緊迫の度を強めています。民自公3党が提案した法案の問題点(表1)にも疑問の声が上がっています。参議院へと審議の舞台を移した消費税増税法案と社会保障改悪法案の問題点を解説します。
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1、消費増税だけ強行富裕層増税先送り
第一の問題点は、原案から消費税率の引き上げ以外をすべて投げ捨てて「修正」したことです。原案の「消費税法等の一部を改正する等の法律」案では、かろうじて「税体系全体の再配分機能を回復させる」こと、そのために所得税45%、相続税55%へと最高税率を引き上げること、租税特別措置法の一部改正なども含まれていました。わずかに残っていた「一定の前向きの傾向」ともいえる部分さえ、すべて削除しました。
さらに、法案の趣旨には、増税の目的に「支えあう社会の回復」という文言を書き加え、国民の信託によって、政府が徴収することを許容する一方、税金の管理・使途については、国民への責任を全面的に負うという近代税制の原則を投げ捨て、国民に責任を押し付けるという姿勢を強調しています。
2、憲法に基づいた社会保障を解体
第二の問題点は、「社会保障制度改革推進法案」(以下、「推進法案」)を持ち出し、社会保障の解体ともいうべき方向を示したことです(表2)。「3党合意」は、民主党の後期高齢者医療制度の廃止や最低保障年金創設の公約を放棄したばかりか、「推進法案」の中に「受益と負担の均衡」の確立、さらに「家族相互及び国民相互の助け合いを通じて実現」すると述べるなど、憲法25条に基づく国などの責務を放棄することを明記しています。
「推進法案」では「年金、医療及び介護においては、社会保険制度を基本に」し「国等の負担は保険料に係わる国民の負担の適正化に充てることを基本に」するとも述べています。消費税増税は「社会保障の安定財源の確保」と政府は説明してきましたが、増税の最大の口実もごまかしであったことを認めたものです。そして、社会保障の解体の具体化を「改革国民会議」という首相の諮問機関(委員は20人のみ)に委ねようというわけです。このような国民不在、国会無視の民主主義破壊の暴挙は断じて認めるわけにはいきません。
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3、逆進性や低所得者対策もさらに後退
第三の問題点は、政府が、消費税は所得の低い人ほど重い負担になるという「逆進性」対策や、中小業者・下請け業者は消費税を価格に転嫁できないという事実を認め、増税に伴う「痛みの緩和」として何らかの対策を示そうとした部分についても、課題の羅列に格下げされて、何の具体策も示されなかったことです。
実施を約束してきた低所得者対策の給付付き税額控除制度については、「低所得者に配慮した総合的な施策を導入する」から「総合的に検討する」に後退しました。
また、原案になかった複数税率については、財源、対象範囲の検討を掲げ、国民を分断しようとしています。
4、「成長戦略」明記し構造改革路線を加速
第四の問題点は、消費税率の引き上げを合理化するため、大企業が喜ぶ「成長戦略」路線を明記したことです。
消費税率の引き上げが、消費を冷やし景気を後退させ、むしろ税収を減らすのではないかという声が世論となって消費税増税への批判が広がっていました。
「3党合意の法案」は、この批判を逆手に取って、「成長戦略並びに事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分するなど、経済の成長等にむけた施策を検討する」との記述を新たに書き込みました。
これは、東日本大震災という惨事に便乗し、復興需要で大もうけをしながら、構造改革路線を加速させて、さらなる利益を狙う財界戦略そのものです。
これでは、格差と貧困がさらに深まり、税収もいっそう減少するばかりか、財政再建もできません。
消費増税は阻止できる
財界の言いなり、国民との矛盾拡大
財界の総本山である日本経団連の米倉弘昌会長(住友化学会長)は、民主、自民、公明3党による「一体改革」関連6法案の衆院可決を受けて、野田総理のリーダーシップと党派を超えた取り組みを高く評価すると表明しました。
それもそのはず、日本経団連は、2011年9月に発表した「成長戦略2011」で、「社会保障と税・財政の一体改革」を提言。消費税率について、「2015年度までに10%まで、段階的に引き上げること」を要求。社会保障に関しては、「医療費の削減、介護保険における利用者負担のあり方や要支援・軽度の介護者等への給付の見直しなど、給付の効率化・重点化」を政府に迫っていたのです。
この法案が成立すれば、輸出で大もうけをする大企業の懐を潤す消費税の還付金が倍になります。
今回、民自公の談合によって提案された消費税大増税法案と「社会保障改革推進法案」は、国民の生活よりも自らのもうけを最優先する財界の「成長戦略」そのものです。
しかも、日本経団連は、消費税率10%に止まらず、「2020年代半ばまでに、税率を10%台後半に」することや「法人税率のさらなる引き下げ」を求めています。
政権公約を投げ捨て、自民、公明の軍門に下った野田内閣は、大企業言いなりの政治姿勢をあらわにする中で、国民との矛盾を深めています。
解散し信を問え、政権に正当性なし
3党合意による「推進法案」が、社会保障を解体するものであることが分かり、国民に13・5兆円もの消費税増税を押し付ける論拠は完全に破綻しました。
大増税の狙いが財界の「成長戦略」の推進のためであることは明白です。
しかも、「推進法案」は、自民・公明両党が09年3月に成立させた「所得税等の一部を改正する法律」の付則第104条を踏襲するとしています。
この付則104条は、大企業・大資産家優遇税制を継続し、消費税増税をはじめ、社会保障改悪の方向を規定しているもので、民主党は、かつて反対した規定を根拠に3党合意を結んだのです。その政権存続の正当性は崩れ去りました。
増税反対の民意に背き、国民への公約をほごにして、自公と一体で議会制民主主義さえ壊す野田内閣は、直ちに国会を解散し、国民に信を問うべきです。
2000万人署名推進、各界連が運動提起
消費税は、所得の低い人ほど負担が重いという逆進性や中小業者の転嫁問題、輸出戻し税の矛盾、さらには景気を冷やし、雇用と地域経済を危機に陥れるなど、根本的な欠陥があります。
全商連も加盟する消費税廃止各界連絡会(各界連)が集めた署名が1500万人分を突破する中で、こうした悪税の本質に対する国民の理解も深まっています。
そして、消費税増税ではなく、無駄の削減と応能負担の税制によって社会保障の財源を確保し、地域循環型の経済対策で景気を回復させてこそ、財政危機も打開することができるという対案への共感が幅広く広がっています。
消費税廃止各界連絡会(中央各界連)は6月29日、運営委員団体会議を開き、7月18日までに、署名2000万人に到達させることをはじめ、次のような運動の重点を提起しました。
▼談合政治と増税への怒りの連日行動を全国に呼びかける▼参議院への要請行動について当面は水曜日に行い、全議員規模での要請行動をめざす▼一点共同の場として国会内集会(18日)を開催▼7月第2週(9日〜15日)を全国宣伝集中週間と位置付け、宣伝を強化▼各分野の著名人や幅広い層に「消費税増税反対のアピール」を呼びかける▼3党合意の修正法の学習会(19日)を計画する-です。
所得の58%が税金に 埼玉県連が試算
税引後の生活費生保基準下回る
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埼玉県商工団体連合会(県連)が試算した「転嫁できない中小業者の実態」によると消費税が10%に引き上がり、免税点が廃止・縮小された場合、売り上げが880万円(所得400万円)の業者(夫婦と子ども1人)は生活費にかかる消費税が約29万円に上り、事業で消費税を価格に転嫁できなければ、さらに80万円を生活費から捻出しなければならないことが明らかになりました。
所得に占める税負担の割合は58%となり事業はもちろん、生活が脅かされます。さらに売り上げが1000万円以下の事業者ほど事務負担が重くのしかかり、取引の力関係によって消費税を価格に上乗せできないことが危惧されます。また、埼玉県内の事業所得者のうち、所得200万円以下が62%、300万円以下が71%を占めています。
市の試算でも
さいたま市をモデルに試算した所得に占める税と社会保険料の負担率は所得200万円が38・5%、所得300万円が34%。1カ月の生活費は前者が11万2000円、後者が17万4000円で、生活保護世帯より低い状況が浮き彫りになりました。
給与1カ月分の負担増
消費税率が10%になるのに加えて復興増税や子ども手当の減額、所得税や住民税の年少扶養控除の廃止など家計への負担増が目白押しです。
大和総研の試算によると300万円の片働き世帯で消費税以外の負担増が約14万円、消費税を合わせると約25万円もの負担増になります(表3)。
負担率は片働き、共働きともに年収300万円世帯が最も大きくなっています。
民主 公約投げ捨て 自民政治に逆戻り
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民自公3党は密室で談合して消費税率を10%に引き上げる消費税増税法案と、憲法25条を否定する社会保障制度改革推進法案を取りまとめ、国民が慎重な審議を求めていたにもかかわらず衆議院で採決強行しました。参議院でも審議が始まりました。
国会でまともに審議しないまま、数の力で悪法を押し付けるのは、議会制民主主義を蹂躙する暴挙です。
世論調査の結果でも「今国会で採決すべきではない」が7割を占めるなど、過半数の国民が反対している消費税増税の強行は、中小業者の経営悪化に拍車をかけ、景気を冷えこませ財政も破壊します。
さらに見過ごせないのは「政権交代が終わった日」(「東京」27日付)と報じられたように、民主党はマニフェストを投げ捨て、財界いいなりの自民党政治へと逆戻りしたことです。
09年の衆院選で「4年間は消費税は上げない」と公約したにもかかわらず、消費税増税を押し付けるのは明らかな公約違反です。
全国商工新聞(2012年7月16日付)
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