野田首相が「消費増税素案」 商売つぶされる!―浦野広明さんが解説
民主党・野田内閣は、昨年12月10日、2012(平成24)年度税制改正大綱(以下「大綱」)を閣議決定しました。野田佳彦首相は、年頭記者会見で、消費税増税を含む社会保障と税の一体改革に関する消費増税関連法案の年度内提出をめざす考えを示し(4日)、6日に素案をまとめました。大綱と消費税増税の問題点を立正大学客員教授の浦野広明税理士に聞きました。
大綱の概要は、(1)共通番号制の導入(2)前年度で積み残した所得、法人、消費、資産の各課税の税制抜本改革(3)給与所得控除の見直し(4)社会保障と税の一体改革推進-です。これらの事項を、平成21年度税制改正法付則104条に示された道筋に従って、具体化するとしています。自公政権が定めた付則104条は、消費税増税を含む一連の改定を11(平成23)年度までに行うとしています。これを忠実に引き継いでいるのが野田内閣です。
野田首相が、財界や財務省を後ろ盾に取り組む「税と社会保障の一体改革」は、(1)消費税を最低でも14年に8%に、15年に10%に引き上げる(2)同時に、大企業・大資産家優遇税制推進、庶民増税を行う(3)さらに社会保障のあらゆる分野を連続的に改悪する-というものです。
大綱が示すいくつかの問題を指摘します。
憲法違反の手法
(1)消費課税… 10年代半ばまでに段階的に10%まで引き上げ。
政府が11年12月30日にまとめた消費税を柱とする社会保障と税の一体改革素案は、消費税率の引き上げにあたっては経済への影響を考慮し、引き上げ停止措置を法案に書き込むとしています。
ここで想起すべきなのは、橋本龍太郎内閣によって97年4月1日から消費税が5%(内1%は地方消費税)に引き上げられた時のことです。消費税が5%になったのは、自民、社会、さきがけ3党連立による村山富市内閣が94年11月末、「消費税法」(増税法)を強行成立させたことが発端でした。村山内閣は、増税法をすぐに実施したのでは国民の反発に抗しきれないとみて、97年4月1日から「条件付で実施」をすることを企てたのです。
条件付の理由は、上記増税法付則25条が「消費税の税率については、社会保障等に要する費用の財源を確保する観点、行政及び財政の改革の進捗状況、租税特別措置等及び消費税に係る課税の適正化の状況、財政状況などを総合的に勘案して検討を加え、必要があると認めるときは、平成8年(96年)9月30日までに所要の措置を講ずるものとする」としている点(「見直し規定」)にあります。この25条は消費税率を「引き上げる」とはひと言もいっていませんでした。「見直し」の法的義務手続きをつくさないまま消費税を増税したのは、実は憲法84条(課税法律主義)違反だったということです。野田内閣は再度この手を使おうとしているのです。
(2)給付付き税額控除… 消費税率引き上げに伴う低所得者対策として現金給付と税額控除を組み合わせた「給付付き税額控除」を導入します。「納税額が10万円の人に15万円の給付付き税額控除をする場合は差額の5万円を現金支給する」(「日経」11年12月23日)とされています。納税がなければ給付がないことや、税額控除の申告手続きが複雑になることを考慮すると実現性は不明です。給付付き税額控除の真の目的は、行政が共通番号によって全国民の個人情報を管理することにあります。
庶民にしわ寄せ
(3)給与所得控除の見直し… 「給与所得者の必要経費支出は給与収入の6%であるとの試算がある」と述べ、給与所得控除が必要経費として多すぎるとして、その激減をめざしています。しかし、給与所得控除制度は、必要経費控除だけではなく、源泉利子分、勤労性控除分(労働力の価値)、把握控除分の要素が含まれます。
労働力の価値は、(1)労働力の支出による消耗を補充するための労働者自身の維持費(2)労働者の次世代後継者を養育することで、労働力を永続的に再生産をするために要する労働者の家族の維持費(3)労働力の養成や教育に必要な養成費-から成っています。勤労性控除額は、生存権を保障する立場からすれば、本人と家族のそれぞれについて、年間120万円(月額10万円)程度にすべきものです。
(4)相続税・贈与税… 相続税の基礎控除(課税最低限)は、[5000万円+1000万円×法定相続人数]ですが、これを[3000万円+600万円×法定相続人数]に縮小するとしています。小規模宅地は一定の評価減がなされています(措置法69条の4)が、民主連立政権は、10年度税制改定でこの評価減の制度を縮小しました。これは宅地の評価減廃止の布石です。宅地の時価評価と基礎控除の引き下げは、相続税を利用して都市住民の土地を取り上げ「開発事業」を進めようという企てです。
(5)法人課税… 研究開発税制の上乗せ延長、環境税制の拡充、海外投資損失準備金制度の延長など大企業優遇税制を進めます。
憲法を生かして市民自ら変革を
自公政権も、それに代わった民主政権も、結局同じ穴のむじなです。それは、保守政権が財官界の走狗だからです。
多くの人が今の日本社会の状況に満足していないことは各種世論調査によっても明らかです。しかし、満足していないというだけでは、未来は変わりません。
事態を転換するには、私たち市民が変革の積極的な担い手となって、憲法を生かす税財政の確立を求める以外にありません。
全国商工新聞(2012年1月16日付)
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