「税と社会保障一体改革」を斬る 財源は応能負担で=浦野広明教授
政府の「社会保障改革に関する集中検討会議」は2日、改革案を決定し、消費税率を2015年度までに10%へ引き上げることを明記しました。社会保障財源を口実にしながら、年金の支給開始年齢引き上げなど社会保障切り捨てが盛り込まれています。「逆進性の強い消費税を増税することは憲法違反」と指摘し、「社会保障財源は応能負担原則を貫くべき」と訴える立正大学法学部客員教授で税理士の浦野広明さんに聞きました。
憲法の税制原則
日本国憲法は詳細な人権保障の規定を置いている。11条の「基本的人権は、侵すことのできない永久の権利」であるという規定は、人権宣言以来における人類の歴史の成果をうたうものである。
基本的人権はまた、すべての人間が人間として平等であることを当然の前提としている。
憲法14条は第2次大戦前にあったもろもろの差別を否定し、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と規定している。
差別をなくす税負担原則が、負担能力に応じて税負担を行うという応能負担原則(応能原則)である。応能原則は、憲法の基本的人権の理念を生かしてつかみとる権利である。
憲法25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と社会保障の権利を明らかにしている。国民が「納税の義務を負う」のは、払った税金が平和に生存するために使われることを前提にしている。したがって、憲法上は「すべての税が福祉社会保障目的税」となる。
2015年に消費税10%へ
税と社会保障の一体改革を議論する政府・与党の集中検討会議は6月2日、菅総理大臣や関係閣僚らが出席し、2月から検討を進めてきた改革案の原案を取りまとめた。
原案は、社会保障安定財源の確保について次のように述べる。
(1)消費税収を主とする社会保障安定財源の確保、(2)消費税を社会保障の目的税とする、(3)地方自治体の課税自主権の拡大、(4)消費税率(国・地方)を2015年度までに10%まで引き上げる、(5)消費税だけではなく、所得、消費、資産にわたる税制全般の改革。(6)社会保障・税一体改革は、2009年度税制「改正」法付則104条にしたがって2011年度中に必要な法制化を行う、(7)共通番号制の早期導入(6月には「社会保障・税番号大綱(仮称)」を策定し、今秋以降できる限り早期に国会への法案提出をめざす)。
低所得者に重い負担の逆進性が
消費税は、低所得者に重い負担を負わす逆進性があり、「応能原則」に反する。消費税を社会保障の目的税とするということは、「すべての税が福祉社会保障目的税」という考えに反する。消費税の増税論は、応能原則、すべての税が福祉社会保障目的税であるという憲法原則に違反するのである。
番号制は人権侵害
共通番号制は、国と大企業が一体となって、全面的に国民の私生活に関する情報管理を行うものであり、プライバシーなど基本的人権を侵害する。
付則104条(付則)は、自民・公明連立政権が、09年3月に成立させた。付則は、「消費税を含む税制の抜本的な改革を行うため、平成23(2011)年度までに必要な法制上の措置を講ずるものとする」とした。付則の抜本的改革は、消費税増税、大企業・資産家減税、庶民増税であり、もちろんそれらは応能原則に反する。
社会保障は、経済的富の大小とかかわりなく普遍的に保障すべき生活基盤である。消費税導入や税率引き上げは、「福祉」「高齢化対策」などを理由にしたが、医療費負担増、国保料値上げなど社会保障切り捨てがどんどん進んでいる。
与謝野馨社会保障・税一体改革担当相は、年金の支給開始を引き上げるとしている。
真の社会保障財源は、付則を原点とする税・社会保障改革原案を排して、応能原則を採用することによってのみ実現することができる。
全国商工新聞(2011年6月20日付)
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