消費増税本当に必要? 商売、暮らしを守る公正な税制を
「財源あります」と消費税増税反対の宣伝を行なう大阪・豊中民商の会員ら(6月)
7月の参院選で菅直人首相が発した「消費税10%」に対し、国民は「増税ノー」の審判を下しました。しかし、直後の臨時国会では「(消費税増税が)取り上げられなくなったら不幸だ」と自民党・谷垣禎一総裁がけしかけ、菅首相も「一歩も引くつもりはない」と答弁。「11年度までに必要な法制上の措置を講ずる」方針に固執しています。また日本経団連の米倉弘昌会長は「超党派で協議する仕組みを整えてほしい」とあおり、「消費税から逃げるな(読売)」「消費税論議 気迫込めよ(朝日)」と、マスコミもキャンペーンを展開するなど、増税一色です。しかし、本当に消費増税は仕方がないのか。消費税をめぐる疑問にQ&Aで答えるとともに、憲法が要請する日本の税制のあり方を考えます。
Q 財政が大変なので増税は仕方ない?
A 消費税増税しなくても財源はあります
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国と地方を合わせた長期債務残高は862兆円(10年度末財務省見通し)で、国民一人あたりにすると約670万円という大変な額です。
この巨額の借金をつくってきたのが自・公政権です。大企業や大金持ちへの減税を繰り返す一方、軍事費を拡大し、無駄な公共工事などに税金をつぎ込んできたからです。
民主党政権に代わったのに、自民党と一緒になって、このツケを消費税増税で国民に押し付けることは筋違いです。
「財政再建のためなら仕方ない」「借金のツケを子や孫に回すことはできない」と、消費税引き上げやむなしと思う人もいるでしょう。しかし、財政再建に使われる保障はまったくありません。
この22年間に国民が払った消費税の累計は224兆円ですが、法人税の減収額は208兆円に上ります。結局、消費税は法人減税の穴埋めに使われたのです(表1)。
日本経団連の米倉弘昌新会長は就任に当たり、「消費税の増税と法人税の減税を実現したい」と述べました。これが本音です。
世界的な景気低迷の中、低所得者へは減税し、その財源を富裕層に求めるのが世界の流れです。また、軍事費削減の流れもあります。
日本でも5兆円近い軍事費や「思いやり予算」、無駄な大型公共工事を見直せば財源は確保できます。
そして、大企業の研究開発減税や証券優遇税などの不公平税制を見直せば、07年度で12兆円も確保することができます。政治家が「身を削る」というなら年間320億円もの政党助成金こそ削るべきです。
Q 高齢化社会だから増税が必要?
A 消費税が増税されても社会保障には使われません
民主党が政策として掲げている子ども手当の財源、基礎年金の国庫負担の引き上げなど、社会保障の支出は、年々増加しています。
政府は、国民が抱える社会保障制度への不安を逆手に取り、財源がないから消費税増税が必要だと宣伝していますが、これにはまったく道理がありません。
そもそも消費税は「福祉のため」と言って導入されました。しかし、消費税が導入されてから21年。福祉は良くなるどころか、財政健全化を口実に、社会保障費は抑制されてきたのが実態です。02年以降、毎年2200億円が削られ、08年までの7年間で、1兆6200億円も削減されました。これは、在日米軍への「思いやり」予算とほぼ同額です。
消費税増税ではなく、軍事費などのムダ使いをただせば、国民への負担軽減と社会保障の充実はできます(表2)。
また、消費税を「福祉目的税化すればいい」という議論がありますが、税金は本来、すべて福祉目的に使われるものです。そもそも、立場の弱い国民の命と暮らしを支えるのが福祉です。
毎日の買い物にかかる消費税は、所得が低く立場の弱い人ほど負担が重くなります。これほど「福祉のため」にふさわしくない税金はありません。
消費税の福祉目的税化は、「福祉を充実させたいなら税率引き上げを。嫌なら福祉を切り捨てる」という国民にとって選びようがない選択を迫るものになりかねません。
Q 消費税は平等な税金?
A 消費税は低所得者ほど負担が重い不平等な税金です
消費税は「誰でも5%で、たくさんお金を使う人ほど多く負担するのだからいい」という人がいます。
しかし、消費税は低所得者ほど負担の重い税金で、収入のない子どもや生活保護の受給者など、税金を支払う能力のない人も課税されます。一方、高額所得者の所得に占める消費税の割合は低いのが分かります(表3)。
菅首相が、生活必需品の軽減税率や低所得者に対する還付を言い出したのも、消費税に先のような逆進性があることを認めているからです。
「消費税には逆進性があるが、所得税には累進性があるから、税負担全体では逆進性はない」という議論もあります。
しかし、消費税導入以来、所得税の最高税率引き下げなどによって、所得税の累進性が弱められてきました。所得税の最高税率引き下げと、金融資産の優遇税制(上場株式の譲渡益・配当に対する分離課税・10%軽課税率)で、所得が1億円以上になると逆に負担率が減っているのが現状です。
格差と貧困が広がる今、必要なのは、大企業・大資産家から応分の税金を徴収し、税や社会保障などを通じて低所得者層の生活を底上げする「所得再分配機能」の強化です。
Q 消費税増税で景気回復?
A 大不況を招き、中小企業はつぶされます
「消費税10%なんてとんでもない」と訴え、署名を集めた消費税廃止各界連の宣伝行動(7月23日・新宿)
菅首相は「消費税を増税しても使い方を誤らなければ経済成長できる」として、日本経団連の要求を代弁し、消費税増税を争点に参院選をたたかい、大敗しました。
しかし、日本経団連は、性懲りもなく消費税の増税を求め、「新成長戦略の早期実行を求める」提言を発表。2020年度までに、名目GDPで平均1・5ポイント押し上げ、約370万人の雇用増加があるとしています。
しかし、財界のこの主張には道理がありません。97年に消費税率を3%から5%に引き上げたとき、景気は悪化し深刻な不況を招いたのです。増税で景気回復した国は世界のどこにもありません。
増税した橋本内閣が参院選で大敗した後を引き継いだ小渕内閣は、空前の国債を発行し、借金を拡大しました。
08年のリーマンショックで大不況に突入するまで、大企業が史上最高のもうけを毎年更新し、100兆円超の内部留保を増やす一方、中小業者・国民はバブル崩壊以後の今日まで塗炭の苦しみを味わっています。
「消費税増税で景気回復」どころか、増税すれば大不況を招き、多くの中小業者は廃業を余儀なくされます。
Q 消費税の還付制度や軽減税率は負担減が目的?
A 「納税者番号制」や「インボイス」で国民管理が強化されます
政府は、還付や軽減税率を導入し、低所得者の負担を軽減すれば消費税の「逆進性」を解消できるといいます。
しかし、所得金額によって消費税を還付するためには、「納税者番号制」の導入が不可欠になります。菅首相が想定している基礎的な消費にかかった税額相当分を還付する制度では、世帯ごとの所得を正確につかまなければなりません。社会保障制度との共通番号制になれば、還付されたとしても社会保険料、国民健康保険料(税)、年金などの徴収に優先的に回されることになります。また、国家の国民管理・プライバシー保護という観点からも慎重な議論と検討が必要です。
軽減税率の導入は、商品一つひとつに税額票をつける「インボイス方式」となる可能性もあり、中小業者には過大な事務負担が強いられます。課税業者でなければ取引から排除されることにもなりかねません。軽減税率が導入されている国でも、どんなものに適用するかをめぐり、その線引きには意見も多く、業界の利益誘導が問題になっています。
日本国憲法は国民に最低限度の生活を保障しています。生活費には課税しないのがその原則です。還付するぐらいなら消費税は取るなということです。
Q 法人税が高いと大企業は海外に逃げる?
A 大企業の海外進出に法人税は関係ありません
大企業にはさまざまな税の優遇措置があり、実質的な法人税率はソニー12・9%、パナソニック17・6%など、諸外国と比べても高くありません。日本経団連自身も「表面税率は高いけれど、いろいろな政策税制や減価償却から考えたら、実はそんなに高くない」と発言しています。実質は国際的水準の25〜30%と大差ありません(表4)。
海外移転する理由について、大企業自身も法人税が高いからではなく、「グローバルな商品競争力維持の観点から決定されたもの」などと述べています。経産省のアンケート(海外活動基本調査08年実績)でも海外移転の理由を税制、融資等の優遇措置があるからと答えたのはわずか8%程度に過ぎません。
日本が法人税を下げれば、企業を呼び込みたい発展途上国などはさらに下げざるを得なくなり、無意味な法人税の引き下げ競争になってしまいます。
財界の要求どおりに法人税を引き下げれば、国の税収は9兆円も減収し、財政再建も社会保障の充実もできません。
「増税でつぶされる」中小業者の怒りの声
身銭切る血の一滴 〈長野佐久民商・Eさん(紙器製造)〉
消費税はまさに血の一滴。力関係で単価がたたかれるので、請求書には消費税が乗せてあったとしても名目だけで、実際には自腹を切って払うことになっています。
もし、税率が10%になったら資金繰りが破たんする業者が続出し、バタバタとつぶされることは必至。「消費税の増税」を宣言することは、「中小業者は消えていなくなっても構わない」と宣告することと同じです。
民主党は、昨年の総選挙で年収200万円以下の貧困層をなくすと公約したのに、今は格差を拡大して貧困問題を深刻にした自民党と何ら変わらなくなりました。
国民をばかにしています。国民、中小業者はもっと怒らないといけません。
民主党や自民党などの増税勢力に怒りをぶつけ、反撃をのろしを上げましょう。
地域が破壊される 〈鳥取民商・Kさん(飲食)〉
母がアジア料理店を始めて15年。私が手伝うようになって7年目です。魚や野菜などの食材は、地元産のものを使い、風土に合った味を大切にして、料理を提供しています。
もし消費税が10%になれば、お客さんは外食を控え、個人経営の飲食店は街から姿を消してしまうかもしれません。そうなると、残るのは大企業のチェーン店ばかりで、全国どこに行っても同じ味、同じサービスの居酒屋やレストランしかなくなるでしょう。
地方の活力や地元の味が消えれば、日本全体が均質化し、のっぺりとした特色のない国になってしまうのではと危惧しています。
お金がないから増税しかないというのは、政治家でなくても思いつきます。政治のプロなら、食文化を守るためにも、知恵を絞り、工夫すべきです。
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