応能負担の原則貫いて憲法に基づく税制を
庶民増税は許さない
[消費税]増税なら景気悪化 真の軽減へ5%に戻せ
消費税は、憲法が要請する応能負担原則(各人の能力に応じた負担)に反し、低所得者ほど負担が重くなる逆進性の強い税制です。人間が生きるために必要な生活費には税金をかけないという、生活費非課税の原則にも反します。
収入別に消費税額負担割合(総務省家計調査2013年よりみずほ総合研究所作成)を見ると、年間収入が増えるほど消費税の負担割合が少なくなっています。
消費税が2014年4月に8%へ増税されて以降、個人消費は落ち込み、GDP成長率を見ても、14年は年率マイナス0.9%、2015年に入っても、4―6月期、7―9月期の2期連続でマイナスとなるなど、日本経済全体を冷え込ませています。
消費税を税務署に納める中小業者が、市場競争や元請け企業との力関係の中で価格への消費税転嫁ができず、身銭を切って払う「損税」として苦しむ一方で、輸出大企業は莫大な輸出戻し税を還付されています。
湖東京至税理士の推算によると、トヨタなどの輸出大企業は消費税を税務署に納めたことは一度もなく、上位10社の受け取り金額は7837億円にも及んでいます(表1)。上位10社の本社がある税務署の消費税収入が還付税額によって赤字になっていることからもこのことは明らかです。
表1
安倍政権は消費税10%への再増税を2017年4月に強行するために、増税への世論の反発をかわそうとして食料品への「軽減税率」を盛んに宣伝しています。
しかし、「軽減税率」は低所得者だけでなく高額所得者にも適用され、より購入額の多い高額所得者の方が受ける恩恵が大きくなるために、低所得者対策にはなりません。8%は維持するのですから「軽減」という言葉自体がゴマカシです。低所得者への負担軽減というのなら消費税を5%に戻すことが一番の対策です。
大企業を優遇する一方、中小業者の営業と国民の生活を破壊する消費税は廃止するしかありません。
[所得税]生活費にまで課税 基礎控除の引き上げを
日本国憲法第25条は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」としています。このため税金を負担する能力(担税力)の有無を判断する基準として、少なくとも生活費には税金をかけないこと、すなわち「生活費非課税」の原則が、税制に求められています。
しかし、現在の所得税の仕組みを見ると、基礎控除、配偶者控除、扶養控除がそれぞれ年間38万円で、事業者の4人暮らし世帯の人的控除を足しても年間200万円(専従者控除86万円含む)にしかならず、生活保護基準額(都市部4人暮らし世帯、年間300万円超)を大きく下回っています。
全商連は当面、基礎控除を170万円(東京都1級地1の18歳単身者の生活保護基準額)に、配偶者控除、扶養控除をそれぞれ76万円(同単身者の生活保護基準額)に引き上げることを要求しています。
しかし、政府・与党の個人所得課税の改革論議では、配偶者控除とともに「人的控除」を「世帯控除」へと見直すとし、憲法が要請する課税最低限引き上げの論点は皆無です。
ドイツでは1992年に、連邦憲法裁判所が「生活保護基準を下回る課税最低限は憲法違反である」との判決を下し、政府は課税最低限を引き上げました。低所得者の税負担軽減を検討するのであれば、生活費非課税原則を実現するべきです。
さらに、税金は能力に応じて公平に負担されるべきだという「応能負担」の原則が税制に求められています。これは憲法13条(個人の尊重)、14条(法の下の平等)、25条(生存権)、29条(財産権)から導かれています。
しかし、実際には所得1億円を境に所得税負担率が低くなり、高額所得者ほど負担が軽くなっています(図1)。これは、所得1億円を超えるような富裕層の所得は、株や社債の配当所得によるものが多く、分離課税など優遇税制があるからです。
真の税制改革は、憲法にのっとった民主的税制のあり方を追求することです。
図1
[法人税]大企業減税前倒し 内部留保の活用図れ
安倍政権は、現行32.11%の法人実効税率(※)を2016年度に29.97%に引き下げる方針を固めました。15年度の税制改正大綱で国と地方に納める法人実効税率を16年度までに31.33%に引き下げ、20%台は「今後数年で」としていましたが、その実現を前倒しで進めようというものです。
法人実効税率を1%引き下げた場合の税収減は年4000億円に上る見込みです。この大企業減税による税収減の穴埋めとして狙われているのが赤字企業への課税強化で、資本金1億円以上を対象とする外形標準課税を広げる方針で、中小企業にも広がることが懸念されています。従業員の給与総額など事業規模に応じて課税するもので、利益に関係なく税額が決まり、赤字企業の負担は増えます。このほか中小法人の軽減税率(19%)の見直し、減価償却制度の定率法廃止、繰越金欠損控除の縮小、法人事業税など地方税の損金不算入化なども上がっています。
財務省によると14年度の内部留保は354.3兆円と過去最高を更新。空前の利益を上げる大企業の法人税を減税するために赤字企業や力の弱い中小企業に増税するなど、能力に応じて負担するという税のあり方を壊すものです。
今でさえ、大企業の実際の税負担率は、法定税率よりもはるかに低くなっているのが実態です。法人税は資本金が5億円以上になると、資本金が多いほど負担が軽く、租税特別措置や研究開発減税などの税額控除により、税負担率はすでに20%を切っているところも多く、中には6.2%(三菱商事)、8.3%(HOYA)しか負担していない企業もあります(表2)。
表2
巨額の内部留保を増やす大企業減税に道理はなく、応分の負担を求め適正に課税すれば、消費税率引き上げも中小法人増税も必要ありません。
内部留保の一部を活用して社会保障を充実させながら財政再建に道を開き、従業者の賃上げや下請け単価引き下げに回せば、景気回復にもつながります。
※法人実効税率…国税の法人税と地方税の法人住民税、法人事業税を合わせた税率のこと
消費税10% 6割超が反対
署名集め民意突き付けよう
消費税率が8%に引き上げられて以降、増税の影響で家計のやりくりが厳しくなったと感じた人は、約8割にも上っています(東京新聞全国調査 15年6月)。消費税増収分の8・2兆円のうち、社会保障の「充実策」に使われるのは、2割にも満たない1兆3500億円です。
一方、防衛省は16年度軍事予算の概算要求について、過去最大となる5兆911億円とすることを発表。14年度からの5年間の「中期防衛力整備計画」の総額は24兆6700億円にも上ります。戦争法廃止運動の拡大とともに、「消費税は軍拡と戦争準備の財源」という訴えに共感が広がっています。
軍事費や不要不急の大型開発などの歳出の浪費をなくし、大企業や高所得者への優遇をやめ応能負担の原則に立った税制改革を進めれば、約20兆円の財源を確保できます。
営業動向調査(中小商工業研究所2015年上期)によると、消費税を販売価格に転嫁できていないのは4割を超え、10%になった場合の見通しは約6割が「完全に転嫁できない」と答えています。課税売上高が1000万円を超えれば、赤字であろうと納税を迫られ、中小業者の経営悪化と廃業を加速させています。少なくとも、免税点を以前の3000万円に戻すべきです。米国に購入を迫られているオスプレイ17機(3600億円)より少ない約3000億円の予算で実現でき、約142万人の事業者の納税負担を軽減できます。
消費税が導入された1989年以来、数千万人分の消費税に反対する署名が国会に提出されてきました。その声が税率5%にされた97年から17年間も増税をストップし、15年4月に予定されていた税率10%も延期させました。17年4月に予定されている税率10%への引き上げには6割の国民が反対しています。署名を集め国会に届けることが、政治を変え、増税を中止させる大きな力になります。
来年の参議院選挙で消費税増税を大きな争点に押し上げ、増税中止の展望を開くためにも、署名運動推進が求められています。
不公平な仕組みこそ正せ
[社会保険料]小規模ほど重い負担 負担能力に応じ軽減を
社会保険料(厚生年金、健康保険)の負担が小規模事業者に重くのしかかっています。滞納事業者は13万8162社(2014年度)を超え、廃業に追い込まれる事態も生まれています。
滞納を理由にした売掛金などの差し押さえ件数は2万5094件に上り(2014年度)、日本年金機構が2010年1月1日にスタートして以降、急増しています(図2)。
図2
滞納事業者が増える最大の問題は、小規模事業所の負担が重過ぎることにあります。厚生年金の加入事業所176万社のうち4人以下は56.3%と半数以上を占め、事業所規模が小さいほど収納率が低くなっています。
厚生年金保険料は応能負担の原則が適用されておらず、月給61万円の社長と月給1億円の社長の本人負担の保険料は同じで、所得が低いほど負担は重くなっています(図3)。
図3
さらに健康保険は、加入者の平均収入が低い協会けんぽの保険料率の平均が10.00%に対して大企業の健康保険組合は8.635%、公務員などの共済組合は8.20%になっています(2013年度)。
国税庁によると、法人税を申告した約276万件のうち黒字だったのは27.4%にとどまり(2012年度)、7割以上が赤字で、社会保険料を払いたくても払えない状況が広がっています。
昨年6月に成立した小規模企業振興基本法(小規模基本法)は小規模企業が地域経済に果たしている役割を評価し、「事業の持続的発展」を図ることを国と自治体の責務と定めました。
付帯決議では「社会保険料が小規模企業の経営に負担となっている現状があることに鑑み、小規模企業の事業の持続的発展を図るという観点に立ち、従業員の生活の安定も勘案しつつ、小規模企業の負担の軽減のためにより効果的な支援策の実現を図ること」を決議しました。
ところが、国は社会保険料の負担軽減策をとらずに未加入事業者への加入指導を強めています。
厚生労働省や日本年金機構は国税庁などの資料をもとに、今年度から3年かけて未加入の75万社への指導を強化する方針で、マイナンバー制度で行政間の情報共有をさらに強める構えです。
一方、国土交通省は「指導書」を送付するなど従業員が5人以上いる建設業許可業者(法人・個人とも)の社会保険加入を強制的に進め、2017年度以降は未加入業者を現場から排除しようとしています。
こうした動きは小規模基本法に逆行するものです。
全商連は小規模事業者が安心して加入できる社会保険制度の確立をめざし、「改善のための三つの提案」を行っています。
[相続税]対象広げ庶民増税 富裕層への課税強化で
憲法29条は国民が生きていくために必要な財産権を保障しています。相続税はこれを侵さないように、相続する財産が一定の金額に達しなければ課税されないようになっています。
一定の金額というのが課税最低限となる相続に関わる基礎控除です。2012年中に亡くなった人は126万人でしたが、そのうち相続税の課税対象になったのは約5万2000人で課税割合は4・2%でした。
ところが2013年度の税制「改正」によって基礎控除が4割も引き下げられました(2015年1月1日実施)。
例えば相続人が2人の場合、5000万円+1000万円×2人=7000万円だった基礎控除が3000万円+600万円×2人=4200万円になりました。この場合相続する財産が4200万円以上になれば相続税が課せられるということです。
今回の基礎控除の引き下げで課税対象は6〜7%に増えると試算されており、自宅と現金の相続だけでも相続税を払わなければならなくなる対象者が広がります。
小規模宅地などに対する課税特例制度は限度面積要件の拡充や適用要件が緩和されましたが、2010年度の税制「改正」で相続人が相続税の申告期限までに事業や居住を継続しない場合は適用されないように適用範囲が縮小されました。
一方、相続税の最高税率は50%から55%になりました(2015年1月1日実施)。最高税率は2001年までは70%でしたが、2003年1月1日以降の相続から大幅に引き下げられ、3億円を超える相続は一律50%になり、富裕層には大減税になっていました。
今回、最高税率を引き上げたといっても、引き上げ率はわずか5%です。少なくとも70%の水準に戻すべきです。
相続税は累進税率を適用して富を再分配するという役割を担っています。応能負担の原則にたって少額の資産への課税強化ではなく、富裕層の資産への課税強化が必要です。
トヨタ自動車 5年間法人税ゼロ 利益に応じ適正負担を
株主に1兆円超の配当をし、内部留保も増やしながら法人税は5年間ゼロ―。昨年5月、トヨタ自動車の豊田章男社長は記者会見で、2008年度から12年度の5年間、法人税を納めていなかったことを発表しました。
なぜそうなるのか。それは、繰越欠損金に加え、課税所得を少なくする「受取配当益金不算入」や、いったん算出した法人税額から差し引く「試験研究費の税額控除」や「外国税額控除」(海外の子会社が納めたとする税金を本社の税額から差し引く)などの大企業優遇税制があるからです。
例えば2008年度のトヨタの税引き前利益は1826億円ありましたが、受取配当益金分780億円を引いて算出した税額から、試験研究費の税額控除161億円や外国税額控除895億円を差し引くことで、法人税額がゼロになっているのです(表)。
表
菅隆徳税理士は「トヨタが法人税を1円も払わなかった5年間の株主配当は1兆543億円に上る」ことを明らかにし、「大企業は利益に応じた税金を負担するべきだ」と指摘しています。
全国商工新聞(2015年12月14日付) |