まやかしの低所得者対策 軽減税率の狙いと問題点
元静岡大学教授・税理士 湖東京至さんに聞く
消費税増税を強行し「増税不況」で中小業者・国民の営業と暮らしの悪化を招いた自民・公明・民主3党の責任は重大です。ところが、増税責任の追及をかわそうと、自民・公明両党は消費税10%への引き上げ時(2017年4月)に合わせて、「軽減税率」を導入し、「低所得者の負担を軽くする」と大宣伝しています。「軽減税率」の狙いと問題点を、元静岡大学教授で税理士の湖東京至さんに聞きました。
低所得者のためでは?
価格下げる効果は薄い
―― 低所得者対策として軽減税率を導入するといいますが
軽減税率が導入されても、期待するほど価格が下がる保障はなく、なんの役にも立ちません。軽減税率の導入は消費税への批判をかわし、消費税中心の税制を続けることにほかなりません。
ペットボトルの水を例に考えてみましょう。消費税率10%として、水は軽減税率対象の5%とします。中の水は5%でも、ボトルの容器、キャップ、製造に当たっての電気代、包装の印刷代、運賃等は10%が適用されますから、軽減されるのはわずかです。
消費税法上の価格決定権は企業にあります。いくらにするかは企業任せで、企業におすがりして下げてもらうわけです。
現行消費税8%で150円のペットボトルは、軽減税率5%だと145円50銭ですが、その価格に下がる保障はありません。いくらになっても文句は言えない仕組みなのです。
―― 軽減税率は低所得者に効果はあるのでしょうか
低所得者対策というのはまやかしです。飲食料品などの軽減税率は低所得者にも高額所得者に適用されます。可処分所得が少なく毎日の生活費に事欠くような低所得者の購入する飲食料品より、高額所得者の購入する飲食料品等が多く、その効果は逆進的に進みます。
結局、軽減税率は高額所得者をますます潤わせるだけで、低所得者対策にはなりません。
本当の狙いは何か?
企業への隠れた補助金
―― 軽減税率の本当の狙いは何でしょうか
軽減税率は適用される企業に対する補助金としての役割を果たします。
日本新聞協会は「新聞や書籍は軽減税率にせよ」と迫っています。
例えば読売新聞は月極め朝夕セットで4037円です。この新聞が5%の軽減税率を適用された場合、納税義務者である大手新聞社の消費税適用税率は5%です。しかし紙代、インク代、輸送費、資材費、宣伝費など製造コストには10%が適用されます。そのため新聞代は3%分下がりません。
消費税の計算は、「売上高×5%-仕入高×10%=納税消費税額」となりますから、新聞社の消費税納税額は確実に軽くなります。これが隠れた補助金の正体です。消費税率が上がり、軽減税率との差が広がれば広がるほど企業への補助金が増えることになります。
すでに、軽減税率を導入しているドイツでもこの問題が注目されています。企業の補助金となる軽減税率は廃止しなければならないという論議が始まっています。軽減税率の導入は新たな不公平を招くことになるのです。
与党税制協議会は17年度からの実施に向けて検討すると言っています。対象品目をどこまで認めるかはこれからですから、適用してもらいたい業界は必死に陳情するでしょう。自民党などの族議員が暗躍することは目に見えています。選挙でどれだけ票を稼いだか、政治献金をどれだけ積まれたかで適用される業界が決まることになります。
中小企業への影響は?
複数税率で実務複雑に
―― 軽減税率が実施されると、中小業者の実務負担が増えるのでは
軽減税率が導入されるということは、複数税率が存在することになります。
与党税制協議会でも「消費税は、事業者が納税義務者ですから、軽減税率は納税義務者に追加的な事務負担をもたらす」としています。
そこでは(1)EU型のインボイス(税額票)方式を採用する(2)その場合は免税事業者は取引から排除される恐れがある(3)複数税率制度の導入により、現行の簡易課税制度の事業区分を細分化し、それぞれのみなし仕入れ率を設定することになるため簡易課税を選択した事業者の経理事務が複雑になる-としています。
そして「消費税の益税」議論の延長で、10%と合わせて「免税点の引き下げ」も当然議論されることになります。現行1000万円が500万円程度になったら大変な事態となるでしょう。
このように軽減税率の導入にいいことは少しもありません。
総選挙で増税勢力に審判を下して消費税増税を絶対に阻止し、せめて消費税は5%に戻すことこそ最大の経済対策です。
全国商工新聞(2014年12月8日付) |