所得税法56条と米価算定で二重差別を受ける農家
中小業者の働き分は、所得税法第56条で経費として認められていません。中小農家の場合も、働き分が経費として認められないうえに、生産米価の算定に「家族労働費が認められていない」ことが分かりました。働く者の人権を認めさせる上で、56条の廃止は階層を超えた課題となっています。
全農が作成した内部資料で発覚
「全農やまぐち」が内部資料として作成した「水稲10アール当たりの生産費試算について」(表1)。
これによると10アール当たり、種苗費や肥料、農機具費などの物財費9万8232円、労働費6881円、費用合計10万5113円となっています。これを10アール当たりの収量を500キロとして、60キロ当たりの生産費で見ると、物財費1万1788円、労働費826円、費用合計が1万2614円となっています。
家族労働分の試算あるのに
ところが、別の「水稲10アール当たりの生産費試算について」(表2)を見ると、労働費を5万5589円と見て、60キロ当たりの生産費は6671円、合計1万8459円としています。
表2の労働費5万5589円の明細を聞くと「うち家族4万8708円」を含んでいるとのこと。その差額6881円(60キロ当たり、826円)が家族以外の雇用費として計上した分です。
つまり、本来家族労働分を加えた米価であるべき試算までしてありながら、現実の米価は雇用費分のみで算出されているのです。
全農やまぐちに「家族労働分4万8708円はどこへ消えたのか」と聞きました。「その数字がどこから出たのかは知らない」とことわりつつ、「家族労働分も確保できる1万8000円で売れないといけない。それがベースになるはず。しかし、実態は1万2000円ぐらいでしか売れない。結局、家族労働分は取れず、経費割れを起こしている」(JA山口中央会・松村明農業振興部部長)と、家族労働分は生産費に含まれていないことを認めました。
全農やまぐちの試算には、中国四国農政局山口農政事務所統計部の統計が使われています。
統計部の説明によると、労働費5万5589円は、「県の毎月勤労統計調査」の65歳未満の兼業農家で、働いている人が1戸当たり平均1人として、労働単価1576円に労働時間35・27時間をかけた数字と説明。これは、10アール当たりの労働時間としていますが、県内約8万戸の農家のうち、たったの7戸の平均だということです。
農家の家族労働が、生産コストから完全に排除されている上に、所得税の計算でも56条で労働分が経費として認められないという二重の差別を受けていることは大きな問題です。
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