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軍事費の削減か、法人税増税こそ
社会保障削減か消費税増税か二者択一論はまちがい
暮らしと経済研究室主宰 山家悠紀夫さんに聞く
福田改造内閣が8月1日、発足しました。財務相に伊吹前幹事長、経済財政担当相に与謝野前官房長官と、消費税増税派を配置。福田首相は「消費税(増税)なしで財政再建できるとは考えられないし、安心できる社会保障制度も成り立たない」と言い切りました。「社会保障か、消費税増税か」と、国民に二者択一を迫る福田政権に、暮らしと経済研究室主宰の山家悠紀夫さんは「おかしな議論。社会保障を充実させるために、軍事費の削減か、法人税増税を」と反撃を呼びかけました。
二者択一を迫る政府の新戦略
社会保障費を削減するとともに増税もする、それも消費税で増税するというのは、小泉内閣以来の自・公政府の既定路線です。
小泉内閣のとき「骨太方針06」で、政府の方針として、11年までに基礎的財政収支を黒字にするという大目標を掲げました。そのため、小泉内閣のうちはとりあえず歳出削減でいく、特に、増加が見込まれる社会保障費を削る、というものでした。この方針に従って、06年以降、生活保護費の削減、介護支出の抑制、後期高齢者医療制度の導入をはじめとする医療費支出の抑制など、どんどん歳出削減を推し進めてきました。
その後、安倍内閣の下で、消費税増税をしようと計画していたのです。できれば参議院選挙後の07年秋に消費税増税を決め、今年の4月から実施する計画でした。
しかし、参議院選挙で政権与党の自民党と公明党が大敗し、とても消費税増税を持ち出せる状況ではなくなってしまったのです。
そこで自・公政府は、社会保障とのバーターで消費税増税を提案するという新たな戦略を考え出したのです。今の状況では、どう考えても消費税増税法案が参議院を通るとは思えません。そこで、通すためには一方で社会保障をちらつかせ、これを削減しないためには、あるいは充実させるためには、消費税増税が必要だと主張することが有効だと思ったのです。
民主党も社会保障をきちんとするならば消費税増税でもいいという考えですから、これは可能性があると、その戦略を一生懸命進めているのです。
政府は消費税増税をあきらめてない
政府にとって都合の悪いことに、ここにきて景気が悪くなり始めました。サブプライム問題などに象徴されるアメリカの景気の悪化が日本にも波及し、さらにガソリン高、食品高などが重なって物価も上がっています。
ここで消費税を上げたりしたら、景気が大変なことになる恐れが出てきて、消費税増税には非常にタイミングの悪い状況が生まれてきています。
では当面、消費税増税はないと安心していていいかというと、そうではありません。
政府与党にとって、消費税増税の先送りは、消費税増税を実現するための世論操作や野党工作をする時間が生まれてきた、ということでもあるのです。
マスコミには、財政再建のためには消費税増税しかないという思い込みが浸透しています。
景気回復に、ある程度めどが見えてきたときに、もはや国民がどう反対しても消費税の増税を阻止するのは難しい、という状況が生まれている可能性があります。
消費税増税に反対する側としては、消費税増税の必要はないんだということを、今こそしっかり学びつつ、増税反対のたたかいを強めていく必要があります。
今は、消費税増税の断念に政府を追い込む、あるいは民主党の考えを変えさせる大事な時期だと思うのです。
社会保障の充実は急務の課題
社会保障をもっと充実させなければいけないということは明らかです。
ヨーロッパの先進国政府は、日本よりはるかに社会保障関係にお金を使っています(図1)。年金、医療、介護等の福祉関係の政府支出の合計額の、経済規模に対する比率を見ると、日本は約18%、ヨーロッパの主要国は27〜30%です。10%ぐらい開きがあります。
GDP比で10%ということは、日本のGDPはざっと500兆円ですから50兆円ぐらい日本政府の支出が少ない。日本政府は今、およそ90兆円を使っていますが、あと50兆円出してようやくヨーロッパ諸国並みの水準になるということです。しかも、日本はヨーロッパの国々よりも高齢化が進んでいますから、本当はもっと使っていてもおかしくないのです。
社会保障費の増加分から毎年2200億円を削り続けたことのゆがみがあちこちに出てきています。社会保障費をさらに削るなんていうのは論外なのです。
軍事費支出など、まずムダを見直せ
社会保障費は増加させていかなければならない。ではどこにその財源を見つけていくか。
政府は短絡的に消費税増税でといいます。しかし、社会保障の充実と消費税の増税とはまったく無関係です。
まず、政府支出の中で削っていいものを見つけて、そこから財源をひねり出す必要があります。
削っていいものとして、一番に挙げられるのは軍事費です。そもそも、平和憲法がある日本で毎年5兆円近い軍事支出があるのは問題だ、ということが大前提としてあります。
しかも、日本がどこかから攻められるなんていう状況ではない。ロシア、北朝鮮、韓国、中国などと親密に話し合いをして、お互いに協力し合う関係をつくり出せば、もう軍隊は日本にはいらないということになります。
また、今の軍事支出の中身を見ますと、実に無駄遣いが多い。実戦には役に立たない戦車とか、クラスター爆弾などにたくさんのお金を使っています。年2000億円を超える思いやり予算なども、条約上は何の負担義務もないものなのです。
もう一つ大きな支出が公共事業関係費です。他国との比較で言うと、経済規模に対する比率で、日本は2%ぐらい余分に使っている。2%ということは10兆円です(図2)。公共事業関係費はそのくらい削れる余地があると思います。道路など、あれだけ批判があったのにまだ引き続き全国で建設しようとしています。
だから本当は「社会保障費削減か消費税増税か」ではなく、削減すべきは「社会保障か軍事費か」「社会保障か公共事業か」という問いかけがあっていいのです。
こう問いかければ、多くの国民がどちらを選ぶかはおのずから明らかでしょう。それが嫌だから、政府は「社会保障費削減か消費税増税か」としか問いかけないのです。
国民負担は、負担能力あるところから
無駄な政府支出を削って、それでも足りない場合は、国民負担をどうするかという問題があります。
税や保険料などの負担については、大原則は、負担能力のあるところに負担をしてもらうということです。これが一番大事です。
今、負担能力が圧倒的に高いのは大企業です。史上最高の利益を上げ続けてい
るにもかかわらず、法人税は、もうけが今の半分以下か(10年ほど前)、半分ぐらい(20年ほど前)の時と同じだけの金額しか負担していません(図3、4)。法人税率を99年以前のレベルに戻すだけで数兆円の税収増加が期待できます。日本の企業の社会保険料負担が欧米企業に比べてかなり軽いということもあります。保険料ももっと負担してもらっていい。
高額所得者にも負担能力は十分にあります。高額所得者に対する所得税税率の引き下げが急速に進められていて、税負担が軽くなっているからです(図5)。所得税と住民税を合わせた最高税率は今、50%ですが、99年以前の65%(所得税50%+住民税15%)に戻して負担してもらってもいい。社会保険料率の累進性を高めることも可能です。
株式の売買益や配当に対する税率も、ものすごく優遇されています。分離課税で20%(一部10%)。勤労所得ですと最高税率50%ですけれども、株の売買益や配当だと税率20%というのは不公平です。欧米ではほとんどが総合課税です。分離課税50〜60%にして、いやなら総合課税という選択制にしていい。
政府の「二者択一論」に対しては、私たちは社会保障は充実が必要という大前提に立った上で、財源は軍事費や公共事業関係費を削ることによって捻出できる、大企業や高額所得者、資産家に負担してもらえるというように、自信をもって主張していっていいと思います。
私たちの方が国民の多数派で、これは十分勝てる論争なのです。この秋のたたかいで政府の「二者択一論」を打ち破っていきましょう。
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