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  トップページ > 税金のページ > 地方税 > 全国商工新聞 第2815号 1月28日付
税金 地方税
 

地方税滞納者の行政サービスを制限
全国40市町 乳幼児医療、紙おむつなど
北海道石狩市 収納率アップへ制限条例

   地方自治体による地方税滞納者への強権的な徴収が激しくなる一方、滞納者に対して、さまざまな行政サービスを一括して制限する動きが全国的に広がっています(40市町=別項参照)。制度融資の申し込み、小規模工事の受注、生活に密着した公営住宅の入居、奨学金や祝い金の支給など広範な制度から排除するもので、影響は計り知れません。そのような「行政サービス制限条例」の制定が最も進んでいる北海道(19市町)のなかで、昨年3月に条例を制定した石狩市(2万5562世帯・人口6万1473人=07年末)を取材しました。

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滞納者への懲罰的な徴収をすすめる石狩市
 石狩市は以前から市税(市民税・固定資産税・軽自動車税・都市計画税・国保税)の完納要件を設け、公営住宅の入居など6項目の行政サービスを制限してきました。昨年7月に始まった「特定滞納者に対する特別措置に関する条例」は、これに加えて老人医療費・乳幼児医療費の一部給付など、8項目に及ぶ生活扶助費的な行政サービスを一斉に制限するという内容です(表1)。
  市長が指名する審査委員会(年2回)で「著しく納税意識に欠ける人」を「特定滞納者」と認定(図1)。昨年7月、すでに9人が認定されました。
  いったん「特定滞納者」とされた人は、滞納税金を完納するか、半分程度を納付し、分納誓約しなければ解除されることはありません。「特定滞納者」の認定基準には「納税誓約しても守らない人」も含まれ、払いたくても払えない人も「特定滞納者」となり、今後ますます増えることが予想されています。

抑止効果が狙い
  市税収納を担当する佐々木学参事は「市税を払わなかったらこうなりますよという抑止効果が狙い」と言い切ります。「条例制定の根底には市の財政の悪化がある。年度越えの市税滞納者は4272人。市税滞納額は6億8600万円に上る。市は差し押さえもできるが、それを使いきれる技術もない」。
  はたして制裁行政で収納率向上が望めるのでしょうか。市は昨年3月議会で、払えるのに払わない「悪質滞納者」とみなしているのは市税滞納者のうち約10%と回答。滞納者のほとんどが生活困窮者であることを認めています。
  「抑止というが、この条例は税金滞納と行政サービスを結びつけることで、もっとも援助が必要な滞納者をサービスから切り離し、いっそう追い込んでしまうのではないか」との質問に、佐々木参事は「その通りだと思う」と認めました。
  この条例の目的は滞納の抑制だけにとどまりません。市民部長は昨年3月議会で、生活扶助費的な行政サービスの制限は「財政再建計画」に基づく支出削減の位置づけもあると、あからさまに述べました。

特定滞納者9人
  市の行政サービスの申請者は1万人を超えます。「特定滞納者」かどうかをどうやって判断するのでしょうか。石狩市は行政サービスの申請者に個人情報保護法に基づく納税状況調査の承諾書に記入してもらい、それぞれの課が申請の度に納税課に照会を出し、納税状況を確認するといいます。
  「事務処理は確かに大変。『特定滞納者』は今は9人だけだが100人にでもなったらどうなるか」と佐々木参事。12人いる税務課職員が本来の業務以外のこうした手続きに追われる不安を隠せませんでした。

条例反対の町も
  北海道清水町では06年3月、町税滞納者に33もの行政サービスを制限する条例案を提出する予定でしたが、多くの住民や議員の反対で見送りました。憲法が定める生存権まで制限できるのか、行政サービスの利用に複雑な手続きを増やすな、むしろ必要なのは滞納者への個別の援助と自治についての教育だ‐など、問題点が次つぎと明らかに。
  反対運動の先頭に立った日本共産党の清水町会議員の妻鳥公一さんは「『三位一体』の政治で、地方自治体が多くの困難をかかえるなか、こうした時こそ町の政治は町民と心を一つにしなければならない。条例案はまったく逆行している」と批判しました。

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特定滞納者とは

(1)納税能力がありながら、納税督促に応じず納税意思を示さない人
(2)再三の督促に対して納税相談も納税誓約もない人
(3)納税誓約をしても守らない人
(4)行政や行政上の制度に対する不満を理由に納税を拒否する人

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憲法的要請の放棄
日本大学名誉教授 北野弘久さんのコメント
 私たちは、今回の行政サービス制限の動きの背景に「小泉・竹中」に象徴される新自由主義的政策の本質的誤りを洞察しなければならない。
  国の最小限度の職務・使命は、どの地域に住んでいようと、等しく人びとのナショナル・ミニマム(生存権)を保障することにある。憲法25条は、国が私たちの「健康で文化的な最低生活」を保障することを私たちに約束している。
  「小泉・竹中」の「三位一体改革」の名で行われた地方への補助金・地方交付税などの画一的削減や、低所層の市税・社会保険料などの負担増によって財政面から「地方疲弊」「地方格差」をもたらした。
  その穴埋めとして、市民が等しく受けられるはずの行政サービスを市税滞納を理由に一部の人びとに提供しないという。拒否された行政サービスのほどんとが老人・乳幼児医療費補助、公営住宅入居、中小企業の工事受注など人びとの生存権に関するものである。
  滞納になった市税が果たして憲法の応能負担原則(憲法13、14、25、29条)の趣旨に合致するものであるか、最低生活費非課税の原則の要請に合致するものであるか、この際、厳しく見極められる必要がある。
  私たちは日本国憲法の下で、自分たちの納めた租税が人びとの生存権保障の「福祉」のためにのみ使用されることを前提にして、かつその限度で人びとの能力に応じてのみ、つまり憲法の「応能負担原則」の趣旨に従ってのみ、納税義務を負うという権利を保障されている。私たちはこの権利を「納税者基本権」と呼んでいる。
  憲法は大企業・金持ちにその能力に応じて重い負担をしてもらい、それを社会的弱者である人びとの生存権、つまり「福祉」のためにのみ配分することを約束している。市税滞納を理由にした行政サービス提供の拒否は、この憲法的要請の放棄だ。職務放棄だ。

行政サービス制限条例が制定された自治体
  北海道‐美唄市、室蘭市、赤平市、石狩市、新得町、南幌町、新冠町、浜中町、上富良野町、斜里町、七飯町、日高町、芽室町、上川町、乙部町、上ノ国町、清里町 岩手県‐紫波町 宮城県‐白石市、色麻町、柴田町、蔵王町 栃木県‐大平町、二宮町 神奈川県‐小田原市 新潟県‐上越市 長野県‐辰野町、上松町 富山県‐立山町 福井県‐美浜町 三重県‐亀山市 和歌山県‐上富田町 鳥取県‐米子市 徳島県‐藍住町 香川県‐三木町 沖縄県‐竹富町
   
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