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中小商工業研究所
 

中小業者の力で共生経済を=第11回夏期研究集会

 第11回夏期研究集会(全国商工団体連合会付属中小商工業研究所)が8月23、24の両日、神戸市の兵庫県立大学で開かれました。「地域から変える 地域からつくる 共生経済」をメーンテーマに、研究者、議員、事業者など全国から262人が参加。阪神淡路大震災から来年20年を迎える神戸の地で、地域循環型経済や災害時に中小業者が果たす役割について実践的な討論を交わしました。

大震災の経験に学ぶ 全体会・シンポジウム

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アベノミクスと被災地復興の現状と課題を深めたシンポジウム

 循環型経済実現めざし
 太田義郎・研究所運営委員長が「地域循環型経済をつくるため、小規模基本法が国会で制定された。私たちには小規模企業を振興する具体的な政策を各自治体に求め提起し、交渉し実践していくことが求められている」とあいさつ。
 特別講演を行った兵庫県立大学大学院の佐竹隆幸教授が激変する政治・経済情勢に対応する経営力アップの必要性と民商などでの学習・交流に参加することの重要性を強調し、「持続可能な地域循環型経済を実現するためには、地域にある資源を活用して、ヒト・モノ・カネの地産地消を果たし、強い企業をつくることが必要」と話しました。

 復興の姿は憲法の中に
 「アベノミクスと被災地復興の現状と課題」のシンポジウムでは、4人のパネリストが阪神淡路大震災と東日本大震災の経験を交流しました。
 兵庫県商工団体連合会(県連)会長の磯谷吉夫さん=飲食=は、阪神大震災の体験を報告。4店舗中2店舗を失う中、震災直後から500円のワンコインランチを提供し地域住民を励ましたことや、被災者支援を求め交渉を重ねてきたことに触れ、「被災者の役に立つ運動を進めてきたことが誇り」と話しました。また、震災後1カ月もしないうちに「創造的復興」と称し政官財一体で急速にゼネコンの大型開発が進んだことを紹介し「震災の困難の中で何も知らされず、被災業者は見捨てられた」と悔しさを語りました。
 東日本大震災の被災地からは、宮城・気仙沼本吉民商の千葉哲美事務局長が発言。中小企業等グループ補助や設備復旧支援補助金など、事業者向けの支援の拡充が被災地の業者を励ます一方で、人口流出や14メートルの防波堤などゼネコン中心の復興に対する危機感を語りました。
 収束しない福島第一原発事故について、福島・浜通り農民連の三浦広志副会長が発言しました。「福島の農民で米作りを3年休んだ人は、身体的、心理的、設備的に再開が困難になっている」と現状を報告。「ボランティアとの田んぼアートや原発20キロ圏内ツアーで県内外の人たちに福島のことを発信する取り組みで希望を生み出している」を話すと、会場から激励の拍手が起きました。
 愛知大学の宮入興一名誉教授は「平和的生存権、居住権、労働権など日本国憲法の中にこそ本来の復興の姿がある」とし、「人間的復興の実現は、日本中の中小業者に課されている問題。地方から動きを起こそう」と参加者に呼びかけました。
 コーディネーターを務めた京都大学の岡田知弘教授は「消費税増税、TPPなどアベノミクスは東日本大震災の被災地で復興の障害になっている。20年目を迎える阪神淡路大震災から復興の姿を学び、震災時に活躍する事業者、地域産業を普段から育成することが大事」と語り、「現代は災害の時代。自らの地域の事業と暮らしを維持し、国土とどう共生するか考えなくてはいけない」と強調しました。
 2日目の24日は、6分科会で活発に議論しました。

全国の経験学び合う 分科会討論

小規模基本法活用訴え=第1 広がる振興条例
 第1分科会は、小規模基本法の制定を受けた地域循環型経済づくりと、小規模企業者の果たす役割をめぐって実践の交流と活発な議論が行われました。
 駒澤大学の吉田敬一教授が、「小規模基本法をどう活用するか」と基調発言。法制定までの経緯を振り返るとともに、「基本法は理念を示すものであり、具体化のための施策が重要」と指摘。地域振興条例の制定・活用とともに(1)固有技術の確立と先鋭化を支援する「点の政策」(2)川上から川下へ、地域内循環を強化する「線の政策」(3)地域ブランドをつくる「面の政策」―を自治体に迫ろう、と強調しました。
 実践例では3人が報告。愛媛県連の川原光明会長は、4年連続の自治体キャラバンに取り組み、リフォーム助成や振興条例を実現した経験を報告しました。滋賀県連のIさんは、小規模基本法制定を力に、再生可能エネルギーを活用した中小業者の技術活用など12項目の要求を掲げ、県交渉した実践例を紹介。東大阪東部民商の丸谷賢司事務局長は、大阪自治体問題研究所などと共同で実施した1000社を超える「ものづくり」アンケート調査の特徴と課題について報告しました。
 会場からは、各地の実践例とともに「企業誘致をどう考えたらいいのか」「制度は作るが、活用がうまくいかない。どうすればいいか」など率直な質問も。
 吉田氏は「『待ちの姿勢』を脱皮し、地域に合った政策をつくるとともに、それを活用し成果をどう生かしていくかが今後の課題」とまとめました。

円滑化法後の戦略討論=第2 地域金融の課題
 第2分科会では、事業再生と地域金融の課題をテーマに活発な論議が交わされました。
 座長報告した全商連の中山眞常任理事は、金融円滑化法廃止後の金融施策、廃業率10%を掲げた成長戦略の問題点や小規模企業振興基本法制定の意義を解明。経営改善計画づくりや自治体、金融機関の役割発揮を求める運動の必要性を指摘しました。
 助言者を務めた静岡大学の鳥畑与一教授は、「赤字企業は単純に切り捨ててよいわけでなく、金融円滑化法後の我々なりの出口戦略が必要」と強調。カジノ誘致を進める動きにも触れ、「地元企業や地域循環を壊す」と批判しました。
 報告や討論では、地域金融機関との信頼関を築いてきた経験や、地域に資金を循環させる日本版・地域再投資法の提案、中小企業振興基本条例制定後の金融機関の動きと課題、保証協会の統合で2万事業者が不安に直面している実態、特定調停の活用、アメリカのコミュニティーバンクが果たしている地域貢献の役割、阪神淡路大震災での特別融資の返済期間延長のたたかいなど、多彩な経験や実践が報告されました。
 助言者で駒澤大学の番場博之教授は、自己責任が強調される中、中小業者の社会的役割を共通認識にする中小企業振興基本条例の意義を強調。鳥畑教授は、赤字企業を切り捨てる成長戦略の「新陳代謝論」とたたかい、地域金融機関を育てる立場で業者の実態を示していくことが大切と強調しました。

負担軽減へ課題鮮明に=第3 憲法生かす税・社会保障
 第3分科会では、座長の太田義郎・全商連副会長が、消費税増税と中小企業が増税になる外形標準課税が大企業減税とセットで行われようとしている問題について報告しました。
 佛教大学の金澤誠一教授は、アベノミクスが狙う保育、医療、介護、年金の社会保障4分野改革の問題点について解説。広域化が始まる国民健康保険(国保)などについて、保険料の値上げや徴収が強化される危険性について指摘しました。自助・自立を迫る安倍政権の改悪に対し、「低所得者や高齢者など社会的弱者の生存権を保障するのが社会保障制度の役割。国保など保険料を低額にする必要がある。国の責任で公的資金を投入しなければならない」と強調しました。
 秋元照夫税理士は、「消費税増税と法人税(所得税)減税の構造」と題して、国の財政赤字の問題について検証。3大メガバンクグループが約109兆円にも及ぶ国債保有で莫大な利益を挙げている実態を告発しながら、銀行などが抱え込んだ債務危機を政府に転嫁し、国民の負担によって解消しようとする政策を批判しました。社会保障費を確保しながら財政を健全化する方策として、大型公共事業や軍事費など税金の無駄遣いをただしながら、国債の元本返済を一時凍結することなどを提起しました。
 大阪・吹田民商の山崎普賢事務局員が、高すぎる国保料や税の滞納問題について、兵庫県社会保障推進協議会の森口眞良副会長が、神戸市の国保改善運動について、鳥取・米子民商の滝根崇事務局長が鳥取県児童手当の差し押さえ違法判決の意義について、報告しました。

経営改善の展望つかむ=第4 事業計画づくり
 第4分科会「小さくても輝く会社は『経営計画』から」には55人が参加。経営計画作成の工夫や効果などについて交流しました。
 中小企業診断士の上品忍さんが「経営計画は融資のためだけではない。作って終わりではなく実践して、見直してまた作り直す作業が大切」と強調。図を多用し項目を立てるなどのわかりやすい計画書の書き方も説明しました。
 計画作りに取り組んできた経験を3人が報告。兵庫・灘民商のIさん=ウェディングレストラン=は、共同経営者やスタッフと議論し、「人が集う機会を創出する」とした経営理念と計画を作成。事業の本質は「人が集まる楽しさを提供すること」と明確化し、「納得して仕事をしていく力になっている」と話しました。
 岩手・一関民商の山口伸事務局長は、民商で経営計画作りに取り組み、国の制度「グループ補助金」をかちとった経験を発言。「単独では計画を作りにくい下請け事業者も、他社と連携して策定に関わることで強みや将来への展望をつかんだ」と報告しました。
 新潟・新津民商のHさん=工務店=は、民商の仲間と市場・競合・自社の3C分析を行い、地域の若い人に自社の仕事が理解されていないことに注目。「若年層の顧客を取り込むために、新しく3Dソフトを導入した。家造りの具体的なイメージができると好評を得ている」と話しました。
 会場からも「経営理念は『商売のその先の価値』をお客さんに伝える大切なもの」「数字を扱う業者婦人に経営計画作りに参加してもらえれば、より実践的なものが作れるのでは」などの意見が出されました。
 助言者の和歌山大学・足立基浩教授はまとめで、「地域とつながる視点で経営計画を生かし、時代に会った業態変換や新しいビジネスにも挑戦しよう」と呼びかけました。

地域再生へ実践を交流=第5 自然エネルギー活用
 自然エネルギーを活用した地域づくりの実践的な交流が行われた第5分科会。
 助言者の名城大学・井内尚樹教授は「TPP、原発再稼働、集団的自衛権は、いずれも過度な輸入依存型経済という同じ根を持っている」と、エネルギー転換の今日的意義を解明。「目の前にあるものを使い倒すための知恵を大いに交流しましょう」と問題提起しました。
 長野・北アルプス民商の種山博茂会長は、水路を利用した水力発電、風穴を天然の冷蔵庫として酒の熟成に利用した経験などを報告。「プロジェクトを立ち上げると自然に人が集まる。人が集まると思わぬ発見があり、仕事が生まれる」と地域資源を生かした取り組みは、中小業者の仕事おこしにもつながると強調しました。
 愛知・知多中央民商のNさんは自宅を省エネ住宅にリフォームした経験を語り、「住宅の価値判断にエネルギー効率の良さが求められる時代が来る」と報告。滋賀・大津高島民商の喜多健吉さんは、5月に太陽光パネルを設置販売する「琵琶湖エネルギー株式会社」を設立した経験を報告しました。
 嘉悦大学の三井逸友教授は「資本主義が極限状態を迎えた現代社会で、地域の生活・営業の再構築が求められている」とし、「地域再生の主役として、中小企業が力を発揮しよう」と呼びかけました。

震災19年の現場を見学=移動分科会 新長田駅周辺
 復興の問題点と中小業者の役割はどこにあるのか。甚大な被害を受けたJR新長田駅周辺商店街を、兵庫県立大学大学院の佐竹隆幸教授を座長に24人が見学しました。
 震災を伝えるDVDの視聴後、日本共産党の森本真・神戸市議の案内で新長田駅の商店街へ。同駅周辺は総事業費2700億円をかけた開発が進み、15年までに35棟のビルが完成する予定。一方、ビル内の電気代や共益費は月6〜8万円と高額で、経営を圧迫しています。人通りも少なく空き店舗が並び、参加者からも「生活感が感じられない無機質な街」との感想も。
 地元商店会は「鉄人28号計画・三国志のまちおこし」にチャレンジ中です。高さ15メートルの鉄人28号や三国志のオブジェを設置。果物店の店主は諸葛孔明など三国志の登場人物のコスプレで一行を出迎えてくれました。
 丸五市場商店会長の西村政之さん(鶏肉販売)は「外国人が多い地域の特色を生かし、レトロを“売り”に、集客イベント『アジアン屋台ナイト』を毎月やっています」と元気です。
 抹茶ソフト・特製ブレンド茶開発で売り上げを維持する大正筋商店街振興組合理事長の伊東正和さんは「災害はいつでもどこでも起きる。大切なのはここで目標を持って商売を前に進めること」と強調し、参加者も大きくうなずいていました。

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