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全国商工新聞 第2896号 9月28日付
中小商工業研究所
洛中に酒造りの灯をともし=第16回商工交流会
食文化に根ざし、地域に愛される
蔵元をと強調する4代目の佐々木専務
京都市上京区の住宅街の一角で、元気に酒造りに励んでいる蔵元・佐々木酒造(株)。俳優の佐々木蔵之介さんの実家です。第16回中小商工業全国交流・研究集会の「移動分科会」でも見学します(
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)。洛中(市内中心部)に残っているただ一つの造り酒屋で、どっしりとした木造のたたずまいからは、創業120年の老舗の歴史と伝統が伝わってきます。京都酒造組合の看板を背負い、「洛中の造り酒屋の灯をともし続けたい」と酒造りを伝承しています。
佐々木酒造がある地域は、豊臣秀吉の邸宅「聚楽第」があった場所で「出水」という地名があるように、良質の地下水に恵まれ、古くから酒造りが盛んでした。「あと100年は蔵元を続けたい。そのためには伝統を受け継ぎながら、斬新な技術を取り入れ、新しいことにもチャレンジしたい」。4代目の佐々木晃専務取締役は目を輝かせます。
京料理の味を引き立てる酒
京都市職労の池田委員長の提案で始まった「九条の会」の新酒
全国には1500社の蔵元があるといわれる中で、大手メーカーは8〜9社。「全国には小さな蔵元が存在している。それは酒造りが地域の食文化に根ざしているから。京料理の味は繊細。その味を引き立てる酒は、この地でしか造れない」と佐々木専務は強調します。
代表的な銘柄は「聚楽第」と、作家・川端康成氏が「この酒の風味こそ京の味」と絶賛し、小説の題名にちなんでつけられた「古都」。スッキリとして口当たりがよく、それでいてしっかりした味を醸し出しています。
明治時代の中期、洛中には130軒近くの造り酒屋があったといわれています。戦前戦後を通じて減り続け、昭和30年代には30軒までに激減。今では1軒となりました。
歴史をさかのぼると‐。酒造業界は、1970年代初めまでは「権利石数」という権利がなければ酒を造ることができませんでした。「権利石数」を買って酒造りをしようとすれば、採算が合わないほどその権利は高価で、権利を持たない大手酒造メーカーは小さな造り酒屋から桶買いをしていました。
造り酒屋も、瓶詰めで売れば昔でいう2級酒が大手に売るときは1級酒となり、手間暇かけて瓶詰めをするより、桶売りの方が利益も上がりました。その「権利石数」は1973年に撤廃。大手メーカーは下請けを切り、自社で酒を造るようになりました。販売ルートを持たなかった小さな造り酒屋は、軒並み廃業に追い込まれました。
佐々木勝也代表取締役は桶売りをやりながらも「これでいいのか」と疑問を感じ、瓶詰めをして独自の販売ルートを確保。大手の仕事がなくなっても生き残ることができたといいます。経営の厳しさはあるものの、年間170キロリットル(1升瓶約10万本)の生産を維持しています。
毎年開かれる「九条の会」の新酒試飲会。にぎやかに酒を灼み交わします
大切にしているのは京都の食文化に根づいた「地域に愛される造り酒屋」です。佐々木代表取締役は5年前、「ねっとわーく京都21」の企画で京都市職員労働組合の池田豊委員長と対談。それをきっかけに交流が始まりました。
池田委員長は「おいしい酒を酌み交わして平和や9条を語ったら、いいやろうな」と「九条の会」の酒造りを企画・提案。その思いに共感し、佐々木酒造では毎年、「九条の会」の新酒を販売しています。毎年、10月末には酒蔵で試飲会を開き、労働者や地域の人たちなど100人ほどが参加し、新酒を味わいながら語り合っています。
暮らしの中に根づいた酒を
西陣の文化と歴史を伝えたいと
活動する古武さん
上京区内の京町屋で、京都の歴史と文化を伝える「西陣の町屋・古武」を主宰する古武博司さんも佐々木酒造を応援する一人。「伝統を守るだけなく、明日の暮らしの中に酒の文化を根づかせる視点を全国に発信し、匠の技を次代につなげてほしい」と目を細めます。
古武さんは10年ほど前、西陣の地域と文化を守る運動などで佐々木代表取締役と知り合い、町屋で「新酒を楽しむ会」などを企画。沖縄に古くから伝わる三線の演奏などを聞きながら佐々木酒造の新酒を堪能し、交流を深めています。
住宅街の一角にある佐々木酒造
佐々木酒造では来春、米と米麹100%のノンアルコール飲料水「白い銀明水」を販売します。京都高度技術研究所との共同で2年間、研究開発を進めてきました。クエン酸やブドウ糖が含まれ、ほどよい甘さときりっとした酸味に心地よさを感じます。「京都には年間5000万人の観光客が訪れる。観光をしながら、これを飲んで疲れを癒やしてもらおうと開発した。これも『地産地消』の一環。ほかの蔵元とも共同して販売したい」と佐々木専務は胸を張ります。
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