全国商工団体連合会(全商連)は3月29日、第4回常任理事会で次の見解を確認しました。
戦後70年の節目にあたって―『恒久の平和』を求める民商・全商連の見解
2015年3月29日 全国商工団体連合会
一、なぜ、この時期に見解を発表するのか
いま、私たちが生きる日本において「戦争か平和か」が鋭く問われています。
安倍首相は、第3次政権の発足直後に「自民党の結党以来の目標」である憲法改定に「挑戦する」と反動的な野望をむき出しにし、集団的自衛権の行使を具体化する法改悪や日米軍事協力の指針再改定、沖縄・辺野古への恒久的・巨大新基地の建設、憲法改悪の策動等を推し進めています。しかし、この政権の反動的野望に対し、広範な中小業者・国民は憤りと危機意識を高め、憲法を生かすたたかいと結んで、平和と民主主義を守る多彩な取り組みに立ち上がっています。
民商・全商連は今年8月、創立64年を迎えます。その歩みは、戦前戦後の痛苦の体験を通じ「平和こそ商売繁栄の道」を一貫した信条とし、中小業者の大同団結と平和的・民主的日本の建設への貢献をめざして奮闘してきた歴史でもあります。
第二次世界大戦において、日本がアジア諸国への侵略・植民地支配によって多大な被害と損害を与えたことは歴史の事実です。その上、アメリカとの開戦に突き進む中で、わが国の中小業者は、人権も営業の自由も奪われました。そして、沖縄地上戦や本土空襲、広島・長崎への原爆投下、シベリア抑留、中国北東部・朝鮮半島などでの棄民策で計り知れない数の生命が失われ、祖国は焦土と化しました。この事実を歴史的な教訓とし、平和と民主主義を守るたたかいのさらなる発展が強く求められています。
戦後70年の節目にあたって、民商・全商連運動の果たす役割を明らかにし、その継承・発展を図る立場から、日本国憲法の理念である「恒久の平和」を求める民商・全商連の見解をここに示すものです。
二、歴史に学び、「戦争の惨禍」を繰り返さないために
安倍首相は今年8月に「戦後70年の新談話」を発表するとしていますが、その目的は、過去の侵略戦争を美化する「歴史の偽造」によって、「戦争する国づくり」を進めることです。
首相が唱える「積極的平和主義」とは、国際紛争に軍事力を背景として関わることであり、「安全保障環境の変化」とは、米国の軍事力の相対的低下を日本が補うことを狙ったものです。また、「我が国の存立の基盤」などと抽象的な言葉で、世界のどこへでも出兵できる理由付けをしようとしています。これらはすべて、憲法9条を否定する「極右」の考え方にほかならず、国際的にも国内の保守層からも危惧と批判が起こっています。
こうした危険な勢力の台頭を許さないために、重要なのは、侵略戦争と植民地支配に対する根本的な反省を明確にすることです。
政府の行為による「戦争の惨禍」を繰り返さないためには、まず「かつての戦争が何をもたらしたか」について、中小業者・国民の立場から明らかにしなければなりません。
戦争の惨禍(1)…民族差別と軍隊中心の人間性破壊、殺人の合法化
戦前の日本国家は、軍隊という暴力によってアジア太平洋地域の他国・他民族を圧迫支配し、隷従を強いてきました。そこでは、「殺人」が軍人の義務として遂行され、少なくとも2000万人以上が犠牲となりました。戦闘員・非戦闘員の区別もなくなり、占領地での組織的な残虐行為が多発し、従軍慰安婦問題が引き起こされ、戦時性暴力が横行しました。軍内部の「戦場モラル」による自決・射殺・スパイ摘発や特攻・人間魚雷・肉弾戦法によって若き命が使い捨てられる無残な事態が広がりました。
こうした「戦争の惨禍」は、反民主的で非合理的でもある軍隊を海外派兵することによって引き起こされたものです。いま、自民党などの「靖国」派が狙う自衛隊の国防軍化はもとより、安倍政権が進める集団的自衛権の行使による自衛隊海外派兵のたくらみは歴史に逆行するものであり、即刻中止するべきです。
戦争の惨禍(2)…生活基盤の消失と人命の強制的な剥奪
戦争は国民の生活すべてを破壊しました。徴兵と戦死は働き手の喪失とともに多くの家庭を崩壊させました。そして、生活物資の統制から始まり、企業整備令などによって転業・廃業が強制され、徴用・供出ですべてが軍需に集約され、経済も崩壊しました。未来ある若者たちが学徒出陣や青少年義勇兵への志願割当などで戦地に送られました。戦死を「名誉」とする振る舞いが強制されました。敗戦が確実な情勢を前にしても軍事国家は「終戦の判断」ができず、都市への無差別爆撃、沖縄全地域の戦場化、原爆による大量無差別殺人と体内被爆、国外からの引揚者の悲劇などが引き起こされました。
こうした「戦争の惨禍」は、治安維持法や国家総動員法等による思想・信条の弾圧、集会・結社・表現の自由に対する抑圧、教育への権力的介入などの延長線上で引き起こされたものに他なりません。政府による民主主義の否定が国家主義を暴走させ、あらゆる判断を破壊に導きました。
安倍政権は、特定秘密保護法を撤廃するとともに、共謀罪新設のたくらみを断念し、史実に反する「戦争」教育の押し付けをやめるべきです。
戦争の惨禍(3)…国内外の「棄民」蔓延と国家権力の腐敗
敗戦が近づくにつれ、「国民を守る」と称した軍隊は国民を見捨て、無秩序で暴力的支配がはびこる状況をつくり出しました。沖縄では迫り来る米軍を前にして、日本軍が非戦闘員の集団自決を強要しました。植民地・占領地では軍による略奪や強制労働が広がり、終戦とともに国民は放置され筆舌に尽くし難い苦難に突き落とされました。
戦争犠牲者への国家責任は果たされていません。傷痍軍人・被爆者の補償は限定され、空襲被害者には「被害を受忍せよ」と「我慢」が強要されています。一方、敗戦直後には政府要人・高級軍人・特権官僚らの間で臨時軍事費の着服や物資横領・隠匿などが横行しました。アメリカ占領軍の費用と旧財閥系銀行や大資本の救済のため、庶民には「食えば払えず、払えば食えず」の耐え難い重税が押し付けられました。
こうした「戦争の惨禍」は、人間相互の関係に徹底した「弱肉強食」を持ち込み、苦難や犠牲を強要する事態を招きながら、政府は責任を果たそうとしない事実を示すものです。また、中小業者・国民から営業の自由を奪い、中国大陸への植民を先導した張本人らが戦後も政治の中枢で権勢をふるったことも明記しておかなければなりません。
戦後の世界秩序がファシズムと軍国主義による侵略戦争の断罪の上に成り立っていることを踏まえ、憲法に基づき「和解と友好」の平和外交を要求します。
三、憲法を生かした平和と民主主義の高揚のために
いま、「戦争する国づくり」を推し進める安倍政権の暴走が続いていますが、一方で、平和と民主主義を求める共同と連帯が広がっていることは重要です。
私たち民商・全商連は、平和を希求する中小業者の大同団結を強めるとともに、「税金の在り方と使い道」を根本から正す運動や「循環型地域経済への挑戦」を通じて、憲法を生かした平和と民主主義の高揚をめざすものです。
(1)憲法の平和的・民主的条項の完全実施をめざす
政府の行為による「戦争の惨禍」への痛切な反省を踏まえ、国民主権と議会制民主主義、基本的人権の尊重、平和主義を大原則とする現憲法の改悪を断じて許すことはできません。
中小業者・国民が希望を持てるよう、憲法が掲げる理想を現実のものとする運動が強く求められています。
国家の根幹に関わる税制でいえば、国民の生活費からの収奪を改め、能力に応じて公平に税金を負担する原則を貫くべきです。また、その使い道も、軍備拡張や大企業による海外権益の拡大・確保を優先するのでなく、暮らしと平和に貢献する方向へと転換しなければなりません。
大企業の横暴を野放しにする不公正な取引や「弱肉強食」の市場論理で、中小業者・国民の圧倒的多数が極度の生活不安に追い込まれることのないよう、すべての国民に生存権や勤労権、両性の平等を保障することは不可欠です。社会保障の向上を通じて、社会経済の均衡のとれた調和的な発展を図るとともに、地域を舞台にした循環型経済を探求し、持続可能で人間復権の社会を実現するべきです。
(2)安保条約を平和友好条約へ切り替え、真の独立をめざす
敗戦後の占領軍を経て、今日まで在日米軍が駐留していますが、その根拠となっている日米安全保障条約(安保条約)は「恒久の平和」を脅かすものに他なりません。
アメリカは、日本の軍事や外交において重要な部分を支配し、経済面でも従属を強いています。自らの覇権を守るためなら海外侵略さえいとわない好戦的姿勢を保持し続け、日本の自衛隊を実質的に掌握し、指揮の下に置いています。TPP(環太平洋連携協定)の仕組みも日本の主権の明らかな侵害です。
安保条約は、決して対等な日米関係を保障するものではありません。人口密集地での危険な訓練が多大な被害をもたらすとともに、在日米軍が引き起こす事件・事故、犯罪に対しても、基地立ち入りも許されず、日本の警察権を行使できないのが現実です。さらに、全国どこでも在日米軍基地の存在そのものが、地域の経済的社会的発展を阻害しています。
私たちは、憲法の最高法規性こそ厳守されるべきであり、安保条約を平和友好条約に切り替えて、真の独立をめざすことを要求します。
(3)非核三原則の厳守と核兵器全面禁止の国際協定をめざす
原爆による大量無差別殺人を経験した唯一の被爆国として、核兵器全面禁止への先導役となることが強く求められています。核兵器の使用は人類の生存とすべての文明を破壊するとともに、不法かつ道義に背くものであり、人類社会に対する犯罪に他なりません。
民商・全商連は、かつてアメリカがマーシャル諸島・ビキニ環礁で行った水爆実験により、鮮魚商らが甚大な損害を被ったことを契機として、水爆の製造・実験禁止を要求する世論と運動を広げてきました。そして、このたたかいを背景として、原水爆禁止世界大会が毎年開催されるようになりました。日本全国津々浦々で取り組まれている核兵器廃絶と平和を求める運動には、各地の民主商工会の奮闘が息づいています。1985年から取り組まれた「ヒロシマ・ナガサキからのアピール」署名運動は約15年間で6000万人を突破しましたが、このうち民商・全商連として711万6000人分の署名を結集し、核戦争阻止の国際世論に貢献してきました。
私たちは戦後70年・被爆70年の節目に、核兵器全面禁止の国際協定締結に踏み出すとともに、非核三原則の法制化を強く求めます。
四、むすびとして
第二次世界大戦の惨禍は、国連憲章にも示されているとおり、「いかなる紛争でも…平和的手段による解決を求めなければならない」(第33条〔平和的解決の義務〕)原則を国際社会に要請しました。日本国憲法は、その意義を世界に先駆けて掲げ、憲法9条で戦争の放棄と戦力の不保持、交戦権の否認を誓いました。
「よその国と争いごとが起こった時、決して戦争によって、相手を負かして、自分の言い分を通そうとしないということを決めたのです。穏やかに相談をして、決まりを付けようというのです。何故ならば、戦(いくさ)を仕掛けることは、結局、自分の国を滅ぼすようなハメになるからです」-これは1947年、戦後の新しい時代を担う若い世代に示された『あたらしい憲法のはなし』の一節ですが、この「恒久の平和」を求める精神を守り抜いていかなければなりません。
私たち民商・全商連は、戦後70年の節目を新たな出発点として、戦前戦後の体験と平和の尊さを若い世代に伝え、また独立自営の道を選んだ若者たちが「恒久の平和」をつくり上げる運動に力を発揮できるよう、運動の継承・発展を図っていく決意を表明するものです。
全国商工新聞(2015年4月13日付) |