全国商工新聞 第3361号2019年5月20日付
全商連婦人部協議会(全婦協)が3年に一度取り組む「全国業者婦人の実態調査」が5月からスタートしました。1974年に始まったもので、今回は15回目。94年から25年にわたって調査の分析を担当している駒沢大学の吉田敬一教授に、調査の特徴や注目ポイントを聞きました。
25年間調査を分析してきた吉田教授
そもそも、小規模事業者に関わる調査というのは、ほとんど行われていないのが実態です。国は、成長する企業を支援していますから、営業に苦しんでいる小さな家族経営の事業所を「ゾンビ企業」と呼び、早く消えてもらいたがっている。先進国の中で、小規模事業者が減っているのは日本だけです。小さな事業者には光も当てられないし、実態もつかまれないし、政策も作られません。
女性への調査となると全婦協だけ。いま、政府は「女性活躍」と盛んにいいますが、あくまでも形式的なもので、意思決定に女性が関わっている状況ではありません。家業で働く女性や女性経営者のもとには、経営や子育て、介護、地域などで多様な問題が集中し、とくに安倍政権下では営業上の負担もかなり重くなっていますが、そういうことはお構いなし。本気で女性活躍を考えるなら、真っ先に手を付けなくてはいけない人権問題である所得税法第56条もそのままです。
経営だけでなく、暮らしや家庭、健康まで間口を広げた全婦協の調査だけが、そうした課題を明らかにできる。地域で自営業に関わる女性たちの声を代弁するものです。
45年間継続し、業者婦人の抱える問題を可視化してきた全婦協の「全国業者婦人の実態調査」
民商婦人部の実態調査の特徴として「みんなで話し合いながら答えていく」ということがあります。女性はさまざまな困りごとを持っています。しかし、それらが経営上なのか、業種特有なのか、地域の特性なのか、家族の問題なのか、個別では分かりにくい。みんなで話し合うことで比較ができ、問題の根本が見えてきます。
問題の多様性をはっきり捉えたら、解決のために動くことができます。地域の問題ならば、婦人団体と共同したり、自治体に掛け合う。経営のことなら、共同経営者として家族や仲間と話し合う。一人ひとりがこの調査に真剣に向き合い、回答することで、自分自身の課題をひも解き、問題解決への意識が芽生え、地域や家族を変えていくきっかけになるはずです。
また、みんなで実態や働く意味を話し合うことで、仕事への誇りを共有し、要求実現に力を合わせる仲間を育てることにもなります。
行政が地域振興を本気で考えたら、業者婦人が抱えている苦労を解決しなくてはいけませんから、その重要な資料になります。1万人規模の回答であれば、ばらつきが少なく、信ぴょう性も高まる。運動体に対する評価も変わります。婦人部だけでなく、民商としてもしっかり取り組んでもらいたい。
長年調査に関わってきて、特に若手で経営革新し、事業を伸ばしている人が増えていることを感じています。そうした中で、経営改善を阻害する消費税増税について、意識がどう変化しているか。また、今回新設したフリーランスなどに関する項目の結果も気になります。
いま地域は大変な状況です。まるで、1970年代に、アメリカ型の街づくりやライフスタイルが流入して、地域社会がボロボロになっていたイタリアのよう。しかし、「このままでは暮らしも文化も壊される」と農民や住民、自営業者が立ち上がり、イタリアでは地域循環のスローライフ、スローシティをつくり上げています。地域密着の事業者こそ、自分たちを見つめ、地域を見つめないと。変えていくべき点はどこにあるのか、婦人部のみなさんに、ぜひあぶり出してほしいです。
・調査期間 5月中旬~7月下旬
・目標総数 1万人
・報告集発行 2020年1月予定。9月の業者婦人決起集会・省庁交渉で活用できるよう、速報を公表予定