国連女性差別撤廃委員会が勧告 所得税法は見直しを
56条廃止へ「大きな一歩」
「家族従業者の働きを認めない所得税法は見直しを」―。画期的な勧告が国連から日本政府に出されました。国連女性差別撤廃委員会(注)が7日、2月に行った審議会の総括所見を公表し明らかになりました。ジュネーブで行われた審議会には、全商連婦人部協議会(全婦協)の塚田豊子会計も参加し、所得税法第56条問題を勧告に盛り込むようアピール。16日には国会でも取り上げられるなど、大きな広がりを見せています
ジュネーブで行われた女性差別撤廃委員会で委員に訴える塚田豊子会計(右から2人目)らNGOのメンバー
総括所見の勧告は政治参加や教育、雇用などのさまざまな分野にわたり差別根絶、男女平等を求めるもの(別表)で、民法改正など、前回(09年)出された勧告に対する日本政府の対応の遅さを厳しく指摘しました。日本政府は次回報告までにこれらの課題について取り組み、報告することが求められます。
今回初めて所得税法について明記。「所得税法が自営業者や農業従事者の配偶者や家族の所得を必要経費と認めておらず、女性の経済的独立を事実上妨げていることを懸念する」「締約国に対し、家族経営における女性のエンパワーメントを促進するために、家族経営における女性の労働を認めるよう所得税法の見直しの検討をすることを求める」と勧告しました。
委員会の審議では、政府からの報告のほか、実態把握のためにNGOなどからの情報提供を重視しています。全婦協は、条約実施のために活動する「日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク」に加入。09年の審議会に全婦協として初めて参加した大石邦子全婦協会長は、今回の勧告を聞き、「運動の大きな一歩」と喜びを語っています。
注・国連女性差別撤廃委員会
1979年に、男女平等を達成するため国連で採択された「女性差別撤廃条約」に基づき設置された機関。条約締結国の取り組み報告を定期的に審議し、結果を「総括所見」として発表、勧告を行います。
▼所得税法第56条とは
業者婦人など家族従業者の「働き分」を必要経費として認めず、申告の仕方で不当に差別するもの。白色申告では、配偶者は年間86万円、その他の家族は50万円の控除しか認めておらず、社会的にも経済的にも自立できない状況を生んでいます。
世界の主要国では「自家労賃を必要経費」として認め、家族従業員の人権・人格、労働を正当に評価しています。
全婦協・民商婦人部が取り組む「56条廃止を求める意見書」採択は、現在441自治体に広がっています。
塚田豊子さん=全婦協会計 リポート
2月13日からジュネーブに滞在し、国連女性差別撤廃委員会の審議傍聴に参加した塚田豊子会計に現地での様子をリポートしてもらいました。
国連委員にアピール
国連内ではほとんど団体で行動し、委員への働きかけも協力して行いました。15日には、傍聴者が委員にアピールする「プライベートブリーフィング」の時にマーカーで色付けした「所得税法第56条廃止」のパネルを示し、折り鶴と訴え文を作って配りました。NGOブリーフィングにも参加しました。
16日は日本報告書の審査が1日中続きました。委員はNGOのリポートをよく読んでいて「市民からの意見についてはどうするつもりか」と質問が相次ぎました。日本政府は真剣に女性差別撤廃に乗り出していないことを感じさせる回答ばかり。農業に携わる女性についての質問に、政府は「家庭内労働協定を推進している」というようなことを答弁していました。所得税法第56条がある以上、家庭内で協定しても給料が経費に認められないのは農業も商工業も同じです。
帰国後の3月7日深夜、小林淳子全婦協事務局長から「所得税法の見直しが勧告に入った」という第一報。和訳が届くとうれしさが実感できました。
この勧告をもとに、56条を早期に廃止させるために国内で大きな運動をつくっていかなければと思います。
政府は廃止へ具体化を 宮本議員(衆院財務金融委員会)がただす
56条廃止に向けた政府の姿勢をただす宮本徹衆院議員(衆議院インターネット審議中継より)
3月16日に開かれた衆院財務金融委員会で、国連の総括所見を受け、日本共産党の宮本徹衆院議員が56条問題を取り上げて質問しました。
所見に対する内閣府の姿勢を問うと、高木宏壽内閣政務官は「12月に閣議決定した第4次男女共同参画基本計画でも、必要な取り組みをするとしている」と説明。「基本計画には女性が家族従業者として果たしている役割が適切に評価されるよう、税制等各種制度の在り方を検討する、と書かれているが、56条は含まれるのか」とただすと、大岡敏孝財務大臣政務官が「含まれると考えている」と明確に答弁しました。
宮本議員は「56条の問題は、麻生内閣(08年)時に与謝野馨金融担当大臣が『研究する』とし、民主党政権では『検討課題』、昨年12月の閣議決定では検討の方向性まで決めている」と指摘。「国連からも背中をぐっと押されている。家族従事者は交通事故時の休業補償など不利益を受けており、実際に働いているにもかかわらず、給与を認めないのはおかしい」とただすと、麻生財務相は「引き続き丁寧に検討していく」と答弁しました。「研究すると言ってからずいぶんたち、閣議決定も行っているのだから、次年度の税制改正で行ってほしい」と重ねて求めました。
東京と神奈川の民主商工会(民商)婦人部員ら8人が傍聴。東婦協の植松満子副会長=金属プレス加工=と中川英子幹事=不動産=は「コツコツやってきたことが、国連や国会で取り上げられて本当にうれしい」と笑顔。「廃止を実現するために、もっと動いていかないとね」と今後の運動への決意を語っていました。
全国商工新聞(2016年3月28日付) |