家族でものづくり教材届け=東京・練馬
決算書を広げる久恵さん
東京都練馬区で、技術家庭科の教材を中学校に届けて40年になる「井賀教材社」。練馬民主商工会(民商)会長の井賀眞一さん、久恵さん夫妻が家族で経営しています。婦人部活動に奮闘する妻・久恵さんは「ものづくりの楽しさを子どもたちに伝え、日本の技術を守る」と仕事に誇りを持ち、笑顔で家業を盛り立てています。
「ここが私の仕事場。帳簿を付けたり、教材のセットを作ったりしている」と自宅の居間で話す久恵さん。食卓の上には組み立て式ラジオや裁縫キットなど中学生用の教材が並びます。
中学校を回り、教材の紹介・納品や授業内容を提案するだけでなく、調理実習で必要な野菜を買いに走ったり、生徒の作品展示を手伝ったり。「私たちは先生の『アシスタント』のような存在。一生懸命な先生を見ると力になりたくて、もうけ度外視で動いちゃう」と笑顔を見せます。誠意ある対応で先生の信頼を得て、近隣区内だけでなく、異動先の小笠原諸島などからも注文を受けています。
仕事場となる今で(左から)奈保子さん、眞一さん、眞一さんの母の光江さん、久恵さん
子をおんぶし
井賀さん夫妻が教材販売を始めたのは、1975年、結婚後すぐ眞一さんの務め先の教材会社が倒産したのがきっかけ。家族の反対を押し切り、軽自動車1台と何軒かの得意先だけを頼りに始めた商売でした。久恵さんは「赤ちゃんだったわが子をおんぶしながら、学校で教材を売っていた」と言います。
4月に納品が集中し、集金が始まるのが7〜8月で、10月まで払ってもらえないこともあり、資金繰りは悩みの種。自主記帳で約130校の顧客のお金の流れを把握してきました。それでも「支払いのことを考えて夜中にハッと目が覚める」と言います。取引先への支払いを優先せざるを得ず、国保料を滞納し、役所と交渉したこともありました。
困難の背景にあるのは、少子化と学習指導要領の改訂によって減り続ける技術・家庭科の授業数。45年前と比較すると実質4分の1ほどに。生徒をめぐる社会環境も変わり、「親の仕事がなくて」「不登校になってしまって」と納品分の売掛金を回収できない事態も起きています。
「教材業界は厳しいが、だからこそ小回りの利く家族経営が生き残っている。ここで私たちが頑張らないと」と眞一さん。久恵さんも「日本が誇る技術力の土台にあるのは教育。教材を届けるこの仕事はとても大事」と話します。
中学校に届ける教材やカタログ
商売支え合い
1年半前から久恵さんに代わり、末娘の奈保子さんが営業に出るようになりました。幼いころから両親の働く姿を見ていて「このまま井賀教材社がなくなってしまうのはもったいない」と家業に。民商青年部の活動にも参加するようになり、「日本のものづくりを盛り上げたいと思った」と笑顔で話す奈保子さんを家族がサポートしています。
10年前から全商連婦人部協議会副会長、東商連婦人部協議会会長を務める久恵さんも、暮らしと経営の見直し運動など仲間との交流からヒントをもらい、所得税法第56条廃止の運動や消費税増税中止を求める運動も積極的に続けてきました。
「何でも話せる仲間と家族に助けられたからやってこられた」とかみしめる久恵さん。「働き分がきちんと認められて、業者婦人が本業で自信をもてるようになれば社会は絶対変わっていく。みんなの頑張りが生きる世の中にしたい」と力を込めました。
▽井賀教材社
練馬区土支田4の25の8 TEL:03-3978-0641
全国商工新聞(2015年1月5日付) |