消費税8%の影響深刻に 中小業者の要求鮮明
経営・暮らし・健康の向上調査 民商会員7万人超回答
全国商工団体連合会(全商連)が実施した「経営・暮らし・健康の向上」全会員調査の結果が11日にまとまりました。14年ぶりの大規模調査で、民主商工会(民商)会員7万4906人から回答が寄せられたものです。小規模企業振興基本法が制定される一方、消費税率が8%に引き上げられる下で、中小業者に焦点を当てたこれほど大規模な実態調査は他に例がなく、要求運動や政策提案の大きな力になるものです。調査結果の概要と浮き彫りになった切実な要求の特徴などを紹介します。
税と社会保険料重荷に 非課税業者の7割が「転嫁できず」
回答者を業種別でみると建設業が34.0%と最も多く、宿泊・飲食16.5%、生活関連14.8%、製造業12.7%、卸売・小売業9.1%の順になっています。調査結果では経営が厳しい中で、消費税や社会保険料の負担増が追い打ちをかけている実態が浮き彫りになりました。
2014年4月から消費税が8%に増税されたことにより「売り上げが減った」と答えたのは54.0%を占め、(1)1割以内減が43.1%、(2)3割以内減が41.5%に上ります。「売り上げが増えた」は18.2%にとどまっています。
消費税の課税業者は34.0%で66.0%が非課税業者。課税業者のうち消費税を「転嫁できている」は62.4%。一方で非課税事業者は「転嫁できている」は30.8%で、69.2%が消費税の転嫁ができていません。
消費税引き下げは急務 国保料(税)の引き下げも
国や自治体に対する要望では「消費税の引き下げ」が66.2%、「国保料(税)の引き下げ」が61.2%と圧倒的に多く、次いで「介護保険制度の拡充」25.5%、「福利厚生対策」13.6%と続きます。「税と社会保障の一体改革」の実態が、消費税を増税する一方で社会保障制度を改悪したことを反映した結果となりました。
納税緩和措置拡充こそ 厳しい中で誠実に納付
税や社会保険料を「期限内に払えている」のは79.1%と、厳しい状況の中でも税金や社会保険料を誠実に納付しようしている姿が表れています。
一方で、2割超が滞納に。その内訳は国保料(税)が57.8%と最も高く、次いで国民年金37.6%、住民税25.3%、消費税16.7%、所得税10.3%の順です。
「期限内に納められない」人のうち、納税緩和措置を活用しているのは16.3%と低く、制度を十分に知らせていない政府・自治体の姿勢が反映しています。納税緩和措置で最も活用されているのは「納税の猶予」61.7%です。
また、税や社会保険料が払えず「差し押さえを受けている」が5.7%に上っています。
負担の軽減は緊急課題 従業員増やす意欲示す
「今後、経営で必要だと思うこと」については「公共料金の引き下げ」36.3%が最も高く、電気料金の値上げなどが影響していることが考えられます。
さらに「単価の引き上げ」30.7%、「仕入れ価格の引き下げ」28.3%、「労働力の確保」25.2%、「税金・記帳対策」21.7%になっています。
事業規模では家族を含む従業員数は本人のみが47.9%、1人が31.7%と合わせて約8割です。「労働力の確保」に高い要求があるのは、本来なら従業員を雇って経営を伸ばしたいという意欲が潜在的にあることを示しています。
約6割が健康不安抱え 体よりも仕事を優先
健康の問題も深刻です。「健康への不安を抱えている」が59.2%を占め、「治療中の病気がある」が44.5%に達し、「病院に行きたいが行けない」も1.3%いることが明らかになりました。
治療中で医師から休むよう指示されたのは24.3%で全体の4分の1を占めています。医師から休みを指示されたにもかかわらず、休めなかった人は75.6%に上り、厳しい経営環境の下で休めば、即収入減につながり、休むこともできない中小業者の実態がうかがわれます。
健康診断を毎年受けているのは、61.6%。労働者の健診受診率81.5%(厚労省「労働者健康状況調査」24年)と比べると健診率は低いことが示されました。健診を3年以上受けていないが23.1%であり、有所見率が80%(全商連共済会調べ)を超えていることから考えると、年1回以上の健診の受診が求められます。
介護問題では「家族に介護が必要な人がいる」は14.8%。そのうち配偶者の介護は16.2%(複数回答)を占め、家族全員が重要な働き手である中小業者にとって深刻な状況といえます。
* * *
《解説》小企業政策の効果届かず 要求運動の強化を
今回の「経営・暮らし・健康の向上調査」は1月から2カ月間かけて行ったもので、全国18万人の民商会員の4割を超える7万4906人が回答しました。調査結果は政治・経済が激動する下で、小規模事業者層の厳しい実態を浮き彫りにしています。
前回の調査が行われた2002年以降、政治・経済は大きく変化しました。バブル崩壊後、不況が続く中で小泉政権は郵政民営化をはじめとする新自由主義的な構造改革路線を推し進め、大企業中心の成長戦略が格差と貧困を拡大させました。
その後、国民の期待を担って民主党政権が誕生しましたが、財界とアメリカいいなりの基本路線は変わらず、産業の空洞化や地方の疲弊が進む中で「税と社会保障の一体改革」を強行し、消費税増税に道を開きました。
09年から12年の間に中小企業は420万社から385万社へと35万社が減少(「経済センサス」)。民主党政権の失策によって登場した第2次安倍政権は規制緩和や構造改革、円安、株価高騰などを推し進める「アベノミクス」を強行し、2014年4月からの消費税8%への引き上げで8兆円の増税、年金削減など社会保障の負担増・給付減を合わせれば10兆円に上る史上空前の負担増を国民・中小業者に押し付け、貧困と格差はさらに拡大しています。
政府による中小企業憲章の制定(2010年6月)後、国とすべての自治体に小規模企業への支援を責務とする小規模企業振興基本法(小規模基本法)が2014年6月に制定されました。「2015年版小規模企業白書」によると、この小規模基本に基づいて行われた2014年度の小規模企業施策は200事業を超えています。
しかし、今回の全会員調査の結果は、こうした施策が小企業・家族経営には十分届かず、機能していないことを明らかにしています。
政府は、同白書で2015年度に実施する小企業施策を発表していますが、その一つひとつが全会員調査で出された中小業者の経営維持・発展や事業継承といった切実な要求にかみ合い、実効あるものにしていくことが求められています。
全国商工新聞(2015年5月25日付) |