重すぎる社会保険料 年金事務所と交渉し払える金額での分納を実現=北海道・帯広民商
社会保険の加入と保険料の徴収強化に乗り出す各地の年金事務所
社会保険の未加入対策が厳しさを増しています。厚生労働省は国税庁と連携して社会保険未加入事業所を洗い出し、国土交通省も建設業許可業者への加入指導を強めています。社会保険料の強権的な徴収も強まっており、北海道・帯広民主商工会(民商)では「社会保険料が払えない」「社会保険に加入したくてもできない」など切実な相談に応え、帯広年金事務所と交渉。実情を訴え、払える金額での分納を実現しています。
単価が上がらず加入もできない
「若手従業員のためにも社会保険に加入したい。でも、この20年間、単価が上がらず、加入できるような状況じゃない。中小業者の厳しい実態を無視して社会保険への加入を強引に進めるのは納得できない」。帯広市内で左官業を営むHさんは怒りをぶつけます。
20年ほど前に法人成りし、現在、6人の従業員を雇用しています。個人住宅のタイル工事が中心ですが、1月から3月までは積雪でほとんど仕事ができず、ぎりぎりの経営状態でした。
昨年12月、Hさんは年金事務所から送られてきた「厚生年金保険・健康保険の加入について」の文書を見て驚きました。「該当事業所で加入手続きが行われない時は立ち入り検査を行う場合があり、保険料についても最大2年間分を払ってもらう場合がある」と書かれていました。不安になったHさんはすぐに民商に相談。事務局長と年金事務所に出向いて経営内容を説明し、「すぐに加入できない」と訴えました。担当者は決算書と給与明細書の提出を求めました。
年金事務所の試算は毎月30万円超に。担当者は「すぐに加入とは言わないが、いずれは入ってもらわなければならない」と告げました。
「単価が上がらなければ、加入しても保険料は納められなくなる」とHさんは頭を抱えています。
負担は月30万円 納付に不安感じ
夫が型枠大工で、記帳を担当するIさんは昨年6月、元請けから「社会保険に加入しなければ現場に入れなくなる。経費はうちで持つから」と言われ、7人の従業員を社会保険に加入させました。
「1カ月の社会保険料の事業所負担は約30万円。6月から12月までの間は出来高の10%を上乗せして工事代金が支払われたけれど、これからが大変。ほかの元請けからは社会保険料分を上乗せするとは言われていないし、毎月、きちんと納められるかどうか…」と不安を感じています。
民商に相談して差し押さえ回避
毎月、社会保険事務所に出向いて、納付を続けているAさん
Aさん=運送=は「社会保険料の負担が重過ぎる」と悲鳴を上げています。従業員9人が社会保険に加入していますが、6年ほど前に売り上げが減少し、社会保険料の納付が滞るように。延滞金を含め、滞納額は一時3000万円までに膨れ上がりました。それでも毎月欠かさず、できる限りの保険料を納付。金額が少ないときは「すみません、今月はこれで勘弁してほしい」と訴え、担当者の前で大粒の涙を流したこともありました。
1年前、「毎月80万円から100万円を納めてほしい。納めなければ差し押さえをする」と通告が。「とても払えない。どうすればいいのか」と途方に暮れたAさんは、知人から「民商に相談したらいいよ」と言われ、事務所を訪ねました。
「精神的に追い詰められ、自分が死ねば保険金で社会保険料を納められると考えたことも一度や二度ではなかった。誰にも話せなかったことを親身になって聞いてもらって本当に救われた」と振り返ります。その場で民商に入会したAさんは民商の仲間と一緒に年金事務所と交渉。対応が一変し、差し押さえは回避され、Aさんは毎月、納められる保険料を誠実に納め続けています。
保険料の軽減を参院選の争点に
小規模企業者に対する社会保険料負担の軽減を―。北海道商工団体連合会(北海道連)は13日、参議院選挙の公約に掲げるよう民進、共産、自民、公明の各政党に緊急に申し入れました。
民進、共産両党は「5区補選の野党統一候補の政策にも入れており、しっかり実現していきたい」と話していました。
2014年6月に制定された小規模企業振興基本法(小規模基本法)の付帯決議は「小規模企業の負担軽減のためにより効果的な支援策の実現を図ること」を明記しています。今回の政党申し入れは、これに基づいて支援策の早期実現を求めたものです。
安心できる社会保険に 全商連が三つの提案
社会保険(厚生年金・健康保険)は法人の事業所と、常時5人以上の従業員がいる個人事業所(一部の業種を除く)の加入が義務付けられています。
小規模事業所ほど負担が重い社会保険料は、経営を圧迫する要因に。13万8162事業所(2014年度)が保険料(厚生年金)の期限内納付ができない状況で、差し押さえは過去最高の2万5094件に。強権的に納入を迫る動きが強まっています。
厚生年金で見ると、報酬月額の上限は63万5000円(健康保険は117万5000円)で、所得に応じて保険料が変わる応能負担が適用されていません。給与が62万円の中小企業の社長と、1000万円超の報酬を得ている大企業社長の保険料が同額で、支払い能力が低い人ほど負担割合が重くなっています。
2014年6月に成立した「小規模企業振興基本法」(小規模基本法)の付帯決議は「社会保険料が、小規模企業の経営に負担となっている現状があることに鑑み、(中略)小規模企業の負担軽減のためにより効果的な支援策の実現を図ること」を求めています。
しかし、政府は小規模事業所への軽減策を取らないまま未加入事業所への加入指導を強めています。
厚生労働省と日本年金機構は、国税庁から提供された源泉徴収の義務がある企業の情報を基に、79万社が社会保険に加入していない可能性があるとして緊急調査を始めました。4月からマイナンバー(法人番号)を使い、2017年度末までに終了させる方針です。
また、国土交通省は建設業許可業者は2017年度までに100%社会保険に加入させる方針を打ち出し、未加入者を建設現場から締め出そうとしています。昨年11月には、未加入業者のうち今年1月以降に建設業許可の更新期限を迎える約5万社に対して前倒しで加入指導の通知を送りました。
国は「ガイドライン」を作成して元請け業者に対して下請け業者の加入指導を求めるとともに、下請け業者が社会保険に加入できるように法定福利費を明示した標準見積書の発行を促していますが、法定福利費を払うのは一部にとどまっています。
さらに建設業許可の申請・更新時の加入指導も強めており、申請や更新は受け付けるものの、社会保険に加入していない場合は年金事務所に通報。加入指導に応じないときは建設業法に基づく監督処分を行う場合があることを示唆しています。
全商連は中小業者の負担を軽減させるために「納付の猶予」や、延滞金が減免され、分納できる「換価の猶予」など「納税緩和措置」の適用を求めるなど、「安心して加入できる社会保険制度の確立を」めざして、改善のための「三つの提案」をしています(表)。
全国商工新聞(2016年4月25日付)
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