「創業融資」で資金確保 慣れない書類準備も民商に相談
「自分の店を持ちたい」と開業する若者が増えています。生まれ育った神戸のまちで居酒屋をオープンした緒方淳一さんもその一人。「準備、融資、工事など分からないことばかりだった」と話す緒方さんをサポートしたのは地元の兵庫民主商工会(民商)でした。
兵庫県民商のサポートを受けて開業し、生きいきと働く緒方さん
JR神戸駅から徒歩10分弱の大通り沿いに緒方さんの居酒屋、「旬菜 和彩美(わさび)」はあります。しゃれた店構えで、中に入ると手頃な値段の新鮮な刺し身や旬の野菜料理のメニューが並んでいます。「ゆっくりと落ち着いて、心を込めて作った料理とお酒を楽しめる場所にしたかった」と緒方さんは話します。
自分で仕切る面白さ実感し
高校卒業後、専門学校で調理師免許を取得した緒方さんは、和食を中心に6店舗で経験を積みました。開業を考え始めたのは3年ほど前のこと。小さい店の厨房を1人で仕切る面白さに目覚め、「自分でも店を出したい」と資金をためました。
知り合いの紹介で条件のいい物件が見つかったのは昨年11月。「でも開業は人生の一大事。不景気だし、金銭面でも不安があった」と言います。
すでに開業していた元の職場の後輩に相談すると紹介されたのが兵庫民商でした。事務所を訪れ、事務局員の平松大佳さんに状況を説明すると「緒方さんの経験や人柄なら大丈夫でしょう。応援しますよ」と太鼓判。その言葉に後押しされ、「今やらなかったら一生できない」と開業を決断しました。
相談しながら計画書を作成
開業準備の中でも一番大変だったのは融資でした。
「メニューや店づくりは経験上イメージがあり、開業している先輩からもアドバイスをもらっていました。でも書類の準備が必要な融資はまったく別。融資の種類も書類の書き方も分からなかった」と振り返ります。
民商と相談しながら、緒方さんが申し込んだのは日本政策金融公庫の「新創業融資制度」。「親や周りの人にお金のことで迷惑かけたくない」と無担保・無保証人の融資を選びました。事業計画書は今までの経験やどんな店をつくりたいか、店の特徴点を相談して作成。売上見込み額、収支計画、資金計画などで店の経営を具体化していきました。
12月には公庫の担当者との面談。事前に民商事務所で質疑応答のシミュレーションもし、「なぜこの金額の融資が必要なのか」を説得力をもって話せるよう準備しました。面談当日は「何を聞かれるか、どんな感じなのか、めっちゃドキドキした」。ところが事前に公庫に送付していた事業計画書の内容との事実確認で終了。「拍子抜けするくらいだったけれど、前もって準備していたからこそ自信を持って臨めた」と話します。
面接から1週間後、公庫から希望額での融資実行が決定したとの連絡があり「やった」と喜んだ緒方さん。自己資金含め800万円の開業資金を確保でき、「経済的な体力があるうちにいろいろな挑戦がしたい」と来店客の要望を聞きつつ新メニューを増やす余裕も生まれました。
客との出会い喜びかみしめ
3月のオープンから8カ月。「営業の不安は今でもあるし、うまくいくことばかりじゃない」と話す一方で、「お客さんがリピーターになってくれたときには『あーっ、あの人また来てくれた』ってうれしくなるし、ランチのお客さんが夜の予約をしてくれたときは、電話を受けながら『よっしゃー』ってガッツポーズしちゃう」と人との出会いに喜ぶ日々です。アルバイトを含め4人の従業員を雇い責任感も生まれました。
「料理のこともお酒のこともまだまだ勉強中。記帳や確定申告の不安もある。でも、この店は僕の宝物。民商の力も借りながら大切に守っていきたい」と目を輝かせる緒方さんです。
全国商工新聞(2012年11月5日付)
|