政策公庫で事業承継資金840万円 「手延べそうめん」づくり守る=香川・小豆島
「天日干ししたそうめんはおいしい」と話す下本さん一家
父の事業への思い引き継ぎ 守った天日干しそうめん
壺井栄の名作「二十四の瞳」やオリーブの産地として知られる香川県小豆島。その島で特産「手延べそうめん」作りを引き継ごうと、日本政策金融公庫から840万円の融資を実現し株式会社下本製麺所を立ち上げたのは、小豆島民主商工会(民商)会員、下本一彦さんです。35年間、夫婦でそうめんづくりに励んできた下本豊次、巷実さん夫妻の長男です。
昨年夏、25年間勤めた佃煮の会社を辞め、9月から本格的にそうめんづくりを始めたばかりです。それでも作業は手慣れたもの。「小さい時からおやじの仕事を手伝っていましたから」。作業の手を休めて話す一彦さんの笑顔には自信があふれています。
「事業を継ぎたい」と豊次さんに打ち明けたのは昨年の春。2年前、豊次さんが胆のうを摘出、工場も毎日稼動できなくなったことがきっかけでした。
そうめんづくりは夜中の午前2時過ぎに始まり、終わるのは午後5時過ぎ。そうめんの需要も落ち込み、かつて200軒あった事業所も、今では110軒に半減しています。「きつい仕事だし、継いでほしいとは思わなかった」と豊次さんは当時を振り返ります。
災害乗り越え
それでも一彦さんの事業を引き継ぐ気持ちは変わりませんでした。「そうめんづくりは、オヤジが災害を乗り越えて始めた仕事なんですよ」
1976年、香川県を襲った台風で豊次さんは島で暮らしていた両親、兄夫婦、妹の5人を亡くしました。当時、大阪で八百屋をしていた豊次さん夫妻は生き残った兄夫婦の子どもを育てるために、島に帰ってそうめんづくりを始めました。43歳の時でした。
「いまがその時のオヤジと一緒の年なんです」と一彦さんは前を見つめて言いました。
民商で対策会議
その思いに応えようと民商もバックアップ。昨年夏には一彦さん夫妻はじめ、豊次さん夫妻、民商の役員、事務局も含め対策会議を開催。そうめん業界の動向も含め、営業と生活の収支見積もり、必要な投資と資金調達についてさまざまな角度から検討しました。
新しい機械の導入、工場の改修を含めると自己資金以外に900万円近い資金が必要と判明。20年来付き合ってきた政策公庫に840万円の融資を申し込みました。後日、工場を訪れた公庫の担当者に、緻密な事業計画書と資金繰り表などを示して将来性と収益性を熱意をもって説明。その結果、満額の融資が実現しました。
一彦さんの妻、千秋さんもオリーブ油をつくる会社のパートを辞め、そうめんづくりに専念。民商のパソコン教室にも通い、経営を支えています。
忙しい仕事の合間を縫って各地のそうめん生産地を視察する一彦さん。「オヤジの技術にはまだ及ばない。でも天日干しのそうめんは島の特産だし、ぜひ守っていきたい」。
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