秘密保護法案 早分かり
国会へ抗議のアピール
秘密から戦争は始まる ― 。国民の目、耳、口をふさぎ、「国民の知る権利」など憲法の基本原則を覆す「特定秘密保護法案」が7日、衆院本会議で審議入りしました。その問題と狙い、中小業者との関わりをまとめてみました。
プライバシーも丸裸
◆法の目的は
この法案の目的は「我が国の安全保障に関する情報のうち特に秘匿する」ものについて、その「漏えいの防止」をはかること(第1条)を目的にしています。
◆特定秘密の指定
秘密を指定するのは「行政機関の長」(第3条)。行政機関といっても地方公共団体は除かれ、国家機関のみ。各省の大臣、警察庁長官らが指定し、文書や電磁的方式で記録します。
◆特定秘密の対象
(1)防衛(2)外交(3)特定有害活動の防止(4)テロリズムの防止-の4項目。法案では別表(上図)として例示されています。
たとえば「防衛に関する事項」では、「自衛隊の運用、これに関する見積り、計画、研究」や「武器、弾薬、航空機などの種類または数量、研究開発段階の仕様、性能、使用方法、検査、修理、試験の方法」など。外交では「安全保障のため国が実施する貨物の輸出、輸入の禁止措置やその方針」などで、テロ防止では「テロ防止のための措置、計画、研究」などとなっています。
いずれも「その他の重要な情報」との言葉が盛り込まれ、秘密が際限なく広がる仕組みです。
◆適性評価(身辺調査)
特定秘密を扱う行政機関の職員や警察職員だけでなく、行政機関と契約する民間事業者も、情報を漏らすおそれがないか、適性を評価されます(第12条)。適性評価といっても、それはまさに“身辺調査”そのもの。
調査対象は本人だけでなく、(1)特定有害活動やテロリズムの関係や、父母、兄弟姉妹、配偶者とその両親、子ども、さらには同居人の氏名、生年月日、国籍、住所(2)犯罪・懲戒歴(3)薬物の乱用と影響(4)精神疾患(5)飲酒の節度(6)信用状態と経済的な状況-など、国民のプライバシーが丸裸にされ、監視の対象とされます。
◆罰則は懲役10年以下
特定秘密を扱う公務員や民間事業者が特定秘密を漏らしたときは、10年以下の懲役に罰せられます。未遂であっても過失であっても処罰されます(第22条)。
◆不正アクセス行為も
さらに人を欺いたり、暴行、脅迫、施設への侵入、通信の傍受、不正アクセス行為、「特定秘密を有する者の管理行為を害する行為」などによって、特定秘密を取得した場合も10年以下の懲役です。未遂の場合も罰せられます(第23条)。
◆取材・報道の自由も規制
第21条では「出版または報道の業務に従事する者の取材行為」について「法令違反または著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とする」としています。
しかし、「著しく不当な方法」を判断するのは捜査当局です。さらに「出版または報道の業務に従事する者」の取材行為だけが対象で、フリーの記者や学者・研究者、NPO、一般市民などは除外視されています。
弁護士会・新聞各紙も反対表明
秘密保護法案に反対する声が、さまざまな団体やメディア業界の間で広がっています。
日本弁護士会連合会が反対声明を出し、全国52あるすべての弁護士会でも反対を表明。日本ペンクラブや労働組合、市民団体も一斉に反対の声を上げ始めています。
地方紙や大手紙も社説で「国民主権と民主制の否定だ」(琉球新報)、「この法案には反対だ」(毎日新聞)、「法制化は見送るべきだ」(京都新聞)などと主張。反対や重大な懸念を表明しています。
秘密の範囲次々と拡大
「何が秘密? それは秘密です」とされる「特定秘密」。この間の国会答弁や超党派の議員・市民による政府交渉の中でも、「秘密」の範囲が次々と拡大してきています。
TPPなど 通商情報も対象
TPP(環太平洋連携協定)交渉をめぐる問題もその一つです。
10月20日の衆院国家安全保障特別委員会で、岡田広内閣府副大臣は「TPPは特定秘密を定める法案の規定に該当しない。特定秘密には当たらない」と明確に答弁していました。
ところが、11月1日の同特別委で、同副大臣は「(TPPなどの)交渉方針や内容が特定秘密保護法案の規定に該当するかは、個別具体的に検討する必要がある」と答弁。一転して、TPPなどの通商情報の内容についても「特定秘密」に指定することもあり得る、と政府見解を修正しました。最初の答弁からわずか10日後のことです。
中小業者にも影響 突然逮捕の危険も
私は10年ほど前までミサイルの部品を、大手企業の下請けで作っていました。精密さが要求され、納めた部品のうち半分が戻ってきたこともあります。神経をすり減らす仕事でしたね。5年以上続けました。
元請けからは「ミサイルの部品だ」と言われていました。設計図には元請けの会社の名前や防衛庁の名前もありましたが、当時は、秘密を漏らすなと言われたこともありませんでした。
でもこの秘密保護法案が通れば、何を作っているのか、何の部品なのか教えてくれないでしょう。何を作っているか分からないまま部品をつくることになる。しかし、自分は知らないけれどそれが「特定秘密」に関わるもので、何かの拍子にその内容を漏らしたとしたら、今度は逮捕されかねないというわけでしょう。大変な法律だと思いますね。
何を作っているかを知らなければ、何も知らずに戦争を手助けするような事にもなるわけです。人を殺傷するようなものは作りたくはありません。
この法案もですが、憲法を変えようとする動きもあり、安倍内閣には怖いものを感じます。こんな法案は通してはいけません。
「首相動静」も秘密?
自民党の小池百合子元防衛相は、首相の一日の動きを伝える新聞の「首相動静」について「知る権利を超えている」とし、見直しを求めました。10月28日の衆院国家安全保障特別委員会で、特定秘密保護に関わって触れたもの。
小池氏は「日本は秘密であるとか機密に対する感覚をほぼ失っている平和ボケの国」とした上で、「毎日、何時何分、だれが入って、何分に出てとか…あれは知る権利を超えているのではないか」と質問しました。
菅官房長官はその後の記者会見で「各社が取材して公になっている首相の動向なので、特定の秘密にはあたらない」としましたが、秘密が「特定」のものではなく、恣意的に、無制限に広がっていくことが浮き彫りになりました。
秘密保護法廃案に 各地で行動
安倍内閣がすすめる「戦争する国づくり」の動きで国会が緊迫する中、「国民・中小業者を弾圧する秘密保護法案を廃案へ追い込もう」と各地の民主商工会(民商)と県商工団体連合会(県連)は、他団体とも共同して緊急の宣伝・署名行動を強めています。
憲法と平和を守る愛知の会の人たち(前列左から3人目が太田県連会長)
愛知県連も参加する「憲法と平和を守る愛知の会」は10月26日、安倍内閣が秘密保護法案を閣議決定し、国会に提出したことに抗議する署名・宣伝を名古屋市中区の繁華街で行いました。太田義郎県連会長はじめ県連役員や同会のメンバーなど16人が参加し、ビラを渡しながら廃案を求める署名を呼びかけました。
太田会長は、国が一方的に「秘密」を指定し、国民の知る権利が侵害される危険性を指摘。「一般市民には関係ないと思う人もいるかもしれないが、原発の情報も秘密にされてしまう。汚染水漏れの情報も知らされなくなるかもしれない」と警告しました。
立ち止まってじっくり聞く人が目立ち、署名に応じた人は「政府に都合の悪いことは秘密にされそう」「アメリカとだけ秘密を共有して、そのまま戦争につながりそうで怖い」と語っていました。
全国商工新聞(2013年11月18日付) |