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生活保護制度の改悪と問題点
全国生活と健康を守る会連合会事務局長 辻 清二氏 |
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昨年5月に北九州市の市営住宅で50代の男性が、電気・ガス・水道を止められ、餓死しました。7月には、秋田市で30代の男性が福祉事務所に抗議して自殺しました。
行政による悲劇
事件はいずれも、役所が「働けるから」などの理由で生活保護の申請拒否と却下をしたことによって起きたものです。国・厚生労働省の「適正化」(しめつけ)行政が引き起こした悲劇です。厚生労働省は昨年4月に「生活保護行政を適正に運営するための手引」を出し、「適正化」(しめつけ)をさらに強めています。
また、老齢加算の廃止や母子加算の削減に続いて(1)母子加算の廃止(2)持ち家を担保にした貸付制度の活用‐を、保護に優先させ、持ち家の高齢者は保護しない「リバースモーゲージ」を07年度におこなうとしています。
そして、07年度以降、全国知事会と全国市長会の提案も受ける形で、(1)さらなる生活保護基準の引き下げ(2)「働ける人」を5年以上は保護しない「有期保護制度」(3)高齢者を生活保護制度の対象から外すこと‐など、生活保護法そのものの改悪を視野に入れた抜本改悪を検討しています。
6カ所で裁判を
京都を皮切りに秋田、広島、新潟、北九州、東京の全国6カ所で、老齢加算・母子加算などの削減の取り消しを求める裁判が提訴され、青森、兵庫でも提訴する予定です。
この裁判の意義は、老齢加算の廃止などによって、生活保護世帯が人間らしい暮らしが奪われたことから、国民の「生存権とは」を社会に問うたたかいであることです。
老齢加算や母子加算の削減・廃止は、多い人で毎月の収入の2割近くが減額され、「毎日の食事を3回から2回にした」「近所の知り合いの葬式にも参加できなくなった」など、深刻な事態が広がっています。
国・厚労省は、憲法25条に規定された「健康で文化的な最低限度の生活」がどうなるかの検証もしないまま、一般の低所得の高齢者・母子世帯の消費水準との比較で削減・廃止をおこないました。生活保護基準よりも低い生活水準を強いられている高齢者や母子世帯の消費支出と比較することが間違いです。
生活保護基準が引き下げられることは、生活保護を受けていない多くの人たちの暮らしに影響を及ぼします。その意味で、今回の裁判は国民的な意義を持った裁判です。
3つの意義が
第1に、生活保護基準は保護が受けられるかどうかの判定の基準になっていますから、基準の引き下げによって、いままで生活保護が受けられていた人が受けられなくなることです。
失業・リストラ、倒産、社会保障などの制度改悪によって、今日、国民の生活は悪化し、所得格差が広がっています。問題は、生活保護基準以下で暮らし、保護を必要としている人は、現在受けている人の5倍〜10倍いることです。これらの人たちのなかには、保護の対象から外される人が出ることです。
第2に、生活保護基準は、就学援助制度や国民健康保険の一部負担減免、公営住宅の家賃減免などの基準になっています。そのことから、生活保護基準の引き下げは、これらの制度の対象者を狭め、受けられなくなる人が出てきます。
第3に、ナショナル・ミニマム(国民の最低生活保障)を確立する上で、生活保護制度の改悪を食い止めることが大切になっています。生保基準は、老齢基礎年金や最低賃金、課税基準などの金額や基準と連動しています。
今国会に「生活保護費を考慮して」決めるとして、最低賃金法改正案が提出されています。高齢者の保護基準を年間80万円の老齢基礎年金に合わせることが検討されています。生活保護基準は、ナショナル・ミニマムの大きな柱になっており、基準引き下げは国民全体の生活水準の切り下げにつながるものです。
生活保護制度は憲法25条の生存権を、すべての国民に保障する制度で、国民生活の「最後の砦」となっています。今、国がすべきことは基準引き下げをやめ、「適正化」を中止し、保護が必要な人が安心して受けられる制度にすることです。
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