戦争法は廃案に中小業者立つ
全国の民主商工会(民商)の力を一つに戦争法案を廃案に追い込もう―。青年・学生の集会やデモなどかつてない国民的なたたかいが高揚する中、中小業者も共同・連帯し、各地で戦争法反対の創意的、自発的な運動を広げています。全国の都道府県連の会長も廃案に向けた決意を表明しています。
一人ひとりが工夫し「反対」
プラカードを手作り みんなで意思表示=東京・清瀬久留米
プラカード作りをしながら戦争法案を語り合う会員たち
思い思いのプラカードを掲げる清瀬久留米民商の会員ら
一人ひとりが戦争法反対の意思表示をしようと、東京・清瀬久留米民商は7月17日、民商事務所でプラカード作りを行いました。集まったのは事業主の会員とその従業員ら20人。
衆院特別委で戦争法案が強行採決された時、「腹が立って」国会に駆け付けた中村顕治会長らが提案し行われたものです。
参加者は「憲法守れ」「戦争を止めろ」「戦争法案反対」などと書かれた16種類のプラカードをラミネート加工。ワイワイガヤガヤと1時間弱で完成しました。
プラカードのサイズはB6判からA4判まで。車体に張ったり、運転席に置いたり、デモの時に掲げることにしています。
作業後、戦争法案について全員が発言。「沖縄に行って戦争の怖さを目の当たりにした。子どもが戦争を体験するのは嫌。嫌な国になっていくのが嫌」「ばあちゃんが東京大空襲で死んだ。武力と争いの先に幸せはない」「国会にお年寄りが足を運んでいる。その姿を見ると、戦争法を止めないといけないと思う」などの感想が出されました。
タイガースファンのお店にも漫画号外=大阪・福島
「感が号外も親子の話題の材料になる」と話す坂本さん
大阪市のJR福島駅近くでタイガースファンが集まる串かつ店「きがるや」。店の外装もトラ柄で、店内にもトラの置物がどっさり。その中に目立つように置かれているのが、商工新聞の戦争法漫画「号外」です。
「衆議院で強行採決した翌日から店に置くようにしました。こういう問題も知らんより知っておいた方がいいでしょう」と話すのは、商売を始めて35年になる坂本宏さん。
この地に店を構えて16年。民商に入って15年になります。「平和を守るというのが暮らしの原点。オヤジの時代はみんな兵隊に行って戦争で苦労したからね」といいます。
店内には普段からさまざまな新聞や雑誌を置いている「きがるや」。若いお客に「これ読んどき」と面白い記事を勧めることも。「他の店と違うことの方が、お客さんとの対話も弾むし、親子の話題も提供できるでしょう。商工新聞を置くのも商売にはマイナスどころか、プラスですよ。まぁ私の性格ですかね」。店の中で号外を広げて笑顔で語ってくれました。
建築現場で署名=宮崎・西都
「アベ政権は許さない!退場!」と仕事現場でポスターを掲げる本部さん
「アベ政治は、許さない」と憤る宮崎・西都民商の本部(もとぶ)真一さん=建築=は、ポスターを掲げ、現場仕事の休憩中に施主や下請けの業者らに対話・署名を広げています。
戦争法の強行採決はもちろん、消費税増税にも怒り心頭です。
「8%になった14年4月以降、新築工事は全くありません」と怒る本部さん。「地方創生の交付金も結局、プレミアム商品券としてばらまかれ、年金生活者や子育て世代の低所得者は、購入できない状況だ」とアベノミクスの失政を指摘します。「米国と一緒に戦争を推進して消費税増税や社会保障削減、地方経済を破滅に追い込む安倍政権は退場を」とレッドカードを突き付けます。
工場に「戦争立法NO!」ポスター=新潟・新津
「孫の未来のためにも絶対廃案」と力を込める山下さん
工場の入口に「戦争立法NO!」のポスターを掲示した新潟・新津民商の山下南さん=食品加工・販売。「4人の子ども、4人の孫を守るため戦争法は廃案にしなきゃ」と市場や駅前で署名集めに奔走しています。
山下さんは、幼い時から世界中で起きた戦争の恐ろしさを何度も両親に教えられて育ちました。痛感したのが「前線だけが戦場ではない」こと。宗教や思想の違いだけで住民が監視し合い、殺し殺される状況に陥る状況を聞いてきました。
戦争は地域や文化、人間性を粉々に破壊する―。残虐性に身の毛がよだつ思いでした。
戦後70年の節目の年に、日本が「戦争する国」に大転換させられようとする事態に、「平和憲法を世界に広めなければならないのに」と憤る山下さん。「廃止まで徹底的にやる。子どもと孫の未来のためにも」と決意を新たにしています。
木製9条ペンダント 普及し平和訴え=岐阜・飛騨
「9条ペンダントで戦争反対の声を広げたい」と話す平野さん
「今、日本がとんでもない方向に進もうとしている。これにストップをかけられたら」―。そんな思いを込めて、岐阜・飛騨民商の平野幸二さんが作った木製「9条ペンダント」が好評です。
平野木工所を創業して25年。豊富な木材を利用し家具や学習机などを製造してきました。安倍政権が戦争法案を国会に提出した直後、新日本婦人の会の会員から「運動に役立つものが作れないか」と提案されます。
民商の役員として、地域で憲法と平和を守る運動に取り組んできた平野さん。一緒になって考えついたのが木材を使った「9条ペンダント」でした。
ブナ材などを加工したペンダントは幅3a、長さ4.5センチ。重さも手ごろで、岐阜県内のデモや集会には欠かせないグッズに。1000個作製し、すでに500個を普及しています。
行きつけの喫茶店のママも購入してくれたと話す平野さん。「9条が壊されるのは許せない。そんな思いが共有できれば」といいます。
廃案へ追い込む展望は
戦争法案阻止のたたかいの舞台は参議院に移りました。衆議院での審議を通じて何が明らかとなったのか。廃案へと追い込む展望はどこにあるのか。衆院特別委員会の中央公聴会(7月13日)に野党側の公述人として出席し、廃案を求めた東京慈恵会医科大学の小澤隆一教授(憲法学)に聞きました。
違憲法案の再議決許さない 商売しながら世論を広げよう
違憲性ゆるぎなく
今回の強行採決は、政権与党が追い詰められた余裕のなさの表れと見ています。強行採決に抗議する6万とか10万の人々が連日国会を包囲し、内閣支持率も50%台から40%台、30%台へと短期間で約10%ずつ下落しました。自民党の高村正彦副総裁は「支持率を犠牲にしてでも、国民のために必要なことはやってきたのがわが党の誇るべき歴史」と言いますが、内閣支持率が危険水域の20%台に落ちたら、そんな大口をたたいていられないだろうし、そうした状況を生み出す必要があると思います。
衆院での審議を通じ、私は大きく二つのことが明らかになったと考えます。一つは、今回の法案の違憲性が揺るぎない事実だということです。
例えば、政府与党が合憲の根拠に持ち出す砂川事件の最高裁判決ですが、この裁判は安保条約と駐留米軍が憲法9条に反するかどうかが争われた事案です。裁判所は争われた事案の結論を出す場所なので、争われていない問題について最高裁がいくら判決理由を書いても、先例として扱うに値しないものです。しかも、集団的自衛権は合憲だとキッパリ述べているわけでもない。その辺に転がっている石ころをダイヤモンドだと大騒ぎしているようなものです。それを弁護士資格を持ち、憲法も砂川事件もよく分かっているはずの高村副総裁や北側一雄・公明党副代表が片棒を担いでいるので、私たち憲法学者は専門家として「それは間違いですよ」と言う使命がある。だから、皆さん声を上げているのだと思います。衆院憲法審査会で自民党推薦の参考人として今回の法案が違憲だと指摘した早稲田大学大学院の長谷部恭男教授に言わせれば「もう決着がついた」話なんです。
自衛隊にしわ寄せ
二つ目は、私が公聴会で述べたことですが、憲法解釈の変更だけで済ませようとして、つじつまの合わないことが生じ、その一番のしわ寄せを食らうのが自衛隊員だということです。本来なら憲法を変えなければ海外派兵などできないのです。しかし、改憲発議の要件を各議院の3分の2から過半数に低めようとした96条の明文改憲を行おうとして失敗した焦りから、解釈改憲で今回の法案を作った結果、自衛隊員にとんでもなく酷な要求をする結果になった。
例えば、重要事態影響法案と国際平和支援法案では、自衛隊員は「後方支援」という形で出て行きます。いずれも“他国の武力行使とは一体化しない”原則です。もし一体化してしまうと、憲法9条1項に違反するからなのですが、ところがその結果、もし後方支援の最中に―実は後方支援というのは自衛隊が米軍のすぐ近くで武器や弾薬の補給を一体となって行う兵站活動です―自衛隊員が米軍と一緒になって戦闘に巻き込まれ、相手に捕まった場合、米兵は正規の戦闘員ですから捕虜になれます。でも、自衛隊員は捕虜にしてもらえないのです。日本政府は、自衛隊員はジュネーブ条約で定められた捕虜には当たらないという立場です。「自衛隊員は戦闘員ではない。だから、捕まえられているのは不当だ。早く釈放しろ」と要求するのだそうですが、自衛隊員は米兵と一緒にいて武器も持っている。民間人としては、およそ説明のつかない活動をやっているわけで、民間人としての保護も受けられない。もし相手から「こいつは戦闘に勝手に参加しているテロリストだ」と言われたら、「違います」とは言えない立場になってしまう。こんなおかしなことが、派兵された自衛隊員の命と権利を軽視する形でしわ寄せされる―。
こういう話を公聴会でしたら、自民党席の方から「だから軍隊にすればいいんだ」とボソッとつぶやいたのが私の耳には聞こえました。自民党の特別委員たちは、憲法改正をしないまま自衛隊を送り出そうとするから、こんなつじつまが合わないことが起きていると分かっている。それを百も承知で、こんなとんでもない法案を強行採決で通したのです。政治家として決して許されない、責任放棄の行為だと思います。
国会正門前で「憲法守れ」などとコールする人たち(7月15日)
業者が店で運動を
参議院でも与党が多数なので、国会内の力関係だけでは、いずれどこかで採決されるでしょう。
参議院で採決されなくても「60日ルール」を使って、今国会中に衆議院の3分の2以上で再議決すれば法案は成立します。戦争法案を廃案に追い込むにはこの両方のシナリオを消すことです。参議院で採決できず、衆議院でも再議決できない状況をつくり出せばいいのです。
そのためには、参議院では徹底審議で戦争法案の違憲性や問題点を国民の目の前でさらに明らかにしていく。そして、衆院議員にも再議決を強行したら自分たちの身が危ないと思わせるぐらいの国会の外での圧倒的世論をつくることです。
その点で、業者の皆さんの役割は非常に大きいと思います。お店などの商売をしているということは、常に人の目に触れて仕事をし、人ともしょっちゅう会話している。そういう皆さんが「戦争法案反対」「安倍政治を許さない」との主張を掲げ商売をされるのは、勇気がいるとは思いますが、そこから会話が弾んで「実は、私も反対なんだ」となっていけば、「じゃあ、もう一つ買いましょうか」「まけとくよ」などとなって、戦争法案を廃案に追い込むエール交換の時間が生まれるのではないか。それができるのは、今の日本社会では一国一城の主で仕事をされている業者の皆さんだと思います。
60年安保の時、業者は「閉店スト」で店を閉めてデモに参加しましたが、今の時代は商売をしながら会話をした方がいい。
60年安保当時と比べて、民主主義は着実に成熟していると感じます。戦後教育の蓄積の中で憲法の重要性や民主主義、人権、平和主義の大切さが語られてきたことが、いま国民が声を上げる土台になっている。日常生活で憲法を意識することはほとんどないと思いますが、いざ戦争法案の問題が起こってみると、「どうでもいいや」ではなく、「憲法違反の法律はダメでしょう」「政治家が憲法を勝手に変えるな」と判断する力を国民は持っている。ぜひ業者の皆さんには商売を行いながら、戦争法案を廃案に追い込む世論を広げていってほしいと思います。
参院で徹底審議し廃案に
憲法59条の規定を乱用した違憲立法強行は許されない
立正大学客員教授・浦野広明さん
戦争法案(安保法案)が衆院本会議で可決され、衆院を通過した(7月16日)。これをもって、NHKは「法案成立の公算が大きくなった」とテロップや解説を繰り返し、「読売」「日経」「産経」も「今国会の成立が確実となった」と報じた(17日付)。
これら報道は、憲法59条(法律案の議決と衆議院の優越)を根拠としたのであろうが、同条は自動的に戦争法案が「成立」するものとはしていない。
一方、憲法60条の場合は、「予算の先議・議決と衆議院の優越」を規定しており、予算案は衆院の議決・承認から30日以内に参院で議決しない場合は、「自然成立・承認」となるとしている。
しかし、戦争法は予算案ではないから「自然成立」はなく、憲法59条が適用される。同条は「法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる(2)衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる(3)前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない(4)参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取った後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる」と規定している。
4項が、「参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取った後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる」としているのは60日の期間が経過すれば、当然に否決したものとみなされる効果が生ずるわけではない。「みなすことができる」とは、60日の期間が経過すれば衆議院は、参議院が否決したものとみなすという決議を「することができる」という趣旨であり、「しなければならない」という趣旨ではない。
参議院では徹底審議が求められる。衆議院でなされなかった法案の実質的審議をするためには、とても60日では収まりようがない。
与党の自民・公明は、徹底審議を求める野党の声にも耳を貸さずに、衆院の特別委で戦争法案を強行採決したのに続き、本会議でも強行した。十分な審議もせずに、数の力で主権者国民の多数意思を踏みにじった与党は、衆議院において参議院が否決したものとみなすという決議を「することができる」権限などない。
したがって、今国会で戦争法案を成立させることは、違憲(9条違反)の戦争法案を憲法59条の乱用によって強行するという、二重の憲法蹂躙であり、許すわけにはいかない。
各界にひろがる「反対」の動き
作家・映画人が一斉ポスター
「言論、表現、出版の自由の擁護」などを目的とする日本ペンクラブは7月16日、衆院本会議における安全保障法案強行採決に抗議、廃案を求めるとともに、「集団的自衛権の行使が日本国憲法に違反することは自明」であり「私たちは戦争にあくまでも反対する」との声明を出しました。
18日には作家・澤地久枝さん、浅田次郎日本ペンクラブ会長らが呼びかけた「アベ政治を許さない」と書かれたポスターを一斉に掲げる運動が行われました。
映画界で取り組まれている「私たち映画人は【戦争法案】に反対します」アピールへの賛同は446人に広がり、山田洋次監督、俳優の大竹しのぶさん、吉永小百合さんらも名を連ねています。
全国52の弁護士会が意見書
「基本的人権を擁護し、社会正義を実現する」(弁護士法第1条)ことを使命とする弁護士も戦争法案反対の声を広げています。
日本弁護士連合会(日弁連)は6月18日、全国52の単位弁護士会の会長全員と役員85人が全会一致で、安保法案を「違憲」とする意見書を採択。52の単位弁護士会でも会長声明などで反対の意思を示しています。
集団的自衛権の行使を容認する閣議決定の撤回と関連法律の改正等を行わない署名運動にも取り組み、各地で弁護士会の呼び掛けによる大規模な集会も開催。
京都や愛知、仙台、千葉などでは歴代弁護士会会長による声明も出され、街頭でも戦争法反対の演説を行っています。
1万2461人の学者が声上げ
学者61人が6月に呼びかけた「安全保障関連法案に反対する学者の会」のアピールへの賛同は、わずか1カ月余りで1万人を突破し、1万2461人にのぼっています。
アピールは「学問と良識の名において、違憲性のある安全保障関連法案が国会に提出され審議されていることに強く抗議し、それらの法案に断固として反対」と呼びかけています。
ほかにも集団的自衛権行使容認に反対する学者らでつくる「立憲デモクラシーの会」や憲法研究者の会、分野を超えた14の研究団体も声明を発表しています。
全国商工新聞(2015年8月3日付) |