集団的自衛権行使容認・憲法破壊許すな
集団的自衛権は軍事介入の口実
集団的自衛権が行使された事例は、政府答弁書によればこれまで14例に上ります(表)。安倍首相は「国民の命を守るために必要」と強弁しますが、実態はどうか。集団的自衛権を行使したのは米国や旧ソ連、イギリスなどの大国が小国への軍事介入の口実として使われたことが浮かび上がります。
ベトナム戦争では、米国は「南ベトナム政府からの要請」を口実に介入を開始。約500万人の市民が犠牲になったといわれます。
侵略した米国の戦死者は5万6000人、米国の次に多くの兵士を派兵した韓国も5099人に上り、南北ベトナム軍の戦死者も90万人に達したとされます。
01年のアフガニスタン戦争では、9・11テロ事件の犯人をかくまったとして米国が攻撃を開始。イギリスなどNATO諸国が集団的自衛権を行使して参戦しました。この戦争では、米国2325人、NATO諸国(21カ国)で1031人の兵士が戦死しています。
「安保法制懇」 集団的自衛権 容認派ズラリ
正式名称は「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(略称・安保法制懇)。5月15日、集団的自衛権行使を容認する報告書をまとめ、安倍内閣が進める解釈改憲のテコとなっています。
法令で設置される諮問機関(審議会)と違い、首相の“決裁で”設置された私的諮問機関にすぎず、その報告には法的拘束力はありません。
設置は第1次安倍内閣の07年4月。政権交代などで報告書(08年6月)は棚上げされていましたが、12年の第2次安倍内閣発足で再開されました。
構成メンバーは別表の通り。驚くのは、すべて集団的自衛権行使容認派で占められていること。第2次メンバーには、新たに細谷雄一慶応大学教授が加わったものの、行使容認メンバーでした。
法律の専門家は西修・駒沢大学名誉教授一人ですが、憲法学界の中では、憲法9条改正を唱える少数派です。
なお、同懇談会をめぐっては、5月29日の参院外交防衛委員会で、7回開いた正式会合とは別に8回の非公式会合を行っていたことが明らかになっています。
元防衛官僚など 集団的自衛権反対広がる
集団的自衛権の行使容認に反対する声が、政府内にいた元法制局長官、防衛省高官、文化人、憲法学者、作家など、これまでの枠を超えて大きな声となって広がっています。
安倍政権の解釈改憲による集団的自衛権行使容認の阻止をめざすとして3月4日に発足したのが「戦争をさせない1000人委員会」。作家の大江健三郎さん、落合恵子さん、映画監督の山田洋次さん、俳優の菅原文太さんら110人が呼びかけたものです。
国会内の記者会見で、奥平康弘・東大名誉教授は「集団的自衛権の容認は日本が米国の手足となり、戦争に参加できる国にすること」と批判しました。
「憲法に従った政治を回復するためにあらゆる行動をとる」と宣言し、「立憲デモクラシーの会」が設立されたのは4月18日。
ノーベル物理学賞を受賞した益川敏英・京都産業大学教授、丹羽宇一郎・元中国大使など学者・研究者を中心に1000人が名前を連ねています(9日現在)。
「安保法制懇」に対抗して結成されたのが「国民安保法制懇」(5月28日)。大森政輔、阪田雅裕の両元内閣法制局長官に加え、孫崎享元外務省国際情報局長、小林節慶応大学名誉教授などが構成メンバー。記者会見で阪田雅裕元法制局長官は「私たちは反戦・護憲運動をやってきたわけではない」としつつ「政府が示してきた9条の規範は一つしかない。外国の軍隊のように海外に行って武力行使はできないということだ」と語りました。
6月7日には設立された「自衛隊を活かす21世紀の憲法と防衛を考える会」には柳澤脇二元内閣官房副長官補や伊勢 賢治・東京外国大教授らが参加。「自衛隊から一足飛びに『国防軍』となり、集団的自衛権行使に進む方向でもないと考えています」と、趣意書で述べています。
また、日本弁護士連合会の村越進会長、作家が集まる日本ペンクラブの浅田次郎会長が集団的自衛権の行使容認に反対の声明を出しています。
全労連、自治労連、出版労連、連合などの労働組合や日本原水協、憲法会議などの民主団体も相次いで抗議、反対の声明を出しています。
新聞社 集団自衛権反対表明が多数
解釈改憲による集団的自衛権行使容認に対し、一部の大手マスコミを除き、多くの新聞が反対の社説を掲げています。
安保法制懇が集団的自衛権行使を認める報告を出した翌5月16日には、「朝日」が「戦争に必要最小限はない」との見出しで「憲法に基づいて政治を行う立憲主義からの逸脱」と批判。「東京」は「『解釈改憲』が許されるのなら、憲法は法的安定性を失い、憲法が権力を縛るという立憲主義は形骸化する」としました。
地方紙も相次いで社説で取り上げ、京都新聞は「9条の骨抜き許されず」、信濃毎日新聞は「考えているのか命の重さ」、沖縄タイムスは「戦争する国になるのか」などの見出しを掲げました。
また、ニューヨークタイムズ、中央日報(韓国紙)などの海外紙も社説で批判。中央日報は「日本の専守防衛の原則は事実上、死文化する。自衛隊が日本の外側で戦闘できる道も開かれる」としました。
全国商工新聞(2014年6月23日付) |