憲法を輝かせ 商売と暮らし守ろう
改憲問題が参議院選挙の一大争点として浮上してきました。自民党は憲法改定の第一歩として憲法改定の発議要件を緩和する法案を今国会にも提出する構えです。日本維新の会やみんなの党も同調しています。そもそも憲法とは何か、改憲の狙いはどこにあるのか、たたかいの展望は―。漫画を交えながら解説します。
憲法96条改定の危険な狙い
本命は9条の全面的な改悪 戦争する国家へつくり変え
改憲勢力の最大の狙いは戦争をしない、戦力を持たない、国の交戦権を認めないことを定めた憲法9条を全面的に改悪することです。その核心は日本を戦争できる国につくり変えることにあります。
自民党の石破茂幹事長は13日、テレビ番組で「96条の改正が憲法9条の改正に直結している」、参議院選挙では96条の改定を掲げるので「それを念頭において投票してもらいたい」と危険な本質を示しました。
政府はこれまで(1)武力行使を目的とした海外派兵(2)集団的自衛権の行使(3)武力行使をともなう国連軍への参加 ― は憲法上許されないという見解を示してきました。改憲勢力はその歯止めを取っ払い、アメリカが仕かける戦争に日本の自衛隊がいつでも参戦できるようにしようとしています。
自民党は改憲草案(参照)で「自衛権を制約なく行使できるよう規定し、自衛隊を『国防軍』にすべき」と主張。日本維新の会も9条の改悪を狙い、自衛のための戦力保持や個別的・集団的自衛権の行使、国家非常事態条項の新設などを提起しています。
同党の石原慎太郎共同代表は朝日新聞のインタビューに答えて「憲法を改正しなければならない」「日本は強力な軍事国家、技術国家になるべきだ」「核武装を議論することもこれからの選択肢だ」と暴言を吐き、9条改定の旗振りをしています。また、みんなの党も集団的自衛権が行使できることを求めています。
日本は侵略戦争と植民地支配の反省に立って二度と戦争をしないことを誓い、戦後一人の外国人を殺すことも、一人の戦死者を出すことはありませんでした。それは9条があったからこそです。その9条を改定することは、国の在り方を根底から変えるものです。
96条改定は立憲主義の否定 憲法は国家権力を縛るもの
改憲派が96条を改定しようとしているのは改憲手続きのハードルを低くするためです。96条は改憲手続きを定めた条項で、改憲をするためには「各院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が発議し」国民投票の過半数の賛成が必要で、通常の法律制定の規定よりも厳しくなっています。
改憲派はこの発議要件の「3分の2」を「過半数」に緩め、国会の過半数を占める政権与党だけで改憲ができるようにしようとしています。
近代の立憲主義において憲法は、主権者である国民が国家権力を縛るという考えに基づいてつくられています。国家による権力の乱用から国民の自由を守る。これが憲法であり、立憲主義の立場です。ですから、手続きが厳しいのは当然で通常の法律と同様に「過半数」にしてしまえば、時の権力によって憲法が都合のいいように変えられる危険性があります。憲法を改定するためには国会の圧倒的多数が合意してはじめて発議ができる、それが立憲主義の在り方です。
改憲するには「国民投票がある」という声もありますが、国民投票は発議した内容の是非を問うもので、「改正」案の内容を変えることはできません。
さらに国民投票法(07年5月第1次安倍内閣で成立)では最低投票率の定めがありません。投票率が50%前後だった場合、わずか20%台の賛成で改憲が成立してしまうという重大な問題が含まれています。
また発議から投票までの期間を最短で60日としています。こんな短期間で憲法のどこをどう変えるのか、その内容が国民に伝わるかという問題もあります。96条の改定論は“権力を縛る”という憲法の本質を変えてしまう大改悪なのです。
日本の憲法は「世界でも特別に変えづらい」といわれますが、別表のとおり、多くの国は通常の法律をつくるよりも厳しい規定が設けられています。これは国民主権と立憲主義の要請に立ったものです。日本だけが特別に憲法改定が難しいという主張はまったくのでたらめです。
国民の自由と人権を制限 自民党改憲草案
国民主権を撤廃 国民に憲法尊重の義務
自民党の改憲草案では「良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため」と制定の目的を前文に明記しました。
「天皇中心の国家」の打ち出しは顕著で、前文は「日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって…」と始まります。「戴く」という最上級の謙譲表現を用いて、天皇を敬い、国家の中心に据える立場を鮮明にしています。天皇条項では「天皇は日本の元首」(1条)と規定し、新たに「公的な行為」も認める(6条5項)など権限を拡大。また国旗は日章旗、国歌は君が代と規定し、「日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない」(3条)と国民への強制を述べています。
自民党は国民主権の原則を撤廃し、「天皇中心国家の継承・維持のため国が国民を縛る」国家体制をつくろうとしているのです。
さらに現憲法で天皇や国会議員、公務員に課している「憲法尊重義務」を全国民に課すようにしました(第102条)。これは立憲主義に基づいて国家権力を縛っていた憲法の本質を大転換させるものです。
「国防軍」を創設 不戦への誓い投げ捨て
改憲草案は、今までの憲法の前文を全面的に書き換え、重大な内容を破棄しています。その一つは侵略戦争への反省と不戦への誓いを投げ捨てたことです。
もう一つは「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有する」とうたった「平和的生存権」。平和的生存権は戦争こそ最大の脅威であり、平和であってこそ人権保障が可能になることを確認したもので、それを破棄することは憲法の原点を否定するものです。
改憲の最大の狙いである9条も全面的に書き換えました。「戦争放棄」(同1項)は「基本的に変更しない」としつつ「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」(同2項)を完全に削除。草案2項には「これ(1項の戦争放棄)は自衛権の発動を妨げるものではない」と明記し、新たに「内閣総理大臣を最高司令官とする国防軍」を創設しようとしています。国防軍を持ち、世界のどこにでも出て行ってアメリカと一緒に戦争する国に大きくつくり変えようとしています。また、「主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない」(同3項)と国民に対して国防軍に協力することを求めています。
人権の制限強化 緊急事態条項盛り込む
改憲草案は「戦争する国」づくりの一環として緊急事態条項を盛り込みました。
第98条では内閣総理大臣が「武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等」が起きた場合、緊急事態を宣言すると明記しました。
100日を超えるときは、「100日を超えるごとに国会の承認を得なければいけない」(同3項)とするなど、異常なほど長期間にわたって国民を戒厳令下に置こうとしています。
緊急事態の創設は東日本大震災と福島第1原発事故後、改憲派が盛んに強調してきたもので、大規模な自然災害を口実に国民の権利を停止して、政府が独裁的権利を行使できるようにしようというものです。
また「国その他公の機関の指示に従わなければならない」(99条3項)と国民に対して服従義務を書き込みました。
「基本的人権に関する規定は、最大限尊重しなければならない」としましたが、国民の権利が制限・停止している中で基本的人権が尊重される保証はまったくありません。
幅広く義務強要 基本的人権、国民主権を削除
改憲草案は基本的人権を大幅に制限し、国民を支配しようとしています。現行の憲法前文でうたっている人権尊重主義や国民主権を「人類普遍の原理」と宣言した規定や平和的生存権を削除しました。
さらに憲法が最高法規であることの根拠を示した97条「基本的人権の保障」も全面削除しました。
代わりに天皇中心の国家の継承や国防義務、家族や社会における自助・共助の義務をはじめ、日の丸・君が代尊重(第3条)、領土資源確保義務(9条3項)、公益及び公の秩序服従義務(12条)緊急事態指示服従義務(99条3項)、憲法尊重擁護義務(102条1項)など国民に義務を求める条文を定めました。
また改憲草案では、表現活動、結社の自由にも異常な規定が盛り込まれました。「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは認められない」(21条2項)とするなど驚くべき内容が含まれています。さらに政党や団体を規制するのは活動だけではなく結社そのものを禁止しています。
一方で緩和したのが政教分離原則です。改憲案は「国が宗教団体に特典を与えてはならない」(20条1項)にとどまり宗教団体による政治上の禁止規定を除外しました。また政治家が私費で靖国神社を参拝するなどを正当化する規定も盛り込みました(20条3項)。
古い価値観復活 所得税法56条廃止に逆行
改憲草案は、新たに「家族」条項を新設しようとしています。
草案では「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならい」(24条1項)と規定しました。家族の絆が薄くなっているので、家族を尊重して助け合わなければならないというのが新設の理由です。
しかし「個人」ではなく「家族」を社会の基礎単位と位置付けることは「家族生活における個人の尊重と両性の平等」をうたった憲法24条を侵害する改定であり、古い価値観を復活させることにつながります。
近年、家族の在り方は多様になり、ライフスタイルや生き方など個人が決めることで国家が介入すべき問題ではないことはいうまでもありません。
また、古い価値観の復活は、全商連婦人部協議会(全婦協)が長年取り組んでいる所得税法第56条廃止の運動にも背を向けるものです。
56条は「事業主の配偶者やその親族が事業に従事したとき、対価の支払いは必要経費に算入しない」と家族従事者の「働き分」を正当に認めていません。これは一人ひとりの人権を認めない封建的「家制度」の名残で、廃止を求める声が大きく広がり、364を超える自治体が廃止を求める意見書などを国に提出しています。
全国商工新聞(2013年4月29日付) |