全工程に熟練の技 本当の価値知ってほしい=加賀友禅
500年の歴史があるといわれる加賀友禅。色調や絵柄に大きな特徴があります。また、デザイン(図案作成)から手描きによる彩色など12の工程に、作家がすべての責任をもちます。「全工程に熟練の技術が求められる。加賀友禅の本当の価値を知ってほしい」と話す金沢白山民主商工会で常任理事を務める北澤寛司さん=友禅糊置=の案内で、彩色、糊置き作業の匠に迫りました。
「糸目糊置き」は根気のいる仕事
「糊が命」と話す作家の太田さん
筆を使って彩色作業を進める安澤さん
滝をデザインしてつくった着物。「糊ふり」技法で描かれています
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熟練の線引き=糊置き
彩色の前の大事な工程に「糊置き」作業があります。図柄の線や白地など染めたくない部分に糊を置いて防染するのが目的。色が混じり合うことを防ぐために、下絵の線の上に糸のように細く糊を置くのが「糸目糊置き」で、染料がはみ出さないようにする堤防の役割を果たします。
糊置きは北澤さんの主な仕事。「昔はもち米でつくった糊しかなかったが、近年はさまざまな技法が多用でき、引きやすいゴム糊も増えてきた」といいます。
「糸目糊置き」は「糊置き筒」という道具を使い、筒の中に入った糊を絞り出しながら一本一本の線を丁寧に引く、根気のいる作業です。
微妙な色調を表現=彩色
真っ白な生地に、赤、黄、緑などの染料が少しずつ落とされ、色鮮やかな野菜や果物が描かれていきます。物音がしない静寂な空間は、時が止まったかのよう。加賀友禅作家の久恒俊治さんの工房では、友禅染めののれん作りが進んでいました。
凛とした姿勢を崩さず、筆をとるのは弟子の安澤祐加さん。色をつけては卓下の電熱器で布をあたため、乾いた後の色調を確かめます。細かくて根気のいる彩色作業ですが、「次の色は決めていない。考えながら進めるのが醍醐味」と言います。
ブラシなどをこすって糊を飛ばしながら置いていく「糊ふり」という技法もあり、加賀友禅の装飾効果を高めています。加賀友禅作家の太田正伸さんは「糊ふりは、始めたら一気にやらなければならない。汗だくになりながらやるので体力がいる。作業場はとても見せられたものではない」と笑います。
この技術を継承するのは加賀友禅で今や3人といわれています。大変な労力を必要としながらも、その評価が低いためです。「糊ふりの価値が分かる人からは執念だねと言われる。加賀友禅は糊が命。技術を絶やしたくない」と気を引き締めます。
加賀友禅の起源は500年前。加賀の国の染め技法であった「梅染」から始まり、1712年に宮崎友禅斎が金沢に登場したのをきっかけに大きな発展を遂げたといわれています。藍・臙脂・黄土・草・古代紫の加賀五彩を基調とし、草花模様などが特徴。写実性を高めるための「先ぼかし」「虫喰い」といった技法が有名です。
「伝統的なデザインにこだわる作家もいますが、近年は多くの人に好まれるように、色調や絵柄も多彩になっている」と先の久恒さん。来春向けの着物デザインを構想中です。
「本当の価値を知ってほしい」と話す北澤さん(中)。左は作家の久恒さん、右は弟子の安澤さん
加賀友禅 …友禅とは、布に模様を染める技法のひとつ。江戸時代に京都で活躍した扇絵師・宮崎友禅斎から名づけられたといわれている。
京友禅の技法が加賀藩(現在の石川県)金沢で独自の発展をしたものを加賀友禅という。
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