脱サラでこだわりの豆腐店 「おいしさ」に魅せられ =豆腐工房まめや
こだわりのかまど炊き・手絞り
地元・長野県伊那産の大豆を使い、昔ながらのかまど炊きと手絞りで作る豆腐。自ら配達して消費者の元へ届けます。「大量生産はできませんが、地元業者だからこそできる商売のやり方があります」。上伊那民主商工会(民商)青年部の青木智さん=豆腐製造・販売=は、地域に根を張りつつ商売を行っています。
仕上げの包丁入れに集中する青木さん
ざる豆腐をすくう従業員のみなさん
JR伊那市駅から車で約40分。市街地から離れた標高900メートルの山間の集落に「豆腐工房まめや」はあります。
工房内に入ると、大豆が炊ける甘い香りとまきがはぜる微かな音が。「かまどと地釜で大豆を煮ている豆腐屋は、うちを含めて全国でも数軒だけなんです」と青木さん。大豆が煮あがる時に噴き出す泡を抑える消泡剤を使わず、昔ながらのささら(竹製の道具)で地釜をかき混ぜながら話します。
豆乳を絞るのも手作業です。専用の袋に地釜の中身を入れ、圧搾機を使いながら豆乳が出なくなるまで何度も作業を繰り返します。「手間のかかることを…と、同業者にも驚かれるかもしれません。でも、これで大豆のうまみを逃さず、うちの製品の売りになります」。大豆をかまどでじっくり炊き上げて作った豆乳は素材の味を引き出した素朴な味わいで、「甘くておいしい」と近所の人が毎朝買いに来ます。
豆乳を固めるのも凝固剤ではなく天然にがりを使用。口コミで評判が広がり、現在1日約30軒に配達、お客さんは300人以上にまで増えました。豆腐は1丁(450グラム)300円からと安くはありませんが、地元産大豆や無添加にこだわった豆腐は、安心と安全を求める消費者に支持されています。
民商青年部の仲間・馬場毅さん=カイロプラクティック、有坂ちひろさん=カフェ・図書管理、武藤恭子さん=カフェ=が経営する店「カフェ&カイロ有報堂」にも豆腐を届けています。「まめやさんの豆腐を使った週末限定のどんぶりや豆乳プリンは、お客さんにも好評です」。
自然の中で生き安心の素材使い
諏訪市出身の青木さんは東京の大学を卒業後、地元企業に就職。しかし大学時代に知った有機農業の魅力と、“自然の中で生きる”という生き方への思いが強くなり約4年で退職しました。在学中に訪れた有機農業を行うグループで出会った手作り豆腐のとりこになったことから、豆腐屋の開業を決意。
「出来立ての豆腐を食べたとき、あまりのおいしさに感動したんですよ」。しかし一度も豆腐を作ったこともない全くの素人で、最初は失敗の連続でした。「最初はにがりを入れても豆乳が固まらなくて」。開業前に地元や和歌山などの手作りにこだわる同業者を訪ねて修業し、試行錯誤を繰り返しました。退職から約1年後の07年、豆腐屋を営んでいた方から現在の工場を借り受けて「まめや」を開業。「どうすればおいしい豆腐を作れるのか、日々研究を重ねています」。
新店舗開き交流の場に
まめやはもうすぐ新工場を、そして春には新店舗をオープンします。集落にある使われていなかった建物をリフォームし、製造場所と販売スペースを確保。油揚げなどの揚げ物を新たに追加する予定です。販売スペースでは、地元で取れる有機農産物や日用品も置きたいと考えています。「ここは山深く、車がなければ買い物もままならないんです。地元のお年寄りや子どもが気軽に立ち寄れる、コミュニケーションづくりの場にしたい」と青木さんは話します。
新工場に製作中のかまどを青年部の仲間
ファンと仲間に支えられて商売
新工場でも、大豆の炊き上げに専用のかまどを使います。かまど製作は青年部の仲間=左官=に頼み、2人で和歌山のかまど製作経験のある左官職人を訪ねて研究を重ねました。「話を受けた時は、やったこともないしどうしようかと考えました。でも引き受けてみようと思って」と湯澤さんは笑顔で話します。
店舗の内装工事は青木さん自身が手がけ、12月には青年部の仲間が壁塗りを手伝いました。コテを片手に「ちょっと分厚いんじゃない」「記念になるね」とにぎやかに、真剣に店舗作りを手伝いました。
工場・店舗の移転には800万円の融資が必要で、県の創業支援資金を申し込みました。その際に「おいしい」「地域に根付く豆腐屋を今後も応援したい」「伝統技術を継承していて良い」など、30人余りの消費者の声を書いて提出。根強いファンに支えられている点をアピールし、融資が実行されました。
「みんなに支えられ、まめやがある。だからこそこの地域に根を張って、家族や仲間や地域の人たちと商売を続けていきたい」青木さんの熱い思いです。
▽豆腐工房まめや
長野県伊那市高遠町山室1790 TEL 0265―94―2024 http://tofu-mameya.jugem.jp/
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