事業継承ホントのトコロ=くず製造卸・吉野庵
「くず湯と聞くと皆さん、冬のイメージを持ちますが、クーラーで冷えた体を温めるのに、夏にも良いものですよ」と穏やかに話すのは、奈良民主商工会(民商)の浜中宗治さんです。03年に父・達也さんと有限会社吉野庵を設立し、「吉野本くず」の全国販売を展開し、新商品の開発に力を入れています。
中央が宗治さん。その右が父・達也さん、左が母・順子さん
「本くず粉を100%使用した本格的な『くずきり』や『くずもち』を直接お客さまに提供したい」―。卸売りだけではなく将来的には店舗を構えた販売に乗り出したいという夢に向かって挑戦する宗治さん。「本くず粉だけで作ったくずきりは、長時間の保存ができず、時間がたつと風味が落ち、味も食感も全く変わってしまうんです」とくずきり作りの難しさを語ります。「本物のくずきりの味は最高です。それだけに本物を多くの人に味わってもらいたい」との思いで新商品開発に励む毎日です。
ピザ店で5年間店長になったが
宗治さんは高校卒業後、ピザ店でアルバイト。22歳までの5年間働く中で、正社員となり店長まで任されましたが、正社員といっても給料はアルバイトの時よりも低く退職しました。新たな就職先を探しますが、大変な就職難の時期。進路を悩んでいたとき、父・達也さんから「新たにくずを販売する会社を立ち上げる。商売を手伝ってくれないか」と声を掛けられました。
浜中商事を営む達也さんの本業は不動産業。20年前に知り合いから頼まれたことを機に、くずの製造卸も始めました。
手伝いのつもりで仕事を始めた宗治さんは「知識は全くなく、くずを知ることからスタートしました」と話します。自分なりに勉強を進めると、各地には有名な「くず粉」がたくさんあることが分かりました。その中でも奈良県の吉野くずは、良質の水と冬の寒さが厳しい吉野地方だからこそ作れる高級品だと知りました。
「父は吉野くずが昔の製法で作られていることにこだわり、良質のくず粉を求めていました」と宗治さん。達也さんのくず粉へのこだわりを知り、疲れを一切見せずに働く姿を見ているうちに、中途半端な気持ちではなく本気で事業に取り組むことを決めました。そして、一緒に「吉野庵」を設立することになったのです。
宗治さんが最初に手がけたのが、会社のホームページの作成です。店舗がなく製造卸のみでの営業だったので、ホームページで販路拡大を図ろうと考えたもの。
それまでパソコンをいじったことがなかったものの、独学でパソコンを勉強。6年前にホームページを開設しインターネット販売を始めました。
冬のイメージが強いくず湯は、夏になるとネットショップではなかなか注文が来ません。年間を通して注文が来るように、ネットショップ限定商品や“あっさりくず湯”などオリジナル商品を作ってきました。
1日でも早く店舗開きたい
宗治さんは「インターネットではお客さまとの会話がありませんがリピーターになってくれたり、特別な日の贈り物に選ばれたときはとてもうれしいです」と笑顔。「9月から通販会社で商品を扱ってもらえることになりました。お客さまに直接接客ができない分、魅力あるホームページで商品の発信を行っていきたい。頑張って1日も早く店舗を開きたいですね」と抱負を話します。
前向きなら失敗も良し 父・達也さん
大変な時代に後を継ぐのだから覚悟をしてほしい。景気が悪いと、菓子の売り上げは落ちます。これからもっと厳しくなると思うけれども負けずに頑張ってほしい。
事業で前向きに考えた末の失敗ならそれも良し。多くのことを経験し成長してもらいたい。宗治は性格がおとなしいので何事も積極的に出かけ経験を積んでほしいです。
吉野本くず粉100%の「くずきり」
くず粉の薬効
くず粉は、葛根(かっこん)をつぶしてでんぷんを取り出し、水にさらす作業を何度も繰り返し、アクと不純物を取り除きます。最後に塊を自然乾燥させて完成。良質のくず粉を作るためには、水は清く冷たくなければならず、空気は乾燥していなければなりません。奈良県の吉野くず、石川県の宝達(ほうだつ)くず、静岡県の掛川くず、三重県の伊勢くず、福井県の若狭くず、福岡県の秋月くずなどが有名です。
くず粉は薬効を持っており、体を温め血行を良くします。風邪の引き始めに葛根湯(かっこんとう)を飲む民間治療薬として古くから珍重されています。
吉野庵のくず湯
有限会社吉野庵
くず製品の製造・販売。
吉野本くず粉・くず湯を通信販売しています。 ホームページは「吉野庵くずゆの里」http://www.kuzuyunosato.com/で検索して下さい。
父・達也さんと二人三脚で経営しています。
奈良市東九条町1014の61
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