スクール・ニューディール構想生かし仕事確保を
「安売り」が当たり前となっている家電業界。地上デジタルテレビを学校に導入する「スクール・ニューディール構想」でも大手量販店などが各地で安値落札を繰り広げています。家電業界をめぐる問題を、東京都電機商業組合(東京商組)の関山一郎理事長に聞きました。
学校への地デジテレビを落札しているのは、大手家電量販店や事務機器卸の商社がほとんどです。私の知る限り大手の入札価格は低く、地域の電器店ではなかなか対抗できないのが実態です。
業界の枠を超えて連携を強めたいと話す関山東京商組理事長
構想の精神かけ離れる
しかし「スクール・ニューディール構想」は、「中小企業の受注機会の増大に努め…地域の活性化に資する」ということで取り組まれているものでしょう。各地の入札結果を聞くと、この精神とはかけ離れていますね。
それでも地域の電器店や組合が頑張って落札しているところもあります。私が支部長を務める東京商組の町田支部もその一つです。メーカーの協力も得ながら昨年11月、800台のテレビなどを約7000万円で落札しました。3月末までに設置工事を行うわけですが、これがかなりの仕事量で、納入スケジュール調整など眠れない日々が続きましたね。
渋谷や八王子でも組合の支部として落札し、その中で組合員も増やしています。地域の店に仕事が回れば、地域経済も活性化する。何よりアフターサービスやアフターケアが量販店とは違います。「売る」だけではない「人と人とのつながり」が地域の店にはあるからです。
今、地域の電器店は疲弊しています。後継者難もある。最大の問題は、大手量販店と地域電器店に対する仕入額の差別です。大量に家電を仕入れる大手量販店の安売りはとどまるところがありません。一方、地域の電器店は100万円以上の仕入れをしなければ、メーカーのセールスマンもカタログも来ない。弱者が切り捨てられている。実は組合員の7割がそういう人たちなのです。
今や、家電製品の市場流通価格を決定しているのはメーカーではなく大手量販店です。量販店と契約している家電の設置業者の工事金額も低く抑えられていると聞いています。「売ればいい」という風潮で、家電業界の未来はあるのかと言いたいですね。
各地の学校で設置される地デジテレビ(東京都内)
対策とらぬ政治に責任
この点では政治の責任が大きいですよ。私たち組合は何度も公正取引委員会(公取委)に大手量販店の「不当廉売」や「優越的地位の乱用」を申告してきました。ところが、公取委の答えは「調査したが、該当しない」の一言だけ。もうあきれ果てています。
私たちの業界のあり方も問われています。私自身、昔はテレビを作っていた技術屋でした。当時は「壊れているから直せない」なんていう言葉は口が裂けてもいえない時代でした。それだけの誇りがあったんですね。今は、ちょっと壊れると「新製品を買った方が安い」と購入を勧める。デジタル化しているから、修理の方が高くつくというわけですが、ものによっては部品があれば簡単に安く直すことができます。
もともと地域の電器店はお客のいない地域で店をつくり、修理をすることで地域の信頼を得てきました。農家の人のように種をまき、草を取り、そして実りを収穫することが大事なのです。実りだけを刈り取っていたら、畑そのものがダメになってしまいます。
地域に根づいた電器店をどうつくりあげるか。その一つが高齢化社会のなかにおける地域電器店の役割にあると考えています。
例えば、NHKの受信料免除の申し込み件数は都内で5万6000件です。このうち地デジ移行の工事が終わったのは549件(2月1日現在)に過ぎません。弱者のところに光が当たっていない。そうした問題に取り組むことが地域の電器店の役割ではないか。
商工新聞の報道必要な情報得る
同時に、業界の枠を越えて同じ悩みを持つ業界団体との連携を視野に入れて行動を共にする必要性を感じています。京都市の学校への地デジ導入でヤマダ電機が独占的に落札したのを知ったのも、仲間から送られてきた全国商工新聞(本紙2月22日号)でした。驚きもしたし、組合の役員として責任を痛感しました。本当に必要な情報が組合員に伝わっていないのです。
民商さんとは立場の違いもありますが量販店による不当廉売問題などは一致した問題です。何が協力できるのか、連携できるのか。組合だけではなく、一緒にやれることは力を合わせていきたいですね。
電器商組も落札
スクール・ニューディール構想 各地の動き
群馬県高崎市
ヤマダ電機の本社所在地だが、市教育委員会が発注した地デジテレビ1190台の入札で、群馬県電機商業組合高崎支部が大手家電量販店などを抑えて落札した。市教委は、価格のみを判断する従来の方式に加え、品質確保、納入体制の確保、地域活性化についての提案も評価する「総合評価」方式を採用した。
愛知県知立市
市議会で日本共産党の高橋憲二議員が地元経済活性化のため「家電業者が加入する家電商組合が入札参加できるようにすべき」と提案。同組合は入札に参加したものの、小学校7校分のうち6校分をヤマダ電機が独占受注。しかし、同社は仕様書にある備品を調達できないとして契約を辞退。市総務部契約検査係の担当者は「通常ではあり得ないこと。不誠実な行為」としてヤマダ電機岡崎営業所を3カ月間の入札参加資格停止処分とした。
福岡県北九州市
09年6月議会は「WTO政府調達協定による入札制度の適用を受けるため、地元企業への緊急経済・雇用対策の効果が望めないものとなることが懸念される」として、執行にあたり「緊急経済・雇用対策となるよう強く求める」とする付帯決議を全会一致で採択。しかし昨年12月9日の入札では、コジマ電機、ヤマダ電機、ベスト電器の大手量販店3社が金額にして97%を独占受注。
電機商業組合連合会とは 電気機械器具の小売を業とする人たちによって組織される団体で、東京都をはじめ全国46都道府県(沖縄県を除く)にあり、全国団体は全国電機商業組合連合会。組合員数は全国で2万4000企業。
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